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暗黒の化け狐




『七天魔皇』『覇王』と女神クーディアの眷属『酒天童子』が衝突した頃、仮面女は薙刀を右肩に掛けながら遠い遥か先に黄金の稲妻が天空へと突き抜ける様子を観光客の様に感心しながら眺めていた。



「へぇ……あっちにも中々面白い奴いるじゃない。あの力……聖剣、よりも凄まじいわね。ね、貴方もそう思わない?と、いうか知り合いだったりするのかしら?」


「……う……くぅ……」



同意と質問を投げ掛ける仮面女が顔を向ける先には、右肩から左腰の下が凍りつくされたクロの姿であった。右手も下手な動きをさせないためか腕から凍り付き封じられている。よく見ればクロの背中には巨大な氷の剣が地面から生えており、勿論そこも蝕むように氷の魔の手が伸びていく。


この様子から見て、既に勝負は決していた。


クロの敗北。


仮面女には傷一つ無く、反対にクロは頭部から流血が流れていたり等で負傷している。辺りの地形も変形しているのだから、大規模な戦闘が行われたのはわかるだろう。しかし、倭国カグヤの砦には傷一つついていなかった。



「(やら、れた……くそっ……純粋に、力不足……か……)」



クロの思う通り、純粋に力不足で敗北したのだ。


これは最初からわかっていたことであった。が、しかしある程度の仮面女を足止めして他の小尾(おび)達の応援が来ればずらかる予定であったが、この様な結果になってしまったのだ。



「あら、最初の威勢はどうしたのかしら?やっぱりただの分身じゃぁここまでよね」


「(くそ、言わせておけば……!)」



既にヘタレから苛つきに変わったクロであったが、完全に勝利したと確信している仮面女に警告の様な……いや、これから行うことを覚悟をするように言い聞かせるように言う。


しかし、それ(・・)はクロにとってもあまり実行したくないことである。だが、絶体絶命の状態で四の五の言って迷っている暇はない。



「なぁ、分身本来の使い方(・・・・・・・・)って知っているか?」


「……は?いきなり何を言うのかしら。……まぁ、そうね。何を企んでるかは知らないけど、大体は偵察とか身代わりとかよね。でも、よっぽどの事が無い限りは分身なんて使わないけど。……で、御希望の答えはあったかしら?」



どうでもいいような、適当な答えを述べる仮面女。


しかし、本来の分身の使い方……というより、分身の原点となった使い方である。今では分身本来の使い方をするものは殆どいない。だが、いずれ分身を使えば知ることになるだろう。


クロは自分を完全に格下で恐るに足りないとすぐ目の前にいる仮面女に向けてニヤリと小悪魔の様に笑う。


そして言うのだ。


分身本来の使い方を。



「まあ、間違っちゃいないさ。でも、本来はこうやって使うんだぜ?」



そう言い終えた時、クロの身体に漆黒の炎が燃え上がる。その漆黒の炎はクロの身体全体に覆い隠していく。その漆黒の炎は、まるで墨汁で塗り殴られたかの様なものである。しかも漆黒の炎というのが、形が異なっているのだがよく見れば呪詛の言葉で溢れているのだ。



「(わるい……本体(オリジナル)……)」



これは、クロの自滅覚悟の最後の一手を使ったのだ。


クロの意識が遠退く中で本体へ謝罪する。


本体からは無理はするな、と。絶対に生還することを約束されていたのだ。勿論、クロはただの分身ではないがやはり分身。しかし、分身が倒されたことによって本体にとっては全く支障は無い筈なのだ。本体が分身の心配をすることなど無い筈なのだが、クロの本体はそう思ってはいない。


だからこそ、謝罪する。


しかし、こうでもしなければ更に被害が大きくなる。



「っ!なるほどねっ、自爆って訳かしら!?」



流石にクロの最後の一手に少し焦りが見える仮面女はその場から反射的に離れてしまう。


既にクロの身体は元の姿ではなく、約3メートル程の大きな化け狐と変貌してしまった。身体が大きくなったことにより、拘束されていた氷の剣を破壊して漆黒の炎に燃える呪詛を身体に纏いながら咆哮を放った。



「〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓!!!」


「あくまでも、私だけを狙ってる、のねっ!!!」



まさしく狂気染みた咆哮はまさしく化け物だと理解できるだろう。今のクロの姿は"漆黒の化け狐"。あの女性らしさや、『煌めく九尾の狐』の様な美しさも全く無い。良くて勇ましい、だろうか。良くて、ではあるが。


"漆黒の化け狐"と化したクロは仮面女のみに対して攻撃をしていく。まるで意識を手放したクロが最低限被害を出さない為なのだろう。クロ……"漆黒の化け狐"は仮面女に向けて大きな尾で凪ぎ払ったり、鋭利な爪で切り裂こうとしていくのだ。当たれば仮面女とはいえ、無傷では済まされない。



「へぇ!面白いじゃないっ!!!なら、これならーーーどう!」



仮面女の背後に巨大な氷山の如き氷塊が現れる。それは"漆黒の化け狐"を正面から囲むように、だ。その氷塊は仮面女の手によって上から雪の様に、雪崩の様に"漆黒の化け狐"に向けて雪崩れ込んでいく。しかも雪崩の一つ一つが刃の付いた雪の結晶だ。それは肉を削りとるには十分ではあるのだが、雪崩でくるその量では跡形もなく抉れ、消されるだろう。



「〓〓〓〓〓〓、〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓!!!」



それに対して"漆黒の化け狐"は大きく息を吸い込んだかと思うと雪崩れに向けて右から左に向けて口から黒炎を吐き放ったのだ。放たれた黒炎によって氷山の如き雪崩を全て焼却してしまう。



「これならどうかしら!?」



雪崩を焼却した"漆黒の化け狐"に向けて、巨大な氷の龍を生み出し食らいつく様に向かう。巨大な氷龍は"漆黒の化け狐"の喉笛にグシャリと食らいついたのだが、"漆黒の化け狐"はそれをもろともせずに逆に氷龍の首辺りに氷の鱗を噛み砕き食らいつくのだ。既に美も品もない戦い。"漆黒の化け狐"はまるで狂気によって痛みも何もかも感じていない。ただ敵を倒そうとする"化け狐"。


流石の迫力に仮面女は更に新たな氷龍を生み出すが"漆黒の化け狐"の前では相性が悪いらしく、足止めにもならない。


だが、仮面女も何も手がないわけがない。


両手には白い手袋をしてきたのだが、左手だけを外すと薬指には純白の小さなダイヤモンドの指輪がキラリと輝く。それはまさしくそのダイヤモンド自体が生きているかの様な(・・・・・・・・・)輝きであった。仮面女はその純白のダイヤモンドを愛しそうに触れながらまるで祈るように呟く。



「……あなた、私に力を……かして」



仮面女は純白ダイヤモンドの指輪をする左手を迫りくる"漆黒の化け狐"に向ける。そして純白のダイヤモンドはキラリと更に強く光ったかと思うと、仮面女はある力を解放したのだ。



「ーーーゆけ、白炎(・・)!!!」



純白のダイヤモンドから放たれた白炎(・・)は"漆黒の化け狐"を飲み込むのであった。






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