勇者という犯罪者
この話はあまりよろしい話ではありません。
苦手な方は見ない方がいいと思います。
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前回のあらすじ。
『敵地へ』
『覇王は金剛』
『ユウヘイ・ウラサキについて……』
です。
『覇王』、『金剛』の幹部であるシルファは『勇者』であるユウヘイ・ウラサキについて知っているかどうかを聞かれる。これに『ユキ』は名前と既に死亡している事しか知らない。
しかし、何故シルファがその『勇者』ユウヘイ・ウラサキの事を知っているのかが疑問である。
「その……ユウヘイ・ウラサキという『勇者』の話とはなんでしょう?」
「その『勇者』はのぅ、色々と馬鹿な事をしてくれたのじゃよ。……ある森の食物連鎖を大きく崩す程に狩りまくり、草木等の自然を破壊したのじゃ。しかもの、『勇者』という立場を悪用して近くの村にいた娘達を無理矢理犯したのじゃよ。敵対する男達はその場で殺し、女子供はそやつの妬みものじゃ……。」
そのシルファの発言に言葉を失ってしまうユキとラヴィ。ユキはその『勇者』に対して嫌悪感を抱きながらシルファに聞く。
「その……村は……どうなったんですか」
「壊滅しておる。儂が向かった時には既に村人達の亡骸のみじゃった……。全員埋葬したから心配せずともよい……」
既に壊滅していた。
その事を聞いたユキは表情には出さないが内心マグマの様に怒りが込み上げていた。聞くによると村の男達は目も開けられない程の残酷な姿になっていたらしい。女子供達は尊厳、人権を無視したかの様な扱いをされそのまま縄で繋がれて死んでいた様だ。
しかし、ここで疑問に思った。
何故そこまで知っているのか、と。
ここでユキは失礼を承知の上で彼女に問う。
「貴女が何故そこまで知っているのでしょうか。それに……本当にユウヘイ・ウラサキという『勇者』だったのですか?」
「そう疑われるのはわかっておった。今話したのは儂が直接見たわけでも聞いたわけでもない。彼女達からじゃ」
「彼女達……?」
シルファはその席から一時的に離れると近くの船内へと入っていった。この時、シルファの後で腕を組んでいた『金剛』は静かにその場で座っている。だが、一切言葉を発する事は無かった。
シルファが外したこの場は気持ち悪い位に静まり返る。この場で誰もが話す気にはなれなかったのだ。『金剛』でさえも。
すると約10分程経つとシルファが戻ってきた。後ろに5名程の少女達を連れて。
連れられた5名の少女達は尋常じゃない程に身体を震わせたり、今にも泣き出しそうに涙を溜めてシルファの後ろへと隠れる様にしている。
「彼女達は……?」
「……元奴隷、じゃな」
話を聞くと彼女達は奴隷だったらしい。だが、既に奴隷から開放されている。只し、彼女達全員は奴隷ではあるが法的にしっかりとした奴隷らしい。予定では貴族の使用人として働く事になっていた様だ。給料も出るし、待遇も良いらしくそこで住み込みの暮らしをする筈だった。
貴族の屋敷へと向かうために奴隷商人の馬車で移動していた時だった。
奴隷商人の馬車は檻で入れられたりする事は無く、尊厳や人権を守った一人の人間として乗っていた様だ。奴隷商人の人も温厚で優しい人物だったらしい。護衛の冒険者達も同行していたらしが、道中で盗賊に襲われたらしい。
そんな時、ある人物が盗賊を撃退したのだ。その人物こそがユウヘイ・ウラサキという『勇者』。
「……最初は……助けてくれたので、いい人、だと……思った、んです……」
「で、でもぉ……あいつがぁ、……『助けたんだから奴隷を寄越せ』って……」
「奴隷商人さんが……何を言っても、文句を言って……」
「暴れだしたあの人を止めようと……冒険者の人が……斬られて……」
「奴隷商人さんも、冒険者の皆さんも……殺されちゃった……逃げようとした他の皆も……うぅ……」
どうやら奴隷商人と冒険者達だけでなく、彼女達以外にも数十名いたらしい。奴隷商人はユウヘイ・ウラサキに御礼をしなかった訳ではない。多額の金に価値のある道具などを差し出したらしい。しかし、何を思ったのかユウヘイ・ウラサキは自分の思い通りに奴隷を寄越さない奴隷商人、止めようとした冒険者達全員を斬殺したということだ。その時、ここにいる5人の少女達はショックでその場で動けなかったらしいが彼女達以外は抵抗した事により男女子供関係無く殺害されてしまう。
抵抗すれば殺されると5人の少女達はユウヘイ・ウラサキの奴隷となるしか生きる道は無かったのだ。
シルファの言う通りモンスター達を狩りまくり、無抵抗な兎や小鳥までも含めて全滅してしまいそうな程だったらしい。その時のユウヘイ・ウラサキは何故か心底楽しそうに生き物を殺していたようだ。殺したモンスター達はその場で放ったらかし。暇さえあれば彼女達を犯し、木々を使って『必殺技を編み出すぜ!』等と言いバッサバッサと伐採し続けた様だ。
村に訪れた時は自分は『勇者』だからという理由で村娘達を強迫し年端の行かない娘も手を出していた様だ。流石にそれは村の者達から反感を買ってしまうが口を出す者は殺害し、女子供達はそれぞれ監禁して妬みものに。
彼女達はそれを思い出したのか身体を震わせて痙攣を起こしたかの様にその場でヘナヘナと座り込んでしまった。
それを黙って聞いていたユキの身体から漏れ出す様に冷気が溢れていく。冷気だけではなく、氷で生み出された下駄を履いているのだが、そこから床に向けてペキペキっと凍り付いていた。だが、それはユキの周りだけで起こっている現象なので他には害はない。しかし、何も詠唱や魔方陣無しで辺りを冷気を、床を凍てつかせる光景を元奴隷達の彼女達は一瞬恐怖を忘れて信じられない様な表情をしていたのだ。それはシルファも同様であった。
「……失礼しました」
ユキは無意識に怒りによって冷気を、床を凍てつかせていた事に気付き、謝罪するとそれらを一瞬で収める。
本来なら桁外れた人外的な力を無意識に放った事に恐怖を覚えるだろうが、彼女達はその姿が儚くも美しいと感じてしまう。この世には有り得ない光景を。幻想的で、強く、神をも目に止めてしまいそうな雪の結晶を。
「……ん?」
既に消えてしまったがそんな光景に心を奪われてしまっていたシルファと元奴隷の彼女達だったが、その様子を不思議そうに顔を傾げたユキに思わず目を反らしてしまった。
だが、何故だろうか。
先程までユウヘイ・ウラサキという犯罪者を思い出して身体が拒絶反応を起こしていたのだが、今はもう無い。不思議と安らぎを感じてしまうのだ。
「(ほおぉ~……安らぎのオーラを放ってるなぁ……)」
「(あのままでは彼女達の精神が蝕まれていた様だな。……全く困ったものだ。力に溺れ、己の欲求を発散する為にこれほどまでするのか……)」
金剛とラヴィはユキがシルファと彼女達に向けて安らぎの力を解き放っていた事に気が付いていた。
安らぎのオーラは黙視でもわからないが、彼女達を包み込む。
ここでユキはシルファに本当にそんな事をしたのがユウヘイ・ウラサキなのかと話す。やはりユキ自身も信じられないらしい。
「……これじゃよ」
そうシルファが差し出したのは一つの財布。
財布にはある文字がある種のデザインの様に記されていた。そう、地球での文字が。
その中身を見てみるとやはり日本で使用されている札と貨幣。そして幾つかのカードも入っていた。それを一枚一枚確認していくと日本語で書かれており、この財布の持ち主は日本人だとわかる。そして決定的なものが1つ。
学校から配布された学生証。
写真や名前、住職等の個人情報が記されていた。
そして、やはりしっかりと書かれている。
浦崎勇平、と。
見た瞬間、ユキは思わず片手で頭を抱えてしまう。
「……はぁ」
本当に酷い頭痛に悩ませるかの様にユキ自身の表情や顔色の優れない。
本当は嘘であってほしいと思っていたが……無理を承知で元奴隷の彼女達に写真を確認すると確定だった。もうどうしたらいいか分からないユキは唯唯頭を抱える事しか出来ない。
頭を抱えながらユキは何故、浦崎勇平の財布を持っているのか聞くことにした。
シルファは話す。
「儂が殺したからの」
「……浦崎勇平を、ですか?」
「そうじゃ。まさか『何故殺した!』とか『殺す程でもないだろ!』とか言わんでくれよ?……どうしても同じ女として元奴隷の彼女達を見捨てる事が出来なかったのじゃ。まあ、儂の城に一人で突っ走って来たから保護するのは簡単じゃったがな」
「……そう、ですか」
この魔王シルファは元奴隷達を救ったのだ。もしシルファが助けなければそれこそ彼女達は更に酷い事をされていたのは間違いないだろう。
殺されても仕方のない事をしたのだ。
「彼女達全員『勇者』達を信用できん。例え『勇者』でなくても……『ちきゅう』と言ったか?そこから来たものは全員信用できんのじゃ。勿論、お主もの。ここに連れてくる時に彼女達は言っておった。あの浦崎勇平と同郷なら、また同じことをされる、とな」
「……えぇ。そう思われても仕方がありませんね」
異世界から召喚された『勇者』達は全員地球の代表であるのだ。その誰か一人が余計な事をすれば他の『勇者』達の評判も同時に落ちてしまう。下手をすれば『勇者』だけでなく、その地球に住まう人々全員が悪として認識されてしまう恐れもあるのだ。
それをゲーム感覚で周りに迷惑掛ければどうなるだろうか。
既に5名の少女達が人権、尊厳を失われ被害を受けてしまっている。もうこれは取り返しのつかない事なのだ。
「(あぁ……くそォッ……)」
ここで自分は関係無いと言えないユキは悩んでしまう。もう悩んでも遅いのだが。同じ地球人だからこそ、自分にも責任が自動的に負うのだ。だからこそ、どうすればいいのかを悩んでしまう。
悩んでも結果が出ないので、ユキは5名の元奴隷少女達の前に歩み、そこで正座をして座る。彼女達は怯えた様子であったが、ユキは[空間庫]から軍服を羽織ると、そのまま自身の額を床に付けて謝罪したのだ。
「本当に……申し訳ありませんでしたッ!!!」
そう、ユキは土下座をしたのだ。
同じ地球人として、組織の序列に君臨する者として、軍人として。
ユキは自分の土下座で許される事は無いのはわかっていた。だからといって謝罪しない訳にはいかない。これは元奴隷少女達だけでなく、無惨にも殺害された村人に破壊された自然にも含まれていた。
「……ッ!!!(あの軍服は……ッ!)」
『金剛』はユキが羽織る軍服を見て目を見開くが、声までは出すことはなかった。後ろにいたラヴィも驚いた様子ではあったが、遅れて「すまぬ……」と言い横で同じく土下座をする。姉として弟だけ謝罪させる気は無かったのだろう。
「な……ッ、何をやっておるのじゃ、御主等ッ!」
最も驚いていたのはシルファだった。まさか絶対強者である二人から頭を床に付けて謝罪するとは思わなかったのだろう。彼女は元奴隷少女達の為に言ったのだ。
一人の元奴隷少女が声を震わせて言う。
「……あの馬車に、友達が……いたん、ですよ?……大事な、友達だったんです……ッ。……かえ、してよ……かえしてよぉ……。なんで、あんな人が、『勇者』なんですか……。あの、奴隷商人さん、には……『今月に子供が産まれる』って、言ってたん、ですよ……。ひどい、よ。ひどい、よぉ……みんな、かえしてよ……」
「……ッ」
涙ながらに言う少女はわかっているのだろう。
幾ら言っても死者は生き返らない。
ユキ達には同郷なだけで関係ない。それにこれは八つ当たりなのだと。
だが、彼女は耐えきれなかった。
友達を目の前で殺され、産まれる子を見る事を叶わずに殺された奴隷商人。
その少女は言い終えたかの様にその場で涙を流して泣いてしまう。それに連れられたのか他の4名の少女達も同じく静かに泣き続けるのであった。
今回、ミアンは休みです。
次回、『ユキと金剛』。
次回もお楽しみ。
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