☆最も警戒すべき勢力⑤
投稿遅れてしまって申し訳ありません!
『マリス』である"ハナ"と"ヤム"。
彼女等はその幼い容姿とは似つかない、歪で不安定な笑みを浮かべながら懐から"あるもの"を取り出した。
取り出し、手に持ったのは本だ。
二人とも異なる本を持ちながらにやにやと彦乃達へ目を向ける。
その本は人の皮によって作られた異本。
"ハナ"と"ヤム"の二人は、まるで『キャロル』の様な歌を歌いながらその本を開いた。
「あれは……」
異本に対して最も反応したのは『破壊』である。
『破壊』はその異本から放たれる禍々しく狂気に満ちたソレに見覚えがあった。それはある夜の東京で遭遇した謎の軍服女子高生、『高頭夕佳里』が軍服の中に仕込んできたあの本と同じだったのだ。
「さぁ、解き放ちましょう?我等の憎悪によって生れたてた力は"神"をも殺す」
「そしてその"神"の力をも操りし『神殺し』である我等。"神"であれば、例えかつての支配者である神々でさえも我等にとっては同じ」
「さぁ、唄いましょう?そして呼びましょう?」
「かの支配者である二柱を、この世界に」
その儀式は直ぐに始まった。
儀式を中断させることは勿論できるだろう。
しかし、彦乃は先に動きそれを止めようとするのだが既にもう終わっていた。
変化が起こったのは、"ハナ"と"ヤム"の身体だ。
両者は共に何か焼かれてしまった様な貧しい服であった。しかし、その貧しい様を塗り潰す様に"ハナ"の身体から蛸の触手がウネウネと生えたのだ。その色は狂気に包まれた暗黒の色。皮膚の色もそれと同じ色と変わっていた。手の爪は鉤爪の様に長く鋭利なものとなっており、背中からはドラゴンの様な蝙蝠の翼が生えていた。
次に"ヤム"の身体は、炎に包まれていた。しかしその炎は決して燃えているのではなく"ヤム"から放出されている。その炎はまさしく、『生ける炎』だ。周りにはそれぞれが独自に蠢く様に紅い稲妻の一つ一つが別の生き物のごとき炎がまとわりついている。
容姿は幼くも愛らしい黒髪黒目の日本人少女二人。
しかし、その少女二人から現れた忌々しく恐れを撒き散らすかつての支配者の二柱が顕現したのだ。
その力は、人が操る物ではない。
操れるわけがない。
かつての支配者に、恐れを、狂気を、錯乱をその少女二人の身体を蝕むように支配していく。
その力は、かつての支配者二柱そのものである。人が見ては、触れてはいけない禁忌そのものである。存在しているだけで、その場にいる人々は狂気に満ちていく。例えその存在に気付かなくても、その惑星にいるのであれば人々は何故か悪寒を感じ、鳥肌が立つだろう。そして"意味が分からない恐怖"という対処不可能な感覚を全人類は感じ取る。
寝る者は悪夢に魘され、食事を取る者は急な嘔吐感に晒され、勉学や仕事をする者は意味もなく頭痛を起こす。まだ自我がない子供は異常なまでに泣き出してしまう。
この時、二柱の力が現したのと同時にこの様な現象は世界中に発生していた。精神的に強き者は、この恐れを感じつつも耐えているものもいる。それはその二柱の力の前にいる彦乃達がそうであった。
「何をする気ですか……『マリス』!」
「あら……私達の事を知るのならばわかるでしょう?」
「この世の人類を滅ぼすのが目的なのよ、私達は」
「人類を滅ぼすこと……それこそが我々の望み」
「でも、貴方は滅ぼすべき人類の一人には入らないわよ。可愛い可愛い、『狸さん』?そしてその仲間の『鬼さん』と『妖さん』」
「……ほぅ」
"ハナ"と"ヤム"は既に彦乃が『狸の獣人』だと正体を見破っていた。勿論彦乃が単なる『狸の獣人』ではないのもわかっているのだろう。しかし二人は非常に興味を持った様子で彦乃を眺めていた。彦乃だけではなく、ミラとゴウキも同様である。その一方ではその3名以外はまるでゴミを見るかの様な目で見下していた。
そんな余裕を見せるマリスの少女二人であったが、かつての支配者である神が彼女達の身体を侵食されていく。既にもう彼女等にはかつての支配者である神に乗っ取られるのだとそう誰もがそう思っていた。
が。
「ふふっ。私の身体を乗っ取るつもりね?でも、残念……貴方は混沌に、狂気に満ちていても神は神だから」
「私達が欲するのは、あなたじゃない。あなたの力よ?邪魔なあなたは……さっさと死になさい?」
その瞬間、彼女等は何かを握り潰した。
彼女等が実際に手で何かを握り潰したのではない。
彼女等の力そのものが、内に宿したかつての支配者である神を。
殺したのだ。
それは、つまり神を殺した存在……『神殺者』。
内から易々と己の思うがままに身体を乗っ取ろうとしていた『這い寄る混沌』の神と『生ける炎』の神は無惨にも力を"ハナ"と"ヤム"に奪われた上、この世から、宇宙から抹消されてしまったのだ。悲鳴を、叫びを上げるのも許さずに。
「おぃ、ガキんちょ。その本は何処で手に入れたぁ?」
そんな悲惨な雰囲気にも関わらず、『破壊』は彼女二人が未だに手にもつ異本について乱暴に尋ねた。何となくであったが『破壊』は嫌な予感を感じていたのだ。その『破壊』の発言に仕方がなさそうに手に持つ異本について簡潔に話す。
「これは『ルルイエの異本』よ?本来は、こんなもの存在しないのだけど……新しい仲間、同盟者にいただいたの。」
「彼女達と同盟を組んだのは間違いじゃなかったわね、"ヤム"」
「ふふっ、そうね"ハナ"。彼女達の目的は私達と同じ……そして新たに私達と同じ復讐者」
「良い同盟者と巡り会えたわぁ。その点は貴方達、憎き人類に感謝しましょう」
その発言というのは、謎の軍服女子高生『高頭夕佳里』が『マリス』と同盟を組んだということであった。この事は『破壊』にしかわからないだろう。『高頭夕佳里』が、ということは彼女が作った組織と手を組んでいるのだ。もし、この事を知ればどれ程非常事態になっているのかわかるだろう。
表では<WAO>、<理想>、<粛正>、<悪戯>の四大勢力とされているが、裏ではそうではない。いや、四大勢力は最近のことであった。
既に、ある組織が四大勢力にも劣らない勢力が拡大しているのだ。
この世界の勢力に、新たな巨大な一つの勢力が出現した。
四大勢力ではなく、五大勢力として、この勢力争いは酷くおぞましく変化していく。
そして、組織のボス達は知るだろう。
この五大勢力の中で、最も警戒すべき勢力というのは『マリス』と同盟を組んだ……。
<報復者>だということを。




