新たな尾
どうも!
さてさて、このタイトルの意味は?
最初に動いたのは、『氷結の騎士』だ。
その数は7。
その中でも接近戦に向いている剣・メイス・薙刀、そして己の拳で闘う4体の『氷結の騎士』がシキを狙って突撃してくる。それをエンカとスイジンの二匹はそれを迎え撃つ。残りの三体の『氷結の騎士』は矢を放ち、杖で魔法を放つ。それをライデンは雷で撃ち落としたり、地面で高い壁を作って防いでいる。
『氷結の騎士』達を一体一体観察しながら、ある疑問を抱いていた。
「(何者だ、『氷結の騎士』を操っている奴は)」
そう、7体の『氷結の騎士』は何者かによって操作されている。恐らくこの氷塊を生み出した者なのは大体分かる。それに何故自分が現れた、というより力に反応して出現した。まるで、自分の力を試しているかの様な……。
「(何とも、面倒な……)」
思わずイレギュラーな出来事に舌打ちをしてしまいそうになる。だが、薄々この様な事態になるのではないかとは感じていた。
しかし、この『氷結の騎士』は中々厄介な敵である。
『これは……!?』
『なに?』
『???』
エンカ達からすれば『氷結の騎士』達を相手取るには問題は無い。実際に確実に一体一体を破壊している。のだが、倒しても倒しても何事もなかったかの様に粉々に砕けた身体を再構築させ、再び襲い掛かる。
冒険者達からもあの『氷結の騎士』は不死身か!?という声が聞こえるが、そうではない。そもそもゴーレムなので不死身というのは違うだろう。
そんな何度も何度も再生する『氷結の騎士』であったが、エンカは直ぐにスイジンとライデンに指示を出した。
『スイジン、ライデン。手段は問いません。一ヶ所に集めてください』
『了解しました』
『おけー』
スイジンとライデンは直ぐに『氷結の騎士』達に悟られる事無く一ヶ所に集めるように誘導する。スイジンは『氷結の騎士』がいる範囲を水で生み出した檻によって隔離する。しかし、かなりの広範囲であり、加えて『氷結の騎士』達も何か気付いたらしく水の檻を破壊しようとする。それをライデンが阻止するかの様に水の折から迸る電撃と、地面から出現する地の障害物によって徐々に一つに収縮される。水の檻も一つに纏めようと小さくなっていった。
『エンカ、完了しました』
『にんむかんりょ~』
ある程度、『氷結の騎士』達を一つへ纏めた水の檻には壊されぬ様に、逃げられぬ様に雷が迸る。だが『氷結の騎士』達も黙ってはおらず、何度か水の檻が破壊されそうになるがその度にライデンが生み出す土の壁で何とか持ちこたえていた。
エンカの頭上にそれほど大きくは無いが、まるで太陽の様な紅蓮の球体が現れる。その球体を取り囲む三つの炎の輪が存在していた。空を見上げれば太陽が二つあるようにも見える。それほどエンカが生み出した紅蓮の球体は規格外なものであった。
『『紅炎新星』』
その小さな太陽の如き球体は『氷結の騎士』を閉じ込めた水の檻へと落ちた。まさしくそれは、隕石の衝突の様な凄まじい爆発力を持っている。だが、それは『氷結の騎士』達のみを倒すことに特化している為か辺りに爆風程しか被害は出ていない。冒険者達もその爆風に何とか耐えていた。
『紅炎新星』によって、流石の『氷結の騎士』達は七体とも辛うじて耐えていたが、直ぐに音を立てて氷塊の身体は崩れ、溶けていった。
これで終わりかと思われた瞬間、崩れ溶けていく『氷結の騎士』の残骸に異常な魔力の反応をシキ達は察知していた。
先程まで崩れ溶けていた七体の『氷結の騎士』の残骸が急に一つに纏まりだしたのだ。溶けて液体となったものも時間が巻き戻される様に氷へと変化する。恐らく新たな個体を生み出されているのだろう。
『っ、もう一度ーーー』
『待て、エンカ』
往生際が悪いと二発目の『紅炎新星』を放とうとするエンカをシキは制止させる。エンカだけでなく、スイジン、ライデンにもだ。
先程と同じ『氷結の騎士』であればそれで良かっただろう。
だが、一つに纏まり終えようとする氷の雰囲気が一変したのだ。それはもう、先程の『氷結の騎士』が子供かと思えるほどに存在感が桁外れ。一つに纏まった存在は女性らしい氷のゴーレム。シルエットからして美女の分類に入るだろうか。その女性ゴーレムはまるで『何者か』によって憑依されている様だ。
『……(黒幕登場、というところか?)』
明らかな桁違いな存在が、ゴーレムに憑依するということは何が起こるかは分からない。下手に手を出しても、相手の刺激を更に与えてしまうことになる。
女ゴーレムは、彫刻のように作られた氷の顔でシキを視野にとらえた。そのゴーレムの顔は本当に氷だけで作られているので具体的にどんな顔をしているかはわからない。そのシルエットが憑依した本人とも限らないのだから。それにしても、女ゴーレムは不気味な壊れかけたロボットの様に身体のあちこちが人であれば有り得ない動きをしているのはホラーである。しかしゴーレムなのでこんな動きをしても不自然ではないが。
『!』
不意に女ゴーレムは、シキを全く機械染みた何にもない表情から、瞬間ニヤリと明らかに楽しそうな表情を浮かべて右手を真上に掲げる。何をするつもりだ、と思った刹那、掲げた右手の平から天に向かって光の柱が噴出した。それはまるで一本の剣。しかし、その長さは余りにも長すぎる。
それは、『光の柱』。
破壊した七体の『氷結の騎士』では到底その様な芸当は出来ない。
『っ!?(来るか!?)』
『ふふっ』
そして、女ゴーレムの掲げた右手は、シキに向けて降り下ろされた。同時に『光の柱』も切断させようと大気を切り裂きながらシキへと襲い掛かる。
シキは、その頭上に迫り来る『光の柱』を眺めながら『おいおいまじか』と悪態を付つ。しかし、その表情には焦りなどは一切無い。
『フォォンっ!(さてっ!)』
九つの尾は優雅に揺らめく。
そして、『光の柱』がぶつかるその前に二つの尾は自身の頭上へクロスして、『光の柱』を受け止めた。流石に破壊力は凄まじくシキの足元は無事であったが、そこ以外は大地は裂かれていたのだ。
『フォンっ!(ふんっ!)』
絶大な威力を誇る『光の柱』を受け止めていたのだが、それを軽々とシキは弾く。『光の柱』は受け止められ、弾き返された為に崩れる様に消え去った。
シキの攻撃は、ここから初めて始まる。
九つの尾の先にに、火・水・雷・地・風・光・闇の長剣が現れる。それは属性そのものであり、武器であり魔法。しかしシキは、更に新たに一つ生み出した。
それは、十本目の尾によって、無の剣を生み出したのだ。
「十、尾……」
その様子を目撃した『テェイル』は、身体を震わせながらシキが新たに増えた十本目の尾に驚愕する。十本目の尾が現した影響か、シキの姿は更に美しさを増していた。
『フォォオ(喰らうがいい)』
十本の尾の先に存在する各属性の剣先を前へ合わせる。
本来剣というのは、目の前の存在を斬るためのもの。
だが、この剣等は、剣でもあるのと同時に魔法でもある。
今からシキは、魔法を放つ。
十の剣先が合わさった点から、それぞれの属性の剣の力が融合していく。それは不純物の無い、真っ白な力。その力はそれほど大きいものではない。むしろ、バスケットボール程の大きさでしかない。
が。
『煌めく光線』
その放たれた光線は女ゴーレムの身体を易々と貫いた。
『おもしろいじゃない、アンタ』
『っ!?』
砕け崩壊する女ゴーレムの口から流暢な言葉をシキに向けて放たれる。それを聞いたシキは、一瞬その黒幕の存在感を肌で感じた。その存在感を感じた時、まるで自分の後ろからずっと観察されていたかのような。そんな意味不明な恐ろしさを感じていた。
既に女ゴーレムが倒された事によって氷塊の群れは徐々に溶け始めていた。
『……試されていた、か』
シキはそう愚痴を溢しながら、『フォンっ!』と一鳴きするとエンカ・スイジン・ライデンを引き連れて、まるで幻の如く消え去るのであった。
その戦いの爪痕を残して。
そしてそれを目撃していた冒険者達はこの出来事を冒険者ギルド総本部へと報告するのであった。
シキさんも日々成長しています!
因みにその気になればもっと尾を増やせます。
何故最初から増やさないのか、という理由についてですが狐の獣人にとって"九尾"が最も落ち着くらしいです。シキさん含めて。
次回は10月11日(木)に投稿予定です。
次回もよろしくお願いいたします!!!




