憤怒の力
それは、彼女にとって、遠い遠い記憶……。
『俺は⬛️⬛️・⬛️◾️⬛️⬛️。⬛️⬛️でいい。よろしく』
『⬛️⬛️◾️⬛️、大丈夫だ。後は俺に任せろ。』
『……えっ、いっいや違うから!』
『わりぃ……少し、ドジった』
『ご、ごめんって!!!』
『……ありがとう、⬛️⬛️◾️⬛️』
その記憶は、どれも彼女にとってかけがえのないものばかり。
しかし、どんなに思い出しても彼の名前……更には己の名前までも忘れてしまった。
だが、彼がいたのは間違いない。
夢幻等ではない。
確かに、彼はいた。
そんな彼を彼女は愛した。
狂おしい程に愛した。
何時からかは、そんなのはわからない。
気付いたときから……彼を……。
しかし、彼女は。
愛しい彼を失った。
殺された。
奴等に。
そして、その愛しい彼の遺体をも奪っていった。
彼女は憎んだ。
奴等を。
しかし、彼女自身も問題があった。
それは、己が無力だったこと。
彼女は、憎悪に駆られ、奴等を根絶やす程に狩尽くす。
だが、それにとある神は危ういと判断した。
彼女は、己の邪魔をする[神格者]、[超越者]を葬った。
加えて、その[超越者]の中には最強なる存在も居たのだが、そんな存在をも葬ったのだ。
もう、彼女の憎悪は歯止めが掛からず誰の手にも止めることもない。
だからこそ、神が、彼女を止めにはいった。
が、数柱の神は彼女の手によって容易く葬られたのだ。
その時には、彼女は愛しい彼の遺体を奴等から取り戻した。
彼女の愛は強すぎた。
彼の遺体を、禁忌とする法を犯して小さな欠片とする。
禁忌まで手を出した彼女は、数柱の最高位神によって異空間に封印されるのであった……。
彼女は今でも思い出す。
彼の顔を。
彼の声を。
彼の言葉を。
だからこそ……。
だからこそ、彼女は。
目の前に突然現れた、もう、死んでしまった、愛しい彼と。
瓜二つの顔を持つ者に、酷く、悲しく、動揺してしまう。
雪の様な真っ白な白髪に、少女の様な容姿ではあるが、仏頂面なーーー。
(なん、で……?)
何故、あの人と同じ顔なの?
何故、ここまで、似ているのではなく瓜二つなのか。
(あんたは、なに、もの、なの……)
彼女の思考はぐるぐると何故、何故と問い掛ける。
長い、長い自問自答は、永遠に続くかと思われたが彼女は結論を着ける前に彼と瓜二つのその者に対して憎悪が生まれてしまう。
確かに彼と瓜二つだ。
だが、同一人物ではないのはわかっていた。
しかし、許せなかった。
愛しい彼と同じ顔を持つ者を。
死んだ者が生き返る筈はない。
例え目の前にいる彼と瓜二つの者が現れても、何も靡く事も惚れることもない。
見た目が、容姿が瓜二つでも、そこだけを愛した訳ではない。
彼と目の前の存在は、別人なのだから。
だからこそ、理不尽だとは自分自身わかっているつもりだったが彼と瓜二つの存在が許せなかった。
あの時、彼の悲惨な亡骸をフラッシュバックの様に思い出す。
それが、何より苦痛だった。
それを、何度も。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も……。
夢に必ず出てきた。
あれが、己の無力さの為にこういう結末になったと何度も突き立てられたかの様に思えるのだ。
だからこそ彼女は正常な判断が出来ず、怒り狂う。
その怒りの矛先は、彼と瓜二つの容姿を持つ存在であった。
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仮面女の様子がおかしいと感じたユキは直ぐに臨戦態勢に入った。ユキは仮面女に向けて放った右手の拳からは血が流れている。しかしそんなことを気にしている場合ではなかった。
何故なら、今まで壊れた機械の様にピクリとも動かずに倒れていた仮面女がゆらりと不気味に立ち上がっていたのだ。
まるで、起き上がり小法師の様に……。
「……っ!」
ユキは両手に氷の刀を生み出し、それを構えながらも周りにマンホール程の大きさの雪の結晶を幾つも周りに生み出していた。その雪の結晶はクリスタルの様に透き通ってはいるが、尖端が全てを刃の様に鋭い。それを回転させて放ってきたら大きな手裏剣の様にも使えるだろうか。
守りに関しては厳重に施されていたが、ユキにとってはそれでも不確定要素があったのだ。
それは……。
「その姿は……!」
仮面女の身体……というより、肌が全て褐色になっていた。
それは、まさしく[魔人族]の姿。
驚くのはそれだけではない。
彼女から爆発する様に常に放出させるその力はユキにとってもあまりにも無視をするのには不可能である。
その仮面女から放たれる力の正体は……。
「ガッ!?」
目にも追えぬ速さで、仮面女はユキの真正面に現れる。そして、表情を一切変えずユキの腹に向かって唸る拳を放ったのだ。しかも、確実に鳩尾に向かって放たれた。
反応が出来ず、鳩尾から更に捩じ込ませる様に仮面女の拳がめり込んでいく。更に力を加えられれば、細い華奢な身体を貫通してしまいそうだ。だが、実際に鳩尾からめり込まれた拳は客観的から見ても背骨近くまで到達しているのではないかと感じさせるだろう。その証拠にユキの口から血が溢れ落ちていく。
そのまま殴り飛ばされると思われたが仮面女は鳩尾にめり込ませた拳を直ぐに引き抜くと、次はユキの首を掴んだのだ。
首を掴んだまま上に持ち上げると、ユキの宙ぶらりんのままとなってしまう。足は着かず、両手に持った氷の刀でどうにかしようと仮面女に向けて振り下ろすがそれは叶わない。
仮面女が一瞬で放った[殺気]と[神気]によって、一睨みで氷の刃だけでなく周りに舞っている氷の結晶までもが破壊されたのだ。
完全に成す術もないユキは何とか逃れようとするのだが、仮面女がユキの首を締める力が強まっていく。
「な、ぜ、その、力を……」
「……」
仮面女はユキの問いに答えることなく、ミシミシと首の骨を片手で折ろうと確実に力を加えていく。ユキは意識が朦朧と血を吐きながらもその手から逃れようともがく。しかし、それは虚しくも仮面女はそのまま地面にユキを叩き着けるのである。大地は抉れ、それこそユキに致命的なダメージを与えるのであった。
《おのれっ!!!》
バラバラになった『影鏡の鎧』を修復させ、戦闘可能となったシャドーであったが、ユキを一瞬で沈めた仮面女をここで仕留めようと動いた。
だが、それも叶わない。
仮面女は、地面に叩きつけたユキとシャドー。そして未だに氷に身体を拘束されて動けない『神聖帝獣ナテアクナラ』を纏めて広範囲を氷の世界へ変えてしまったのだから。
辺りは全て、氷の山々。
ユキ・シャドー・そして『神聖帝獣ナテアクナラ』全員は氷の世界へ幽閉されてしまったのだ。
「……」
彼女は[魔人族]の姿、そして、その強大な力……[魔王の資格]は憤怒によって無限に倍増していく。それを何とか押し留め沈めながら刺さっていた愛用の薙刀を引き抜いてその場を後にする。
次の目的地はカグヤの首都キョウラクに存在する王宮。
恐らくそこには一足先に女神クシャルがいるのだろう。
仮面女はゆっくりとした足取りでそこへ向かうのであった。
うーむ……主人公の……どうしようかな…?




