『"大勇神"素戔男尊』
「……それは、真なのですか?」
彦乃は姫希の発言というより報告に深刻な表情をしていた。そうなるのも無理はないだろう。姫希から聞かされたのは『勇者』として召喚された一人が、大犯罪を犯したこと。その『勇者』だけでなく、過去に召喚された地球人等が力に溺れ、人々を苦しめ、国を、自然を滅ぼしている鬼畜の所業の数々。加えて『地球人』に対して敵対心を抱いている者達も存在することもわかった。
「これは……ただ事では済まへんなぁ。そちの『世界』と『地球』。ねぇさんらが頭かかえてたの、そういうことやったんでありんすな……」
「実は、けっこう、ヤバイ。もしかすると、一触即発、かも」
「……まだその様になっていないのが不思議な位です。姫希が言う彼等を庇護した4姉妹の女神は何を考えているのでしょう」
「この件に関しては素戔男尊様が大きく影響していますからね」
姫希は、前に天照大御神から聞いたことを話していく。
そもそも、何故異世界召喚されるが比較的に日本人が多いのか。それは素戔男尊が非常に根本的に関わっているのだ。素戔男尊という男神は天照大御神、月読命の弟である。神話としても有名な話だが、かつての素戔男尊はかなりやんちゃであった。
そんな素戔男尊に業を煮やした姉の天照大御神は罰としてある異世界を救うという命を下したのだ。それは一つの世界ではなく、数えられぬ程のである。最初は一つの異世界だけであったのだが、素戔男尊の勇姿に他の異世界の神々から『どうか自分達が管理する世界を救ってほしい』という懇願される。それを天照大御神は拒否したのだ。しかし、その時の素戔男尊は別人のように変わっており困っている神々の為に姉、天照大御神を説得して数多の異世界を救ってきたのだ。
救われた神々からは素戔男尊を『大勇神』として讃えた。そして幾千もの時は流れ、神々は素戔男尊に恩を返す為にこちらに飛ばされてしまった地球人達を庇護して護ってきたのだ。日本人が多いのは素戔男尊の子孫である影響である。が、実際は徐々に素戔男尊の力を受け継いでいる者は既にこの世にはいないのだが。因にではあるが、世界を救う、というのは『魔王』の手から人類を守る等ではなく単純に世界に害成す"外からの侵略者"を撃退させることであった。
神々は人類が滅びることはどうでも良い話。
素戔男尊は見事、世界を救った。結果的にはそうなのだが、その素戔男尊が"外からの侵略者"との激闘を目撃した人類も『勇者』として語り継がれていた。世界を救ったのは事実だが、結果的に人類までも救ったのだ。『勇者』の元祖は素戔男尊なのである。
「流石、『素戔男尊』様ですね」
「すー、すごい」
「……えぇ、わっちの自慢の弟でありんす」
月読命は少し寂しそうに目を瞑りながら染々と尊敬される弟に兄である自分は立派に育ったものだと感じてきた。
もし、叶うならばもう一度。
弟である『素戔男尊』と会いたい事だろう。
しかし、それは叶わない。
月読命や天照大御神等が知る『素戔男尊』はもうこの世にいないのだから。
「あの子が守った日本を、今度はわっちらが守る番でありんす。だからこそ、引き込もっていたわっちは表に出てきたんでありんす」
『"大勇神"素戔男尊』は、数十年前での戦いで日本を沈めようとした『マリス』から自ら犠牲を払って命を落としたのだ。本来ならば勝てる戦いであった。しかし、結局は命を落とし力を奪われた。
「本当に……かつての大元帥には感謝しなんす」
「前元帥様ですね。かのお方はうちの祖父母がお世話になったと聞いています」
「歴代大元帥最強のお方でしたね。まだ私や姫希は産まれていませんでしたが、その偉業の数々は神話や伝説で語られる英雄よりも壮大だったとか。加えてどの神との眷属にはならなかったと聞いています」
「神々、でも、伝説的」
『素戔男尊』の力を奪った『マリス』は既に姫希と彦乃が所属する軍の前大元帥によって倒されている。その時の『マリス』は『素戔男尊』だけでなく、他の名のある神をあらゆる手段で殺し、力を奪っていた。それを倒したのは良かったものの、前大元帥までも『神々の力を奪ったのだマリス』と相討ちになる形で倒した後に命を落とした。そして前大元帥が亡くなった後新たに大元帥になったのが、現大元帥である。
「姫希はん、貴方にお願いがありんす」
「はい」
「そちらの世界に飛ばされた地球人達を……連れ戻しなんす」
召喚された地球人を連れ戻す。
これこそ、月読命が願うこと。それは月読命では難しい。召喚された他の世界では月読命等は手出しが出来ないのだ。そこに行けたとしても直接下すこともできない。現在召喚された地球人達を救えるのは姫希だけしかいない。既に一人の地球人は既に殺害されているので、遺体の回収は無理だろう。後残っている地球人達を集め、そして地球へ連れ戻すのが月読命からの頼みである。
月読命は、無理難題だと承知の上で頼んでいる。勿論、地球人全員が無事に戻ってこれるとは思ってはいない。だが、弟が愛した子孫達を一人でも助けたいと思ってのことであった。本来ならば唯一の眷属である彦乃と共に姫希がいる世界へ乗り込んでしまいたいほどだ。しかしそれをしてしまうと姉の天照大御神やその他の神々にも非常に迷惑が掛かってしまう。迷惑が掛かってしまうだけでなく、この地球の地球人の運命が大きく左右される可能性もなきにしもあらずなのだ。
「出来る限り、尽力します」
姫希はそう返答する。
現段階で最も優先すべきことは、地球人達を集めること。
これは生半可なことではないだろう。あらゆる手段を使って、無理矢理にでも連れ戻さなければならない。既に一人は死亡している。他もどうかはわからないが、地球にとっても姫希達がいるその世界にとっても良いことだろう。これ以上地球人が何かやらかす事も否定は出来ないのだ。
こうして、この話し合いは終わる。
姫希は、ある決断をしてその場からヘスティアと共に去るのであった。
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【大勇神:素戔男尊】
【『日本之神王:天照大御神と月の神:月読命の弟であり、八岐大蛇退治した大英雄である。加えて数々の異世界を救済した『大勇神』でもあるのだ。殆どの異世界の『勇者』の元祖でもある。当初は母の恋しさあまり、暴れていたのだがあまりにも酷かった為に"高天原"から追い出された。下界に落とされた後、数々の人との出会いと別れを繰り返した。そして運命の最愛の人と出会い性格は一変する。これに関しては天照大御神達でさえも驚愕すべき程の変化であったが、やはり素戔男尊は素戔男尊であった。自分の子孫達である日本人達を愛していた。だが、ある時日本を沈めようとした『マリス』を止める為に自ら犠牲となって命を落としてしまう。』】
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