緊急招集②
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『三体の獣』。
この『カグヤ』全域に神出鬼没な『光と炎』・『水と風』・『雷と地』の獣のことである。その獣達は、人だけでなくモンスターまでも救う『救世主』とも一部では信仰されているのだ。目撃情報は多数あるのだが、特に多いのは人やモンスター・そして自然の危機に関わるときに登場している。
例えば『光と炎』の獣は、とある村を破壊しようとした屍動竜を葬り、その聖なる炎で屍動竜によって汚染された土地を蘇らせたとされている。実際に数名の冒険者も目撃しており、土地も前より豊かになっえいると報告がネメシアや王の耳にも届いている。
『水と風』の獣は、とある大規模な採掘所で有毒ガスが発生し人やモンスター等が毒に犯される事件があったのだ。有毒ガスは採掘所だけでなく、近くにある街等にも影響を及ぼしていたのだがそこに現れたのが『水と風』の獣。その獣は有毒ガスを、自身を掃除機の如く全て吸い込んだと思うと身体から浄化された空気が広がったのだ。目撃した者はその獣はまるで有毒ガスまでも自分の栄養にしてしまったかの様な、食事をして満足していた様な感じだったらしい。その浄化された空気のお陰かは未だに不明だが、人やモンスターも有毒ガスによる症状は後遺症もなく軽傷だったらしい。
『雷と地』の獣では、三体の中で知名度は低いのだが子供達では有名である。迷子になった子供を街の近くまで送ったり、子供の遊相手になったり等。特に有名となった出来事というのが、海に近い街で大豪雨になったことがあるのだ。季節的にも大豪雨なのはよくある場所であったのだが、稀に数十年に一度非常に酷い暴風と大豪雨になることがある。そのイレギュラーな大豪雨と風による津波の影響で街は水没しようとしていた。それを阻止したのが『雷と地』の獣だった。本来はその街の住人は事前に避難しており堤防も国が造られていたのだが、子供達は自分達の街が、家が津波によって壊される事を拒んだのだ。その訴えを聞いていた獣は、その津波から街を護るべく力を使った。何処からともなく海から厚い壁を等間隔で何十にも作り出し津波の力を削ぎ落とした所を雷で相殺したのだ。その自然の脅威と獣の攻防は半日続いていたらしい。結果として街には津波の影響はなかったということだ。
これらはつい最近の話ではあるが、既に伝説として祀られている地域もある。その三体の獣は何を考えて行動しているかは不明。そんな三体の獣に惚れ込んだ者達も多く、一目見ようと『三体の獣』を探して旅するものもいたりするのだ。
その『三体の獣』が、『六天魔皇』の『大殺戮』を殺害したのではないかという事を『七大クラン』の一つ【カレイジャス】のリーダー『ジャルロン』はそう推測した。
それにローズは、ある目撃情報を追加で報告する。
「その『修羅の社』の異変に先に捜索隊を派遣したのですが……その者達から『あるモンスター』が多数目撃されているのです。全ての証言から照らし合わせると『水と風の獣』だと考えられます」
「と、すれば『大殺戮』を殺ったのはその『水と風の獣』かぃ?」
「それはどうでしょうか。『水と風の獣』は氷の力を使うという話は聞いたことがありません」
「いやわからんぞ?その『水と風の獣』の力を全て知り尽くしている訳ではないのだ」
「しかし、かの『水と風の獣』がやったという証拠はないだろう。ただ目撃しただけで判断するにはあまりにもはやいと思われるがのぅ」
話し合いの中では『水と風の獣』……即ちスイジンは容疑者という形で話は進んでいく。時折、スイジンではなく他の者の可能性も飛び交っていく。そして話の中に、レッドにとって予想外の話も出てくるのだ。
「まさか、『煌めく九尾の狐』か?」
「『三体の獣』と比べて目撃報告しかないが、あの『九尾の狐』……確かに未知数の存在ではあるが」
「『至高なる美の化身』とも冒険者から話を聞いたことがあるぞぃ」
『煌めく九尾の狐』、『九尾の狐』、『至高なる美の化身』等という異名らしい名前が出てくるなか、その目撃した場所や特徴等を聞いてみると、どうやら……。
「……(あれ、それ俺じゃね?)」
「(御主人……)」
「(御主人様……)」
後ろに控える従者二人のジト目が痛い。
しかし、シキだって気分転換したい時もあるのだ。
別に変なことをした訳ではないので、単なる幻の狐みたいな報告しかあげられていない。ただ目撃情報のみ。
その『幻の狐』の件について直ぐに違う話になるかと思われたが、【アスセーナ】のリーダーの後ろに待機していた一人の狐の獣人である女性がまるでその話に食いかかる様に前に出たのだ。
「きっ、九尾の狐っ!?そっ、それは……九つの尾がある、ということですか……っ!?」
「どうしたんだぃ、『テェイル』?」
「九つの尾を持つ狐なんて……私達『一族』でも聞いたことが、ありません」
どうやら『テェイル』という獣人の女性は九尾の狐の存在を信じられない様子であった。彼女の一族は古来から存在しているらしく、本来であればテェイルの様な狐の獣人達の方が何か知っているのではないかと考えている者は少なからず居たのだ。が、そのテェイル自身、何も知らないらしい。
まだこの話は続くかと思われたが、王は言う。
「『修羅の社』の件についてだが、それを先にどうにかしなければならない。急ではあるが、『修羅の社』の氷塊をどうにかして壊す。炎を得意とする者達を何十名か冒険者達から集いたい。勿論、王宮魔導師等も同行する」
「そうだね、案内はローズに頼むけどいいかな?」
「承知いたしました、ビティーカ様」
『修羅の社』の氷塊の破壊"には『魔王』ローズとその部下達が案内役として魔法を得意とする冒険者達を集う。
『七大クラン』からは【アスセーナ】テェイルを始め、約15名が集い『カグヤ』からも優秀な魔導師10名程。『七大クラン』以外のクランからも10名が志願した。無所属では7名程の冒険者。
何れの冒険者達はSランク以上だ。
しかし、その中でレッド達はその件には志願しなかった。
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「よかったの、御主人?」
王宮から[箱庭]の家へ帰宅した後、シリルはシキにそう訪ねた。一応『カグヤ』の王からの依頼に数少ないSSSランクであるのにも関わらず受けなかったのだ。別に他の冒険者や『七大クラン』のリーダーも参加していないとはいえ、よかったのだろうかと思っていたのだ。しかしだからと言って『七大クラン』のリーダーが全て不在には出来ないだろう。
今回その件はレッド……シキは受ける事はなかった。
それは別に他の冒険者達から反感を買われる事はまずない。
しかし、シキは。
「あぁ、一度見るつもりだよ」
「え?」
シキは『修羅の社』へ行くというのだ。
しかし、それは王からの依頼を受けてはいない。
それなのに勝手に行動してもよいのか、とシリルは質問する。
「あ~……実はこの件に関しては既にあの王様とグランドマスター、学園長には話は通しているんだ。そうじゃなきゃ後々面倒になるからな」
そう言いながらシキは自分の九つの尾をブラッシングする。因みにシキは風呂上がりだったりするのだ。リゼット達は一階でのんびりしており、今いる部屋はシキの書斎部屋みたいな場所にいる。
『カグヤ』の王、『グランドマスター』のネメシア、学園長ビティーカに話を通しているのはわかった。しかし、何故別行動をするような形を取ったのだろうか。
その理由は至って簡単。
動きやすいからである。
勿論、レッドに変装して動くわけではない。
あの会議でもあった『煌めく九尾の狐』として動くつもりだ。
そもそも『修羅の社』の異変については、事前にスイジンから連絡があったのだ。その後に学園長ビティーカと『グランドマスター』ネメシアを通して連絡しながらその件の話を通したのだ。
「御主人、勿論着いくからね?」
「ですよねぇ~」
そうシキはブラッシングをしながら了解する。
といっても直ぐに行動するわけではない。
「(それにしても……)」
シリルは、今のシキの状態にチラリを見る。
わかる通り、今のシキは耳と九つの尾を生やした狐の獣人だ。黒のタンクトップに迷彩柄の短パンという服装である。すらりと伸びる手足には無駄毛は一切なく、まるで金の延べ棒かの様な白く決め細やかな綺麗なもの。その少女の様な容姿だからこそ、そして風呂上がりということもあり余計に色気を出していた。
大分シリルも慣れてきたとはいえ、シキ以上の美人と出会う事は無いのでそれほど一目惚れ等することは無くなってしまった。いや、そっち系になった訳ではないのだが。
「んー?どったの?」
「あっ、ううん、何でもないよ。御主人、明日の予定は?」
シキは男とはわかっているとはいえ、やはり今でもその容姿は異性として見えてしまう。だが、前よりかはマシにはなったのだが。まじまじと見惚れてしまっていたのだが、それに気付いたシキに不思議そうにしている。思わずその煩悩を振り払い、シリルは明日の予定について訪ねる。
因みに明日と明後日は学園は休みである。つまりシキとアイリス、マシロも休みなのだ。週二日休みがあり、それは教師も同様である。
「そうだな……。明日はリゼット達の手伝いをしようかな?」
読者の皆々様、お読みしていただきありがとうございますっ。
次回も頑張るのでよろしくお願いしますm(_ _)m




