えっち! 何を見ているのよ!
次の王を決める戦い。
突然中二臭い言葉が出てきて俺はゾワゾワっと来た。
べ、別に心が惹かれるというかそういう日常とかけ離れた台詞というか、そういったものに憧れを抱いているわけではない。
だって俺、もう高校生だし。
そんな中二病よりもエロに興味があるお年ごろだし。
……すみません、一瞬ワクワクしてしまいました。
そんなことを思いつつ俺は火瑠璃を見る。
彼女は俺を変な顔で見ていた。
「何でそんな嬉しそうなのよ」
「いや、何となく格好良いかなって」
「……一般人のような反応をしやがって」
「だって俺は一般人ですし。そういった反応しかできませんよ。それで“王”ってなんですか」
さくっと聞き返すと、火瑠璃が口をへの字に曲げて、次に氷子を見て、
「なんかこいつと話していると辺に緊張感がなくて気持ちが悪い」
「仕方がないよ、火瑠璃ちゃん。異世界の人だし。この世界がまだ夢なんじゃないかって疑っているし。えっとまず始めにこの世界には15の国があるの」
それを聞きながらゲームの中に有るこの世界と同じなんだなと思う。
けれどそこから先が、俺が知っているゲームと違っていた。
正確には、そこから先が違っていた。
「人間の王国が争いつづけた期間があったのですが、それに魔物も含めて関係のない者達が巻き込まれて、一度、全てが絶滅しそうになったのです」
「……戦っていた者達もか?」
「はい、種の保存ができるぎりぎりの人数――獣人など人型の存在を含め、それぞれの国がそんな状態になりまして。ただそれくらい激しい戦いであったため、それによって魔法技術も大分失われてしまい、文明が後退したと言われています」
「そ、そうなのですか」
「そしてその過ちを繰り返さないために、それぞれの王家の姫が自分の兄弟を王にするために戦うこととなったのです」
今すごく不穏なことを聞いた気がした俺。
戦うって言っていたよな、今。
俺がそんな不安そうな顔をしているのに気づいたのだろう、そこで氷子が慌てて、
「で、でも姫ということもあって、殺したり傷つけすぎるのも駄目なんです。それを行った姫は、最果ての島と呼ばれる、エルゼーレ島に一生幽閉される決まりになっています。そしてもちろん、その王を決めるこの“決闘”への参加資格も失うのです」
「そうなのか。それで周りの一般人は?」
「極力、巻き込まないようにという程度で」
「俺のみの安全は保証されていないじゃないか!」
そう叫ぶと火瑠璃が深々とため息を付いた。
「あんたね、あれだけの力を持っておいて守ってもらおうなんて甘いのよ」
「で、でも俺は素人で……」
「仕方がないわね。だったら私が特別に貴方を守ってあげるわ。そして手取り足取り魔法を教えてあげる」
「あ、ありがとう」
「べ、別にお礼なんて言わなくたっていいし。こ、困っているみたいだし」
そんなどもっている火瑠璃。
しかもそのまま俺から顔を背けてしまう。
何でだろうなと俺が思っていると、氷子が、
「アキトさん、でしたか」
「は、はい、何でしょう」
氷子は、にま~と楽しそうに笑った。
その笑顔に俺警戒を強めるが、彼女の口から出たのは予想外の言葉だった。
「実は貴方の顔って、火瑠璃ちゃん、すっごく好みなんですよ。一目惚れするタイプなんです」
「へ?」
「こう見えて、火瑠璃ちゃん、面食いなんです」
氷子がニコッと笑った。
なので俺もつられてにこっと笑うが、そこで火瑠璃が、
「わ、悪かったわね、す、す……好きなのは別にいいでしょう」
「そうか、ありがとうな」
「そ、そう……意味が分からない、何よこの会話」
脱力する火瑠璃。
そうか俺、美形に見えるのか……珍しいなと思った。まる。
そこで、そんな火瑠璃を放っておいて、俺は氷子に気になることを聞いてみた。
「殺したり傷つけたりして駄目なら、どうやってその“決闘”の勝敗を決めているんだ?」
「それは相手からこの、色石のついたピンバッジを奪い取ればいいの。私は氷子から奪ったから現在2つね」
そう言って見せてきた襟元のピンバッチには、赤い石と青い石がはめ込まれている。
それは別にいいのだが、そうやって襟を引っ張ると、中の方の、形の良い2つの山の谷間が……。
「……えっち! 何を見ているのよ!」
「ご、ごめん、つい……」
だ、だって服を引っ張ったら中の方まで見えそうになるじゃないか!
俺は全く悪くない! ……と思う。
結構形が良く大きかった気がしたが。
そんな俺の様子に気づいた火瑠璃が顔を赤くして、
「も、もういいわ。それで他に何か質問は有る?」
「えっと、氷子さんを倒したんですよね?」
「そうよ? それがどうしたの?」
「いえ、何で一緒に行動しているのかなって」
その問いかけに火瑠璃はなるほどと頷いて、
「奪われた相手は、仲間になってサポートをしないといけないの。ようするに禍根を残さないためにも仲良くしましょうという建前ね」
「酷い、火瑠璃ちゃん、私、負けたこと特になんとも思っていないし。火瑠璃ちゃんは友達なのもあって一緒にいるの」
「氷子……でも、貴方だって本当は……」
「でもそんなことをいう火瑠璃ちゃんの夕飯は、ピーマン料理にします!」
「や、止めてよ! 私が嫌いなの知っているくせに!」
そんな会話をしている二人を見て、俺には、なんだかんだいって仲がいいんだな、ほほえましいなと俺は思ったのだった。