『金剛』さん、ぶちギレるってよ。
本当はこの話はもう少し後に投稿する予定でしたが……。
あと、実際の歴史とは関係なく、オリジナルだと思って見ていただけると幸いです
倭国『カグヤ』から大きく離れた海の上、大空に飛行する巨大な飛行艇の中心に巌の如き大男が王者の様で座っていた。
その男、『七天魔皇』の中で『覇王』として君臨する『金剛』だ。彼の周りには部下やその部下達がいせいせと働いている。
今『覇王』は倭国カグヤに異変を感じ、何があったのかをこの目で確かめようと動いていた。ただ倭国カグヤに異変があるならいい。だが、明らかに強大な気配……神の存在が出てきたのであれば話は別なのだ。
「(何が起こってやがるぅ……?)」
何故倭国カグヤに神が降臨したのか。
気配を感じてみると、正しければその神は倭国カグヤに攻め込んでいるではないか。しかし、大体予想は出来るだろう。恐らくその神の狙いは異世界から召喚された『勇者』達。
『勇者』の力を狙ってか、あるいは『勇者』に恨みがあるのか……。
真相は不明だが、行ってみなければわからない。
「そういやぁ、あのクソガキもカグヤかぁ……で、よぉ?この『覇王』に何かようか、神の下僕が」
その場に戦慄が走る。
『覇王』の身体は青白い雷による閃光が放たれていた。それは明らかに敵対反応。しかも『覇王』のその対応と言うのはかなり警戒しているものでもあるのだ。部下達は『覇王』の様子に辺りを警戒しながら武器を構える。幹部の一人である包帯ぐるぐる巻きの男は『神の下僕』の気配を感じ、そこへ苦無を投げた。
「なんや、もう気付かれたか。後ろから首をかっ斬るつまりやったけど……やっぱただもんじゃないやん」
「……チッ」
すんなりと避けたその『神の下僕』……黒髪の美少年は抜刀していた刀を渋々と鞘に納めていた。そんな簡単に避けられたことに苛ついていた訳ではなく、単に厄介な相手だと包帯ぐるぐる巻きの男は舌打ちをしてしまう。
「この『覇王』に……何のようだぁ?」
「あんさん、カグヤに行こうとしてるんやろ?それはちょいっと困るんよねぇ?」
まるで『覇王』に対して脅威を全く感じさせない黒髪の美少年。『神の下僕』と『覇王』が呼ぶこの黒髪の美少年は『女神クーディア』の眷属の一人『酒天童子』である。
「あんさんのことはよく聞いてる。なんでも『七天魔皇』の中でも『最強』なんやって?」
「何が言いたいんだぉ、神の下僕」
「……くくく、やっぱあんさん中々面白そうやわ。ま、簡潔に言うなら……『覇王』の足止めや。今カグヤに行かれんのは困るねん」
「ほぉ?」
何ともうんざりした様子の『覇王』はその場からゆっくり立ち上がると、ゴキィッ、ゴキィッと首を左右に鳴らして酒天童子に顔を向ける。すると酒天童子はあっと声を漏らすと初めてこの場で自己紹介をした。
「酒天や。よろしゅぅ」
「……朱点、だと?」
「あ、ぼくの事知ってるん?うれしいなぁ」
酒天という名に思わず少し戸惑う『覇王』。
酒天童子は自らの名がこの世界にまで有名になっているとは思っていなかったらしく満更でも無い様子で嬉しそうな表情をしていた。
「朱点……地球……鬼の頭目、かぁ?」
「あぁ、そうや。よう知ってるなぁ、あんさん」
まるで確認を取るかの様に言う『覇王』であったが、酒天童子はそれを肯定する。
自分が、酒天童子なのだと。
一瞬『覇王』は大きく目を見開いたが、しかし暫くして目を閉じてしまう。部下達も『覇王』は『酒天童子』という名に恐れを抱いたのではないか……と思わせるほどに『覇王』の反応は非常に珍しい。
が、部下達のその考えは全く違っていた。
『覇王』は酒天童子を恐れている訳ではない。
『覇王』は肩をぶるぶると震わせたかと思うと……。
「……く、がハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!」
まるでこの世で最も面白いものを見たかのように、大声で笑だしたのだ。その笑い声は大気を捻る程に響かせ、常人ならば聴覚を守る為に耳を手で塞いでいただろう。『覇王』は涙を溢してしまう程に爆笑する。
それは、酒天童子からしてみれば馬鹿にされているかの様な気分であった。
『覇王』は言う。
「てめぇがぁ?てめぇが、朱点童子だと……笑わせんなよ!?!?」
「……なんなん?ぼくが酒天童子だって信じてーーー」
「あ゛ぁ゛?信じるわけねぇだろぉがよぉ!!!テメェが朱点な訳、ねぇってわからねぇのかぁ!?!?」
「っ!?」
激しき雷撃が上下左右から酒天童子に襲う。
「"しゅてん"童子っ!その名は『朱点童子』だけだろうが!!!てめぇみたいな鬼が名乗っていいもんじゃねぇんだよ、クソチビが!?!?」
「な、なんなん……?まるで酒天童子を知って……」
「ーーー昔の話をしてやろうか」
『覇王』は身体から黄金の閃光を放ちながら、遠い昔の事を語り出す。
「昔、二柱の蛇龍がいたぁ。一柱は八岐大蛇、もう一柱は九頭竜。その二柱はぁ、まあよく殺し合っていたぁ。だが、それぞれが討ち取られた後、霊体となり眷属の女子に自分の子を身籠らせた。八岐大蛇の子を朱点。そのガキは鬼人族じゃねぇ、龍人族だ。……なぁ、わかるよなぁ?自分を朱点だというならば、龍人族な筈だ。だが、テメェは鬼だぁ」
「……」
『金剛』はそもそも、朱点童子は目の前にいる酒天童子と全く異なっていることを指摘する。
朱点童子ならば、生まれた時から血濡れた様な髪に右手は黄・左手は青・右足は白・左足は黒の紋様の刺青が細かく入れられている筈。しかもそれは魔法等でと全く隠すこともできないものなのだ、と。例え、若返ったとしてもそんな容姿ではないと断言した。
更に『金剛』は続ける。
「あと、だ。八岐大蛇と九頭竜のガキを殺し合いをさせたんだよ、毎度毎度殺し合った仲なんだよ、朱点とはなぁ!!!」
「……っ」
さて、地球では既に途切れてしまった歴史をここで記そう。
かつて、八岐大蛇の子『朱点童子』と九頭竜の子を殺し合わせた。要はこの神である二柱の蛇龍にとっては自分達の疑似戦争であったのだ。下界で勝負が着く前に討たれてしまった彼等にとっては不完全燃焼である。だからこそ、子である彼等を殺し合わせた。
その勝者は……『朱点童子』である。
確かに勝者は『朱点童子』であったが、敗北した九頭竜の子は死んではいなかった。いや、殺せなかったのだ。何年も何年も、殺し合う中で唯一の友……親友として互いを認め合っていた。だからこそ、『朱点童子』は同じ年である『九頭竜』の子を殺さなかった。しかしそれを許す父、八岐大蛇ではない。だが朱点童子は八岐大蛇に直訴し、何とかある条件で殺すことを免れたのだ。
その条件とは、敗北者である九頭竜の子をこの土地……世界から追放することであった。
九頭竜の子はそれを受け入れた。
九頭竜の子自信、初めての敗北であったのだ。
『朱点童子』と戦い、そして敗北したのは後悔はない。むしろ清々しい。
その九頭竜の子の名を……世界から抹消された名は、『金剛童子』。
即ち、『七天魔皇』の『覇王』……『金剛』である。
地球から追放される、というのは即ち"死"を意味する。
生命の終わり、という意味ではなく存在として"死"んでしまうのだ。
もし、地球が世界の記録するものがあったとすればいきなり存在していた者が消えてしまうのだ。生命が終わったという訳ではなくその者そのものが忽然と消えてしまうのだ。地球からすれば存在が無くなれば死んだと判断するしかない。その者が別世界へいったとすれば尚更である。
「まさ、か……あんさんは……っ!!!」
「最初はテメェが、朱点童子の生まれ変わりかと思ったぁ。が、そんな気配は全く感じねぇ……。誰だ、テメェは。朱点童子の名を語る、テメェは、なんなんだぁ!?!?」
『覇王』は……『金剛』は激怒する。
唯一無二の親友の名を、軽々しく名乗る鬼に対して激情に刈れてしまう。
『酒天童子』は、『金剛』の逆鱗に触れたのだ。
『金剛』の正体を理解した『酒天童子』は今まであっからんとした表情だったのが嘘かの様に冷や汗をかいて驚愕に満ちていた。
そして……。
「……あぁ、もうテメェが何もんかなんざ、どうでもいぃ……『朱点童子』の名を語る、クソヤロウガァあ!!!」
放たれた黄金の稲妻は『酒天童子』や『覇王』が乗る飛行艇を飲み込み、天空へと突き抜けるのであった。
『酒天童子』=『朱点童子』×




