戦闘に何故か結びつく
それから資料を調べに行く事になった役所まで来たのだが、ふと疑問に思った事があり俺は火瑠璃に聞いてみた。
「この世界には、冒険者が集まるギルドみたいなのは無いのか?」
「うーん、依頼なんかは大抵、役所で貰ったり調べたりかな。冒険者達も大抵そう。でもギルドも一応あるにはあるわよ。小さいけれど」
「そうなのか……」
「でもこの世界の外の“ギルド”はこの世界と少し違うらしいと聞いた事があるわね」
「そうなのか? ギルドカードとか……」
「! あのレベルが表示されるという! そういえばアキトは異世界の人だったよね。持っていたりする?」
「ごめん、意外な人物にあってまだ手に入れていないんだ」
「そっかー。あっちのギルドは、この世界の外に飛び出せてからまずレベル1みたいだからな~」
どうやらこの世界の人間は、基本的に俺にとってのレベル1以下であるらしい。
確かにゲームを始める時はレベル1からだがそんな理由があったとは……といった謎の感銘を受けているとそこで役所についたのだった。
白く大きい、赤い屋根の木造の建物。
その一角が図書館の様になっておりそこに冒険者らしき人たちが集まっている。
そこで手分けして資料を探していると、
「あ、もしかしてこれか。五冊もあるな」
俺が探していた“逆時計の庭園”に関する資料はすぐに見つかった。
ただ中にあった研究資料は、遺跡の中の動く石のゴーレムが守っているらしい。
それと戦って勝利しないと中に入れないらしいのだが、と、ぱらぱらと本をめくり内容を呼んでいた所で声がした。
「あの、とってもらえますか」
俺の側に狐耳のあの少女が現れた。
昨日会ったばかりだったのでまさかこんな所であうとはと思いつつ周りを見回す。
火瑠璃達は離れた場所でここからは見えない場所を探しているらしかった。
よし、大丈夫そうだと思い、俺は火瑠璃達には申し訳ないが、黙って狐耳の少女が指さす資料を取ってやると嬉しそうに笑い、
「お礼に、火瑠璃達のバッチはとらないでおきますね」
「それより保護者はどうしたんだ? いつも子供が一人で移動するのは危険なんじゃ……」
「大丈夫です。こう見えても私は強いんです、優しいお兄ちゃん」
「そう、なのか」
「……私が勝ったら、お兄ちゃんも仲間にできるかもなんですよね……そのうち、よろしくお願いします」
そう言って狐耳の少女は資料を持って、走って行ってしまう。
けれどあの遺跡にあの少女は何の用だろうなと思っていると、先ほどから本を読んでいた火瑠璃が来て、
「どうしたの? アキト、ぼうっとして」
「いや、ほかに本があるかなと思ってみていたんだが、見当たらなくて」
「? そういえばそうね。でもその遺跡、最深部がその研究所だから、そんなに深くないから書くこともないんだと思う」
「あれか、ゴーレムが守っているんだったか」
それを聞いて目を瞬かせて火瑠璃が、
「そうなの?」
「そうらしい。ここに書いてある」
手に取った本の一部分を指さすと火瑠璃がそれを読んでむむっと呻いてから、
「そうね、全時代の遺物だから、こういったのもあって危険よね。まあ、私くらいなら倒せると思うけれどね」
「そういえば、火瑠璃って魔法使いの中では特に強い方なのか?」
「一応ね。でも上を見ればきりがないのよ。下を見てもきりがないけれど」
「そうなか」
「それに今はアキトもいるし、全く不安なんて何もないわ」
そう言って肩をすくめた火瑠璃だが、氷子が来たので俺は氷子にも見つけた本を渡す。
それを氷子もざっと内容を読んで、これくらいでいいだろうという話になる。
火瑠璃が氷子が本棚に本を戻すのを見ながら、
「よし、これでいいわね」
「あ、帰りに肉だけ買って行っていいか?」
俺がそう聞くと、火瑠璃はいいわよと頷く。
そして“フェンリル”ティースの肉を買って帰り、調理場がまだ直っていない事もあり俺達も外食を済ませて、
「さてと、じゃあ遺跡に向かいましょうか。それにその遺跡には、アキトの欲しい物が眠っているん
だよ」
火瑠璃が俺達にそう告げたのだった。
その遺跡は町から近い場所にあった。
大体、町を出て徒歩三十分位の場所だ。
日帰りできそうな場所にあるんは、俺にとっては近くにあるのは楽でいいよなと思っていた。が、
「この遺跡は地下に伸びているのか。だが、なんだろう、この……前衛的な形は」
入口の部分を見て俺はそう呟いた。
まりで海岸に転がっている巻貝の様なものが、森の一角に生えていた。
ここにやってくる人がそこそこいるからだろう、ここまでの道はそこそこ整備されて、地面持つ土
のむき出しの道だが、人の足で踏み固められていた。
そう思いながらも中に入っていくのは確定しているので、俺は紙を取り出す。
途中の文房具屋で、10枚ほど購入しておいた。
この前の水で、手に入れた紙が全てがしわしわになっており、新しいものにしたのだ。
なので現在持っている紙は、10枚だ。
また、先ほど戻った時に試しに部屋にいる間に半分にすれば2倍だと思って使ってみた所、使えなくなっていた。
どうやら俺が自分で紙を半分に切るのはNGらしい。
変な所で制約がかかっているなと思いながら、俺は三枚ほど、この入口の外に力を込めてから貼り付ける。
何かあった時、すぐにこれを使って逃げ出すためだ。
ただ、未だに使った事がないのが俺には不安だったが、無いよりはましだ。
事前準備は大切だなと思いながら俺は貼り付けて、
「じゃあ、遺跡の中に入ろうか。こっちの準備も終わったし」
そんな風に言う俺に、火瑠璃がじっとその紙を見て、
「そんな便利な遺跡脱出アイテムがあるなんて思わなかったわ」
「俺もそういった応用ができると思っていなかったからな。ただ単にカードで戦えればって思っただけだし」
「ふーん、でもよくカードで魔法を使おうって思いついたわね」
「俺達の世界では、そういった魔法に関するゲームや漫画……絵で示された小説の様なものがあるんだ」
「新しいものを生み出すための、空想の欠片は、物語に蓄積されていたってこと?」
「ただ単に娯楽なはずだったんだけれどな」
「娯楽からの進歩は、前時代でも確認されているから、それほど不思議ではないわね」
「……なんかこう、戦闘とかそういった視点に変えられていくのが何となく嫌だな」
「私達にとっては闘うすべが必須だから、そう見えるだけなのかもね」
火瑠璃がそう言って肩をすくめるが、俺としてはもう少し穏健で平和的なものとして認識して欲しいなと思ったのだった。




