エルフの国
話、暗いです。
内容もヘビーかも……。
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前回のあらすじぃぃぃぃぃい!!!
『コハク、登場!』
『幼馴染みや後輩?』
『彼女達の物語は、別のお話で……』
のどんっ!ι(`ロ´)ノ
ある薄暗い一室。
その一室は木製であり、古びた様子はかなりの年月が経っているだろう。まだそれだけならこの世界では何処にでもありそうな風景である。だが、その何処にでもありそうな風景とは、一風変わった部分があった。
それは、檻である。
その檻は鉄格子ではなく、硬度な鉱石や樹木が絡み合っている。加えて濃密度の魔力が宿っており、『勇者』や『魔王』等の強者が束になってもそれを破壊するのは不可能だろう。
檻は部屋の中心を取り囲まれており、一つも出入り口がない。鍵も何もかも。
その檻の中には一人の女性がいた。
光が当たればきらびやかに美く長い金髪に、尖った耳。肌も白く透き通っており艶がある。その特徴から『森族』だとわかるだろう。年齢は不明ではあるが、その『森族』の彼女の目には生気がなく、瞳は酷く濁っていた。彼女は古びた人形を抱き抱えながらぶつぶつと何か言葉を発している。恐らく人形に対して話しているのだろうか。その人形は白と金色の髪に頭には狼の耳が生えた少年の様だ。その人形には何者かのモデルがいるのだろうか。
彼女はその人形の頭を愛おしそうに撫でたり、抱きしてめいた。
旗から見てみればその人形が大切なのがわかるのだが、目の生気が無く、瞳が濁っていれば、その『森族』の女性は尋常じゃない精神状態なのは誰の目からわかる。
「『ディー』。今日も私と一緒に寝ましょうか。……ふふっ、大丈夫よ。ずーっと、ずーっと、一緒よ。えぇ、貴方の事、愛しているから……。私がずっと、そばにいるから……」
彼女は人形と向き合いながら話す。人形は動くわけでもなく、話返しているわけでもない。本当にただの人形。しかし『森族』の彼女はあたかもその人形と会話をしているみたいだ。
その閉鎖的空間に、突然扉が開かれた。
開かれた扉から光が差し込んでくるのだが、『森族』の彼女なにとっては図々しく嫌悪を抱いた表情をしていた。人形を抱き締め扉から入ってくる者に無機質な目を向ける。
「……だれ?」
「私です。『アルフィ』です。」
「ある……ふぃ?」
「貴女の息子の『アルフィ』です」
「私の、息子……?」
『アルフィ』と名乗る『森族』は中性的な顔立ちと体型で美形な男性だ。しかし、黒く長い髪は普通の『森族』とは異なっている。大抵の『森族』は黒い髪等持っていない。『アルフィ』というその『森族』は違った存在だとわかるだろう。
人形を抱き締めながら『森族』の女性は困惑した表情を見せていた。
「わたしの、むすこ……?」
「はい」
「……ぅ。……違う、違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウ!!!」
『森族』の女性は人形を強く抱き締めながら、壊れたかの様に檻の外側にいるアルフィを拒絶するかの如く否定する。しかし、アルフィの母親は間違いないのだが、その母親は否定し人形を強く抱き締めた。母親である筈なのに彼女は実の息子に対して否定する等母として、親としてあるまじき行為だろう。
「わたしに、ワタシニ!息子など、存在しなイ!!!ワタシの、私の、家族は、『ディー』、だけっ!!!お前は、私の、息子なんかじゃ、ない!!!」
「母さん……」
「消えろ!今すぐ、ここから出て行けっ!!!その黒髪なんて、見たくない!!!……お願い、だから……、『ディー』との邪魔を、しないで……」
『森族』の女性は、酷く憎悪に満ちた様子で息子であるアルフィを睨んでいた。加えてこれ以上人形の『ディー』との邪魔をしないでほしいと悲痛な表情を浮かべていたのだ。息子であるアルフィは何も言う事が出来ずに手から血が出る程に握りしめていた。
なんと酷い母親なのか。
誰もが思うだろう。
しかし、母親である彼女は今にも死にそうな程に悲痛の表情をしているのだ。
まるで、過去に自分にとって大切な存在を失った、様な……。それを二度と思い出したくないのか……。
「……母さん」
アルフィは母親である女性が強く抱き締めていた人形を見て、申し訳無く、目を逸らしてしまう。
彼女がその人形を『ディー』と呼ぶのは理由があった。
かつて、その彼女の最愛の人物だった事。またの名を、『悲劇の英雄』。もう、その彼は既にこの世には居ない。
アルフィ自身も何故、母親である彼女がこれまでに自分を拒絶するのかも理解していた。それを理解しているからこそ、何も言う事が出来ないのだ。
生まれた子供には罪はない。
それは母親である彼女もわかってはいるのだろう。だからこそ、彼女は自ら檻の中へ引きこもり息子と関わる事を断っていたのだ。しかし、彼女にとって年月が経つにつれて母親は心を病んでいった。ただ、最愛の人を失っていただけならこうなってはいなかったのだ。
「ねぇ、『ディー』?今日は『ルーシェ』ちゃんは来ないのかしら?……ねぇ、そこの貴方、『ルーシェ』は?」
そこにいるから仕方がなく、といった感じに『森族』の女性は未だそこにいるアルフィに問う。『ルーシェ』という人物は彼女のお世話係りだった『森族』の女性の名前だ。だった、というのは既にこの国には居ない。彼女にとって『ルーシェ』はお気に入りだったのだろう。何故『ルーシェ』がこの国から居なくなったのかは詳しくは教えて居なかった。
「『ルーシェ』はこの国にはいません」
「えぇ、それは聞いたわ。でも、皆、何故居なくなったのか教えてくれないのだけど」
「……」
「何時か戻ってくると思って詳しくは貴方達に聞かなかったけど……もう、20年以上。『ルーシェ』は何処にいったの、教えなさい」
「それは……」
何故アルフィ達は彼女に『ルーシェ』がこの国から居なくなった理由を教えなかったのか。彼女は何処か旅に出ているのか等で何時かは帰ってくるものだと思っていたらしい。もし、その理由を言えば彼女は激情に駆られる可能性が高いとわかっていたからだ。それは絶対とは言えない。だが、彼女は『森族』の中でも魔法を極めた存在であり、仮に激情に駆られる事になれば被害が出てしまうと思っていた。
しかし、何時かは話さなければならない。隠し続けるのも難しいだろう。前までは聞こうとしなかった彼女が聞こうとしているのだ。
「『ルーシェ』は、ヒューマンの男と共に人生を歩んで行きました」
「ヒューマンの男……?『ルーシェ』の恋人、なの?」
「はい」
「……まさか、そのヒューマンの男は……。あぁ、そういうことですか。だから私に言わなかったのですね!!!そのヒューマンの男は、『勇者』なのですか!?!?」
「……っ!?」
あまりの迫力に檻の外からでも思わず驚いてしまう。いや、こうなるのはわかっていた。彼女も何故その事を言わなかったのかを察してしまう。ただの男ならば最初から話していただろう。しかし、その男が『勇者』ならば話は別。彼女は『勇者』を最も嫌っているからだ。最愛の人を陥れ、周りを騙し成り代わった最低最悪の存在を。
「今すぐ『ルーシェ』を連れて帰りなさい!!!『勇者』等、人々を不幸にするだけです!!!あぁ、『ルーシェ』。あの酷く野蛮で卑怯な『勇者』に苦しんでいる筈です!!!」
「そんな事はありません!!!彼は、『ジーク』はそんな者ではない!!!彼は心優しい者です!!!それは私だけでなく、他の者達もそう思っています!!!」
「っ!」
まさか反論されるとは思っていなかったのだろう。彼女は驚きはしたものの、自分の発言を撤回する気は全く無い。一方のアルフィは流石に『ジーク』という人物に対するその発言は母親であろうと許せなかったのだ。
「……『ルーシェ』、愚か子ね。『勇者』等、この世から消えればいいのよ。まさか『ルーシェ』がそんな馬鹿だなんて」
「母さん!」
「私を母と呼ぶな!!!お前は、私の、息子ではない!!!ーーーっ、あぁあぁあぁあぁ!?!?その黒髪、本当に憎たらしい!!!忌々しい!!!お前は、あの『勇者』を思い出させてくれますね!!!最悪です!!!もう、いい!!!はやくここから、出て行けっ!!!」
「っ!……わかりました……」
彼女は叫ぶように言い終えると、アルフィは苦痛の表情でその空間から退室する。その様子はこれ以上母親のあれほど取り乱し、怒り狂う様子を見たくはなかったのかもしれない。
彼女はアルフィが出ていったのを確認すると抱き締めていた人形と向かい合う。
「大丈夫よ、『ディー』。私は絶対に貴方から離れないから。ずっと一緒だから、ね。『ルーシェ』の事は忘れましょう。私には『ディー』さえいればそれでいいのだから……」
自由とは素晴らしいものなのだろう。
しかし、自由というのは、その自由から発生した問題等は自己責任だ。
だからこそ、自由とは、何をやっていい事ではなくなる。
それでも、自由を求めるのなら、覚悟を決めなければならないだろう。
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