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正体を明かす時きたれり。



『グランディセウム学園』の学園長室前にある二人の人物が立っていた。


その人物とは、日本の学校から召喚された教師、小早川(こばやかわ)麗奈(りな)と生徒である朝比奈あさひな梨央りおとである。



「何で私達二人が呼ばれたのでしょう……?」


「あはは……他の皆が何かやった、のかな」



二人は絶賛、学園長室前で緊張していた。


何せ学園に着いた早々学年主任から学園長室へ行くようにと言われたのだ。小早川は学園長と少しだけ軽く言葉を交わしたことがあるが、朝比奈は全校朝礼で位しか見たことがない。何故、学園長室へ呼ばれたのかは不明だが可能性として自分達含めた『勇者』のことだろう。最近は大分落ち着きを取り戻して日本の時とそう変わらない生活を送っているのが殆どだ。しかし、それは全員ではなく一部は前とそう変わらない。


もし、そんな事があればどうなるかはわからない。


だが、いつまでもその場で立ち続ける訳にはいかないのだ。


二人は互いに顔を見合わせると、その大きな扉を押して開いた。




学園長室の奥には魔法少女らしき服装とオレンジ髪の学園長『ビティーカ』と、ソファーに座るもう一人の人物。その人物は最初は保健の先生であるシキだと思ったが、服装と雰囲気が異なっていた。


癖っ毛のある長い金髪は後ろに結われているが、先は腰下まで伸びている。これだけならば保健のシキと変わりないだろう。しかし、その服装が問題であった。その服、というより軍服だ。それは一目見て階級の高い者が着用するもの。それを羽織ながら両目を閉じていた。軍服の下には、スーツを着用されていた。青のネクタイを締め、ネクタイピンもある。軍服が無ければビジネスマンとしても見えるだろうか。



「やあ、やっと来たね?」



そうビティーカ満面の笑みで二人を迎える。その様子から見て呼び出されたのは『勇者』の誰かが何かをやらかしたとかではないと察する二人。しかし、何故ここに軍服のシキ先生がいるかはわからない。



「あぁ、君達二人を呼び出したのは私じゃなくて()だから。私は一応この話を聞く義務(・・・・・・・・)があるからここにいるよー」


「は、はい。わかりました……」


「えっと……?」


「まあそこに座るといいよー」



ビティーカに促されて、シキ先生と向かい合う形でソファーに座る小早川と朝比奈。動揺しながら座る二人であったが、目の前に座って目を閉じていたシキ先生は何も言葉を発さずにそのまま座っている。


その様子はまさに……



「………………ぐぅ」


「起きろっ!このバカやろーーーぉう!」



明らかに眠っているシキ先生に向けて容赦なく大声で怒鳴る。本来ならばこの怒鳴り声で起きる筈なのだが全く起きる様子はなかった。むしろ……。



「………………スピー」



更に熟睡したかの様な深い眠りに入ってしまった。


流石のビティーカも溜め息をついてしまうが、同時に疲労が出ているからなのだろうと感じていた。しかし、小早川と朝比奈を呼び出してほしいと言ったのはシキである。なので、さっさと起きてもらわなければ困るのだ。



「ここはボクにお任せを」



そう何処からともなく現れたのは金色の右目だけを露にし、それ以外は黒い布で隠されていた少年の様な男が現れた。音も立てずに暗殺者の如く現れた人物に小早川と朝比奈の二人はドキッと驚愕してしまう。本当に暗殺者かと思い警戒するが、それを制したのはビティーカであった。



「たのむぞー」


「では……」



すると、男は手に持っていた箱を開けるとそこにはぎっしり敷き詰められていた『いなり寿司』が入っていた。その内の一つをお箸で掴み、シキの鼻へ近づけていく。



「……すんすんっ」



なんと、目を瞑りながら匂いを嗅ぎ始めたのだ。『いなり寿司』に反応しているのだろう。男は『いなり寿司』をちらつかせる様にしているのだが、それを追うようにシキは寝ながらその『いなり寿司』の匂いを嗅いでいく。



「……はぐぅ!?」



『いなり寿司』を食べようとするシキであったが、それをすかさず男は箸に掴んだ『いなり寿司』の位置をズラシたのだ。その結果食べ損なったシキは空を食べてしまう。ここで起きても良さそうなのだが、眠ったままこてんっと力が抜けた感じに顔を傾げてしまう。


男は焦らして焦らして、シキに『いなり寿司』を食べさせずにいる。流石の寝ているシキも嫌な夢を見ている様に眉をひそましていた。そして、男はここだっ!を金色の右目を見開くとそのまま『いなり寿司』をシキの口の中へ突っ込んだのだ。



「ーーー!!!……うまうま……はっ!?」



やっとシキは目覚める。



「……(彼も忙しくて疲れているから今回は多目に見るか)」



ビティーカはやれやれといった感じであったが、小早川と朝比奈はポカーンとしていた。これが正しい反応である。間違ってはいない。多分。


もぐもぐと『いなり寿司』を頬張りながら、シキは自分が寝ていたという失態を恥ずかしながら顔を俯かせていた。男は『いなり寿司』が入った箱を納め、シキに耳打ちをする。『いなり寿司』を頬張っていたシキはとりあえず飲み込んだ後、コホンと咳払いをして何やら話そうとする雰囲気に戻っていく。



「突然呼び出してすまない。小早川麗奈先生、朝比奈梨央君。実は」


「御主人様、右頬に米粒がついてます」


「……うん、()ありがと」



何とも締まらない。


大人しく頬を紅に染めたシキは今にも消えそうな声で男、葵に指摘された右頬についた米粒を取って食べる。ビティーカは一向に話が進まないのでジト目でシキを見ていた。小早川と朝比奈も黙って見守るのみ。シキは自分の情けない姿を見せてしまい泣きそうになるのだが、何とか堪えて話を再開する。



「では、改めて……。私は地球の世界異能機関、World Abilities organization。略してWAOの職員です。『アビス』とも呼ばれていましたが、シキでお願いします。」


「世界異能、ですか?」


WAO(だぶりゅーエーオー)……?」



唐突な自己紹介に二人は困惑するしかない。だが、シキのその表情は真剣そのものであり嘘偽りがないのはわかっていた。加えて彼は『地球(・・)の』と発言していた。


世界異能機関、WAO(World Abilities organization)という組織など聞いたことがない。だが、『地球』と発言した。それを意味することを小早川はすぐに理解した。



「地球って、あなたは……」


「ええ。貴女方が住んできた星の名前です」



その瞬間、小早川はホロリと一筋の涙を溢した。


地球。


地球こそ、自分達が生れた星の名前。


そして、その住んで生活を過ごしていた日々は今では遠い過去のように感じていた。


もうあの地球(ほし)へ帰れることはないと思っていた。


諦めていた。


絶望していた。


だからこそ、目の前にいるシキは突然現れた救世主にも見えていた。



「それは、私達は……帰れる、のですか。地球に」


「今すぐに、とはいきませんが。必ず貴女方を地球へ」


「……あ、……あぁ……」



今まで絶望し、諦めていたからなのか。小早川は両手に顔を多いながら嗚咽を漏らしていた。彼女は教師として生徒を不安にさせまいと立派に立ち振る舞っていたのだろうか。だからこそ、表では教師の鏡として務めていた。それは彼女以外の教師達も同様だろう。



「……ぼくはまだ地球には戻りたくないです」


「朝比奈、くん?」



朝比奈は最初は地球へ戻れる事を嬉しく思っていたが、直ぐに深刻そうな表情であった。そして元の世界へ戻ることを拒否したのだ。朝比奈梨央本人は本当は戻りたいとは心の底では思っているのだろう。だが、それでも戻りたくない理由があった。



「友達を、不知火君を探し出して連れてくるまでは……地球には戻れません」





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