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倒せるのでしょうか?

前回のあらすじぃぃぃぃぃぃぃい!!!


『クロスボウ、製作っ!』


『生徒達が迷宮(ダンジョン)に?』


『残酷な現実へと……』



「うっ……わぁ……」


「何、あれ」


「喋った、よな?」


「……気持ち悪」



生徒達は目の前に現れた異様な醜い泥人形を見て誰もが嫌悪感を感じ、中には吐き気を催す者達もいた。教師は生徒達の前に立って守るように剣を構え、魔法を何時でも撃てるような体勢になっている。それと同時に騎士団長達も同様だ。これまでにない緊張感を放っていた。



「団長、あれは……」


「あぁ、あれは……よくわからん、が、ヤバい事はわかる。全員、油断はするなよ」



騎士団長の言葉に頷いた騎士達と教師だったが、『勇者』達である光城達は酷い泥人形を見ながら余裕そうな表情をしながら前に出てしまう。



「大丈夫ですよ。あんな動きの遅そうなモンスター、勝てないわけないじゃないですか」



光城が言う通りその酷い泥人形の動きは客観的に見てみれば身体中の泥のせいで動きにくそうであった。それに泥人形は一歩一歩足の様なもので移動しているが、明らかに遅い。人がジョギンクする程度でも追い付かないだろう。



「いや、だがな……」


「大丈夫ですって!ほら、皆いくよっ!」



光城の掛け声と共に光城ハーレム達は勝てると確信してしまったのか、魔法を発動してその泥人形へと次々と放っていく。



「『光玉(ライト・ボール)』!」


「『火玉(ファイア・ボール)』!」


「『水玉(ウォーター・ボール)』!」


「『風玉(ウィンド・ボール)』!」



そのハーレム達に続く様に他の生徒達も魔法を放つ。



「ま、待つのだっ!」


「皆、待ちなさいっ!」



騎士団長と教師の声も虚しく届かない、例え届いたとしても止める事は無いだろう。勝てると言う確信が、彼等の判断を大きく麻痺させていたのだから。



「よしっ!やった……ぞ?」



放ち終えると光城はモンスターを倒した事をやり遂げた様に言う。しかし、その無数の魔法を放たれ、被弾した泥人形の方を見ると全く効果がないのか平然とした様子で攻撃してきた生徒達をじーっと眺めていた。まるで芸がないと言いたげな様に。



「……ならっ!」


「おいっ!」


「待てっ!」



光城は国王から貰った武器、聖剣を手に持つと騎士達が止めようとするのを振り切ってそのまま泥人形へと突っ込んでいく。それを見た生徒達はまるで英雄(ヒーロー)が現れたかの様に目を輝かせていたが、騎士団長達と教師は顔を真っ青にして今からでも光城を止めようと駆けていく。



「いくぞっ!はぁぁぁぁぁつ!!!」



両手に持ち帰るとそのまま泥人形の顔であろう部分に向かって聖剣を降り下ろす。流石に泥人形でも頭部を切断すれば倒せるだろうと思っていた。



思っていた、だけだった。



「な……に?」



光城が降り下ろした聖剣は確かに泥人形の頭部へと降り下ろした。それは確かな事実だ。


だが、泥人形は何の抵抗もせずに、それを受け入れていた。


その結果が……。



「傷一つ、ついてない……っ!?」



そう、光城が降り下ろした聖剣は泥人形の頭部の頂点で止まっていた。泥人形は何もしていない。只その聖剣、又は光城の技量では泥人形を傷一つつけることが出来なかったのだ。



「嘘、だろ……」


「オ前、弱イナ。面白クナイ。ア、ソウダ」



泥人形は目の前で必死に聖剣を両手に力を入れている光城に向かって手を伸ばした。その伸ばした泥の手は広がる様に光城の身体を拘束した。



「く、くそっ!?離せっ!」


「「「光城君っ!!!」」」


「コノママオ前ヲ、殺ソウカナ~?」


「ひっ!や、やめっ……」


「助ケテ欲シイ?」


「ぇ……え?」



完全に拘束されてしまった光城に泥人形はある提案をする。そんな中、光城ハーレム達は光城を助け出そうと考えるが光城が盾になってしまうので動けずにいた。それは騎士団長達と教師も同様だ。



「ジャァ……アソコ、ニイル……オ前ノ、仲間、恋人、イルダロウ?ソノ中カラ、一人ヲ、指名シテ、オ前ノ変ワリニ、殺ス」


「なっ……」



泥人形からの提案は実に最悪なものであった。


要するに、自分が助かる変わりに自分以外一名を指名して身代わりにさせるということである。


そんな理不尽な提案に光城は抗おうとする。しかし、泥人形に身体を完全に拘束されているので脱出することはできない。例え他の者に助けを求めてもこの拘束をどうにかできるとは思えなかった。



「サア……ドウスル?」


「う……ぁぁ……」



泥人形の声はまるでこの世の怨念が全て凝縮さてた背筋の凍る、恐怖しか与えないものだ。それを直ぐ側にいた光城は声を満足に出せない程の恐怖を過剰にも感じ取っていた。


しかし、その選択は第三者によって阻止される。



ーーーパシュッンッ!



何処からともなく泥人形の顔面に向かって一本の矢が放たれていた。その時の光城は泥人形の顔面から離れていたので当たりはしない。だが、いきなり射られた矢に泥人形は少し動きを止めて、その矢に注目してしまった。


当たる瞬間、その矢の尖端にあった透明感のある石が目映い光を放ちながら広がったのだ。


光は閃光となって泥人形の視力を一時的に奪い取った。



「ヴヴゥァォァァァァァァァァア!?!?目、痛イ!何ダ、何ガ!アァァァァァァァァァァァ!!!」



泥人形は血走った両目を両手で抑える様に身体を後退する。その際に光城を拘束していた泥の手も緩んでしまう。閃光が広がる中、誰もわからなかったが光城は鼻水を垂らしながら命からがら泥人形から離れる事に成功する。幸運だったのは迷宮(ダンジョン)に向かう前に御手洗いに行っていたので股から洪水が溢れる事はなかった。


閃光が治まると泥人形は数秒の間唸っていたが、目が見えるようになった事により更に血走った両目で当たりを見渡す。



「誰ダ?」



その泥人形が目の先には小柄で貧弱そうな少年、桜間葵が息を切らしながらそこにいたのだった。




~~~~~




やはり嫌な予感が的中していた。


目の前には僕を見ている泥人形がいたのだ。それはこの世の者とは思えない程酷い姿で、特に血走った目と横に裂けた口には酷い嫌悪感を抱いてしかたがない。


僕があの泥人形に放ったのは『閃光石』と呼ばれる透明感のある石だ。それは殺傷能力は全く無く万が一光城君に当たっても問題ない。だが、その『閃光石』はある程度の刺激を当てるとその石は激しい光を放つ不思議な鉱石だ。一時的に視界を奪うほどのものではあるが残念ながら失明まではいかない。単なる時間稼ぎにしかなかないのだ。



「……弱ソウナ奴ダナ。ダガ、ソコノ腰抜ケヨリカハ、面白ソウダ」



腰抜けというのが誰かは分からないがその泥人形は何処か楽しそうな表情で僕を見ている。


本当は逃げ出したい。


あの光城君でも手足も出せなかったのだから。


でも。


だからと言ってここで逃げ出せる事はしたくない。


大事な家族である真紀と真理がいるのだから。


もし、ここで仮に逃げたしたら、お父さんに顔向けが出来ない。


逃げる事も間違いではない。これは、僕自身の意地でもある。



僕は透かさずクロスボウに殺傷性のある矢をセットすると泥人形に向けて放つ。その放たれた矢は見事に頭部に突き刺さる。だが、やはりと言ったところか刺さった矢は沈むように無くなっていくと泥人形は何事も無かったかの様に平然としていた。



「くっ……駄目か……」


「葵ちゃん!」


「兄さん!」



光城ハーレムの中にいる真紀と真理が叫んでくれるが、正直勝てそうに無い。勝てる要素は一切感じられない。どうすればいい?


すると、泥人形は裂けた口を吊り上げながら、僕ではなく光城君に向かって顔を向いた。その前に騎士団長が前に出ると剣を構え、相手を様子を見ている。


騎士団長は誠実で強い人だ。光城君達生徒達が束になっても一瞬で倒した程の実力者。だが、その人物であってもあの泥人形に勝機があるかと言えば……情けないが想像がつかない。それほどあの泥人形は異質で底知れない『何か』があるのだ。



「光城ダッケ?モウ一度言ウゾ?オ前ヲ殺サナイ、変ワリニコノ場ニイル、誰カヲ殺ス。サア、誰、ニスル?」


「悪いが、貴様の相手はこの私だ!」



泥人形が光城に訪ねていると横から騎士団長が剣に炎を宿しながら斬りかかってきた。しかし、泥人形に斬りかかる前に新たな醜い泥人形が現れて騎士団長の剣を止めた。


その新たな醜い泥人形と騎士団長の実力は五分五分。よく見ると泥人形は面白そうな拒絶勘を与えるのに十分な笑みをしている。もしかすると騎士団長より実力はあるが、わざと相手に合わせているのかもしれない。



「う、うわぁっ!」


「えっ、後ろからもっ!?」


「い、いゃぁぁぁぁあっ!!!」



「な、何っ!?」



地面から湧き出た様に現れた泥人形達は僕達を逃がさぬように取り囲まれていた。本体であろう泥人形は光城君に問う。



「誰ニスル?ソコデ泣イテイル女カ、腰ヲ抜カシテイル男?ソレトモ……自分自身カ?時間ハ待ッテナイゾ、速ク、シナイト、全員、死ヌヨ?」


「……だ」



光城君は何か、誰かの名を言った。だが、それは全く聞き取れなかった。生徒達、誰もが自分ではない様にと願っているだろう。



「……ア?誰ダッテ?」




「桜間、葵!『無力』なお前なら、わかるだろう!『無力』なお前が俺達の為に最期に役に立てよッ!!!」




……一瞬、何を言われたのかわからなかった。


光城君は『桜間葵』、つまり、僕を指名したのだ。



「ア……ハ……♪アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!ワカッタヨ!ワカッタヨ、光城!オ前ヲ殺サナイ、変ワリニ、桜間葵、ヲ、殺スッ!」



泥人形の標的は、光城君から、僕に代わった。



「グッ!?止めるんだ!貴様の相手は私だろうっ!」


「悪イケド、オ前ハ興味ナイ」



騎士団長の叫びも意味も成さず、泥人形は完全に僕をターゲットにしている。その血走った目に、僕は足が鋤くんで、何がどうなっているのかがわからなくなってきた。


僕は助けを求める様に生徒達を見るが、無意識に期待していた物とは真逆の仕打ちであった。



「さっさとあの泥人形に殺されろよ、『無力者』!」


「アンタが死なないとあたしたち助からないじゃないっ!」


「光城の言う通りだッ!最期くらい役に立てよッ!」


「はやくいって!!!」


「死にたくないんだ、許してくれ……」


「ごめん、なさい。私、生きたいから……」



罵倒が僕に降り注ぐ。


僕は目だけをある二人に向ける。



「葵ちゃん……」


「に、兄さん……」



真紀と真理の二人は消えそうな声を出しながらも、僕が犠牲になる事に異議を唱えたりはしなかった。



あぁ、僕が守ろうとした存在は、こうも簡単に意味を無くしてしまうのか。


お父さんも、こんな気持ちだったのかな?



だが、誰もというわけではなかった。



「何を言ってるんだ、君達はっ!」


「やめなさいっ!私が、教師である私が犠牲になりますから!葵君を離してくださいっ!」


「センパイ、俺が葵君を……」


「いや、お前はまだ若い!俺がっ!」



唯一僕を助けようとしたのは教師と騎士さん達であった。教師は僕のクラス担任の女性教師で、教師としての責任感のある人物だ。騎士さん達も『無力』な僕をよくしてくれる心優しい人物達で……この人達は死んでほしくはない。



「残念ダケド、モウ桜間葵ヲ殺スノハ、決定シタ。」



気づけば目の前に泥人形がそこまで来ていた。余程真紀と真理、そして生徒達に裏切られた……いや、勝手に僕自身が期待していた事に裏切られた事がショックだったのか、目の前が見えていなかった様だ。


泥人形は僕に向かって泥々な片手を出しながら何かをしようとする。


もう、死ぬのか。


でも、誰かの為に死ねるなら……。


いや、何で。


何で?


僕は、皆を守る為に……。


皆の力になれる様に……努力したのに……。


あぁ。


もし。


もし、僕が仮に生き残ったとしたら。


僕は、彼等を。



無関心になってしまうだろう。



そんな意味も無い事を思いながら、泥人形の手から何か激しく発光する。そして大きな爆音が聞こえたかと思うと右目に激痛が走った瞬間、身体全体の感覚が冷める様に意識も刈り取られてしまった。








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