しかし、本当の正体は明かさず。
⚠️注意!
この展開は、読者の皆様にとって『えぇーっ!?』という感じです。
賛否両論はあるかと思われますが、多目に見てください。
よろしくお願い致します。
「友達を、不知火君を探し出して連れてくるまでは……地球には戻れません」
「(あ、目の前にいるよー……って言うわけにはいかない、か)」
朝比奈の発言にシキは内心そう思いながら瞼を閉じる。
「不知火君だけじゃない。もしかすると桜間君も生きているかもしれない」
桜間君、というのは恐らく桜間葵……つまり、今右目以外を隠した謎の男となっている葵のことだろう。葵も一瞬微かに反応していた。まさかここで自分が出てくるとは思っていなかったのだろうか。それはシキも同様であった。
「不知火君と桜間君、ね」
「はい。何か知ってますか!?」
「……」
シキは言い淀んでしまう。
自ら不知火姫希、そして後ろに控えている男が桜間葵だと打ち明けてしまおうかと一瞬ではあったがそう考えていた。しかし葵は、今は自分の正体を明かすつもりはないと、この話し合いをする前に事前に聞いていた。それはシキ……姫希も同様である。
例え、正体を明かしたとしても地球へ帰還すればお別れなのだ。
それは、地球で住んでいた『不知火姫希』は居なくなる、ということ。大したことでは無いように思えるが、万が一興味本意で自分の事を詮索していく内に危険な目に合うかもしれない。
だからこそ朝比奈梨央には、不知火姫希の事を諦めてもらうしかない、のだ。
正直、その方が都合がいいというのが最もな理由ではあるが。
「桜間君についてはまだ不明ではありますが……不知火、君は……」
だが、不知火は迷ってしまう。
どれが最善なのか、今から言う発言が朝比奈にどの様な影響を及ぼしてしまうのか。これほど朝比奈に対して迷うのは不知火姫希が彼を友だと思っているからだろう。学校で唯一、朝比奈梨央だけが不知火と接していた。最初はズカズカと嫌がってるにも関わらず土足で関わってくる彼にはウンザリしていたこともある。ワザと周りの人が嫌がる様な気配を発してもお構い無し。本来不知火姫希は地球人と必要以上に関わるつもりは一つもなかった。しかし、毎日何度も声を掛けてきて恥ずかしそうに笑う彼に不知火姫希は少しずつ言葉を交わすようになったのだ。そして少しずつ、朝比奈を友として認識するようになっていった。
それは普通なのかもしれない。
姫希は朝比奈にこう言うのであった。
「誠に残念なのですが、不知火君は……諦めた方が宜しいでしょう」
「……え?」
朝比奈の思考は停止してしまう。
今『アビス』と名乗る者は何を言った?
その表情からするに、不知火姫希の生存は諦めた方がいいと発言したのだ。
意味がわからない。
それは朝比奈だけでなく教師である小早川も同様であった。
「なにを、言ってるんですか」
「そのままの意味です。彼の生存率は極めて低い、と言っているんですよ」
「そんなのッ!!!まだ、不知火君が死んだと決まった訳じゃないッ!!!何故そんな事を言うんですかッ!!!」
初めて、朝比奈梨央という少年は激情に駆られたかの様に激怒した。朝比奈はまだ不知火姫希は生きていると信じていたのだ。また会えると、その時を待っていた。それなのに、目の前のシキは不知火姫希は既に死んでいると確信を持って発言している。それが何よりと朝比奈梨央を怒らせるのには十分であった。
朝比奈の怒りに最初は目を丸くして驚いていたシキであったが、直ぐにその問いへの返答をする。
「……何故、貴殿方がこの世界で生きていられるかわかりますか?」
「それが今何の関係が……」
「貴殿方には"女神の加護"があるからです。もし、その"女神の加護"が無ければこの世界の環境で生き残ることも、魔法を使うこともできません。"女神の加護"があるからこそ、貴殿方は今何の不自由なく生きていける……しかし、彼にはその"女神の加護"が無い」
「ぁ……」
朝比奈はシキの発言にある事を思い出していた。
不知火姫希は、自分達が持つ"女神の加護"が無かったことを。
今自分達は"女神の加護"があるからこそ、この世界にとって異物にも関わらず何不自由無く生きている。しかし、その"女神の加護"が無ければ正真正銘のこの世界の異物。そもそも、地球の環境から別世界の環境に人間は耐えられるのか。魔法という未知の存在もあるのだ。免疫も無いのに、別世界の微生物や病原菌に触れてしまえばどうなるのか。わかりきったことだろう。
「"女神の、加護"が無かったから……」
「簡潔に言えば、彼は運が無かったとしか言えません」
「……っ」
何とか納得する様な説明を終えたシキ。
シキの発言の内容は自分が死んだということ以外は間違ってはいないのだ。4姉妹の女神が何故彼等に"女神の加護"を与えたのかはそれである。シキは今の説明で納得しただろうと朝比奈の顔をチラリと見た。
「……そん、な」
あまりにも酷い表情であった。
立つ力を無くしてソファーの上に座ってしまう朝比奈梨央。顔を俯かせ、手を震わせながら彼にとって最も大事なものを失ったことに喪失感を滲ませていた。涙も溢して、まるで生きる希望を失ったかの様な悲惨な様子である。
「そんな、の……嘘、だよ……。だって……まだ、わからないでしょ……?誰も不知火君が、死んだところなんて、見てないんだ。……そんなの……認められない。……ぜ……たい、に……ぜっだいに、みとめ、ないっ……!」
涙を凝られるも、朝比奈の目から涙が溢れていく。両頬を伝い、下へ落ちていった。
本当は泣きわめきたいのだろう。しかし、彼はそれを耐えて目の前にいる不知火姫希を諦めろと発言したシキへ睨み付ける。シキ自身もまさかここまで認めないとは内心驚いていた。
「ぼくは不知火君を見つけるまで、帰る気はありません。失礼しますっ!」
「朝比奈君!」
朝比奈は乱暴に涙を拭うと、その場から小早川の制止を聞かずに退出してしまう。涙を拭っていても、その跡は残っており朝比奈が泣いたことは一目見れば大体察するだろう。
シキは朝比奈が退出した後、頭を抱えてしまう。
「(……あ、れ……?何で、単に悲しむ程度だと思ってたのに……なんで、意外と好感度が高いの!?もう、あれだよ!!!絶対、この選択間違ってたよね!?!?あの朝比奈の顔、ぶちギレてたじゃん!!!しかも、めちゃ怖かったし!!!あんな朝比奈はじめてみたよ!!!やっちゃった……やっちゃったよ、マジで!!!いゃぁぁぁぁぁあ!?!?あきらめろよ、あきらめろよ朝比奈ぁぁあ!!!あ……あぁ、ほんと、どうしよぅ……。もう、ここから離れたい!!!さっきから学園長の視線が痛すぎる!!!そして、マジでやめて、小早川せんせぇ!!!俺の名前連呼しながら泣かないでぇぇーーー!!!)」
自分の発言にまさかの展開となって、後から後悔するシキであった。
次回の投稿は12月31日です。




