王宮では……
遅れてすんまへん!!!
「まさか彼女が第二王女だったとは……」
「……どこで育て方を間違えたのだろうか」
倭国カグヤの首都である『キョウラク』に存在する王宮の奥。そこには王座に座る『カグヤの王』、そしてその横には倭国カグヤの将軍が守護していた。大将軍だけでなく副将軍の一人にその部下である騎士団長達も数名いる。他には宮廷魔導師達も王宮の中ではあるが警戒を怠っていない。
その王座から下に下れば、そこには一人の緑色の『森人族』が溜息混じりにカグヤの王へジト目で見ていた。その『森人族』とはシキの小尾の一つ、翠である。白と藍色の巫女の服にも見える魔導服をゆったりと身に纏い、肌は全く露出もない。美しくはあるがクールな雰囲気を放つ麗人であった。
そんな翠はカグヤの王に対して『ドMな娘をどうするんだ』と訴えかける様な眼差しをも向けている。カグヤの王は疲れた様に息を漏らしてしまう。横の大将軍も苦笑いである。
ぶっちゃけた話、ここにいる第二王女『シャルロット・カグヤ』のドMさにはもう諦めてしまっているのだが。しかし、ドMではあるが根はしっかりしているのだ。まあ、その根にもドMがしっかりと張り付いているのでもある。
簡潔に言うならば救いようがないドMなのだ。
「我が娘、『シャルロット』があの場に居れば問題無いだろう……頭は少しあれだが、実力はSSSランク。それに無理矢理止めようとしてもそれを掻い潜ってこの国を守ろうと翻弄するだろうからな」
「……確かに。彼女は子供達を守ろうと……している、のでしょうね?」
「そう思ってくれ。……で、だ。状況はどうなのだ、宮廷魔導師長」
「はっ!現状は冒険者『七大クラン』と冒険者Sランク以上、そして騎士隊長達が率いる小隊によって北部・西部・東部は何とか被害を食い止めています。南部、ですが……」
宮廷魔導師の長、初老の宮廷魔導師長はカグヤの王に状況を述べながら報告していく。何故直ぐに状況がわかったのかは各正体のリーダーである騎士隊長等が通信玉によってこの場にいる魔導師達に即時報告を伝達されているからである。まだ『女神クシャル』とその眷属が攻め込んで一時間も経っていないのだ。しかしながら迅速に各小隊が出動しており大きな被害を出す前に辛うじて押さえられている。これは『七大クラン』と他のSランク冒険者以上の存在も大きい。
だが、魔導師長が言う通り倭国カグヤの南部はあまり良くない状況である。そう、その南部とは現在仮面女と『漆黒の化け狐』が衝動している地域なのだ。
翠は宮廷魔導師長の代わりに状況を説明する。
「私の分身が、神の眷属の一人であろう女性と交戦しています。既に奥の手を使っていても正直抑えるのも時間の問題…………ッ!」
最後まで言おうとした翠であったが、突如顔色を変えてふらりと目眩を起こしたかの様な状態になってしまう。そして思わず右手に持つ魔法の杖で支えながらも左手で頭を押さえてしまう。
「どうした?」
「……先程、その女性を押さえていた、分身が、倒されました」
「なんだと!?」
「……ふむぅ」
翠はまるで信じられないものを見たかの様に酷く狼狽しているのだが、それを必死に押さえ込んでいる。だが、狼狽しているのはクロが倒されただけではない。
「(あの……白い、炎は、)」
「王よ、南部は私が……」
「……いや大将軍。貴殿は何処かにいる首謀者に向けて警戒を。南部は……この王である儂がやろう」
「「「!?!?」」」
その場にいたカグヤの王の発言で辺りは動揺する。翠もその発言に"白い炎"について狼狽していたが、カグヤの王が王座から立ち上がった為に注目してしまう。
カグヤの王の左手には銀色の素朴な杖が握られている。
物語で王が勇者に敵を倒すように、というのがよくある話ではあるがそれはこの世界では幻想である。
神が世界を守るように。
王は国民を守る。
だからこそ、カグヤの王は戦意を見せるのだ。
「ーーーハァァア!!!」
カグヤの王の身体から光のオーラが現れる。光のオーラがゆらゆらと、そして光のオーブをも発生させているのだ。その神々しい光は王宮を、いや倭国カグヤ全域に広がっていく。
「しかし、儂が直接出向くわけではない、のだがな!!!」
《おうさっ、このわっしに任せろよぃさ》
カグヤの王の近くに光の龍が現れる。
その龍は東洋の龍の身体に翼は西洋の竜の姿。
「おぉ……っ!あれは……いや、あの御方は……!」
「我等が"カグヤの守護神"様……」
「なんという力……!」
カグヤの守護神。
『神聖帝獣ナテアクナラ』。
倭国カグヤの守神であり、その姿を見たものは王族でも一握り。
王が代々契約する存在であり、王の悪を裁く存在でもあるのだ。
云わば王にとっての抑止力。
過去に多くの過ちをしたカグヤの王を粛正したこともあるのだ。
『神聖帝獣ナテアクナラ』という存在は翠からしても目を見張るものがあった。そして『神聖帝獣ナテアクナラ』が顕現したことにより、ある恩恵がもたらされる。
「っ、これは……?」
まず最初に気付いたのは大将軍と翠であった。
身体に力が与えられたかの様に淡い光が包み込んでいく。その淡い光は二人だけでなく他の副将軍や魔導師長等にも影響を与えていくのだ。しかも、それはこの王宮にいる者だけではない。この倭国カグヤ全域に向けて展開された大規模支援であるのだ。
「(まさか、[付加]……?だが、これほど……しかも一人一人の力を底上げしているのか……?)」
翠は半信半疑であったが、その通りである。
彼等に与えられた淡い光の正体は[付加]。しかも単なる[付加]ではなく、身体能力や魔力等全てを底上げしているある意味壊れた[付加]なのだ。
「では……頼むぞ、我が友『神聖帝獣ナテアクナラ』よ」
《らーじゃー、行ってくるさっ!》
『神聖帝獣ナテアクナラ』は光る床へ潜り込んだかと思うと、この王の間の景色が金色へ一変する。まるで何かがこの王宮から飛び立ったかの様な瞬間であった。
倭国カグヤで戦う騎士・魔導師・冒険者等は目撃する。
王宮から光輝く龍が顕現し、翼を大きく広げたかと思うと南の方へと飛び立った瞬間を。
その光輝く龍『神聖帝獣ナテアクナラ』の瞳に写し出されていたのは。
白き炎によって身体を焼かれ、死んだかの様に無惨に仰向けで倒れる『漆黒の化け狐』。
そしてその倒れた『漆黒の化け狐』の首に薙刀の刃を当て、止めを刺そうとする仮面女の姿であった。




