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主人公不在の場所にて

 砂糖を振ったドーナツを二個購入した。

 せっかくなので飲み物も購入することにしたのだが、


「緑茶、紅茶、烏龍茶、特製ほうじ茶、ノレンジジュースか。どれがいいかな」

「え、えっと……ノレンジジュースで」


 狐耳の少女が言うので、油紙に包まれたドーナツを受け取りながら彼女は言う。

 オレンジではなくノレンジ……棒が一本ほど足りないようなとアホなことを考えながら橙色のジュースを思いうかべていたが、そこで紙コップになみなみと青い色の液体が注がれたジュースが手渡された。

 俺がぎょっとしていると、すぐに俺の頼んだ特製ほうじ茶が渡されたので、それを受け取り近くのベンチに向かう。


 まだ時間が早めなせいか、公園に人は少なく、ベンチもすぐ側の青いものが空いていた。

 そこに狐耳の少女と一緒に座る。

 だが俺はあの、青く濁ったノレンジジューうが果たして人間の飲んで良い飲み物なのかについてしばし悩んでいるとおいしそうにそのジュースを狐耳の少女は飲み始めた。


 とても美味しそうだ。

 俺は異世界の謎の文化的なものというか果物なのだろうと結論づけて、ほうじ茶を口にする。

 口の中に広がったのは、よく知っている香ばしさもあるほうじ茶の香りだった。


 とりあえずドーナツを食べようと一口口に含む。

 パンのようなドーナツで、ほんのりバニラの香りがする。

 まあ理に粉砂糖が付いている分、ドーナツ本体は甘さ控えめのようだった。


 ふわふわして口の中でとろける味だ。

 非常に美味しい。

 幾つか買っていって、火瑠璃と氷子へのお土産にし用途俺が考えていると、


「今日はありがとうございました。ドーナツ、美味しかったです」

「そうか、よかった」

「はい、それにお兄さんとの“デート”も楽しかったですし」

「ごふっ」

「冗談です。では~」


 そう言って、狐耳の少女はベンチから立ち上がり楽しそうに軽やかな足取りでその場を去っていく。

 女の子は歳の割にませているな、と脱力感を感じながら俺は思ったのだった。









 こうしてアキトがお土産用のドーナツを購入している頃。

 火瑠璃達は、魔物と戦闘していた。

 火瑠璃は目の前にいる“炎のハリネズミ”という魔物相手に、この前手に入れた氷の魔石を使う。


「“氷樹の涙アイスツリー・ティアーズ”」


 手にいれた氷の魔石を使い、火瑠璃が氷の魔法を使う。

 氷の魔法自体は、火瑠璃のもつ魔力の属性では少ないので魔石の補助が必要だった。

 同時に青白い魔法陣が浮かび上がり、そこから氷の礫がいくつも炎の塊のような“炎のハリネズミ”に向かっていく。


 いるのは三匹ほどだが、そのうちの三匹全員を攻撃する。

 礫が触れた場所からじゅっと音がして湯気がああがる。

 だが全ては溶かされているわけでは無いようで、ピキピキと氷がはる音が聞こえて、二匹ほどが氷に包まれる。


 それが少し待つとパキンと甲高い音が響いて粉々に砕けて後には赤い小さな石が二つ残される。

 だが二匹は倒せたが残りの一匹が残ってしまう。

 けれどそちらは、火瑠璃の獲物ではない。


「“氷の矢(アイス・アロー)”」


 鋭い氷大きな矢が一本、氷子の呼び声に答えるように現れる。

 それが残りの一匹を凍りづけに粉々に粉砕した。

 後には赤い石がまた一つ落ちる。


 これで周りに魔物がいなくなったのを確認してから火瑠璃は、


「よかった、上手く倒せたみたいね。ちょっとした敵でもけっこう面倒くさいわね。まあ、この前手に入れた魔石が結構役に立っていれうけれど。……ここの敵よりあちらの敵のほうが強かったのね」

「でも、今のほうが大変な気がしますね」


 氷子がそう答え頷く。

 何だかんだ言って、アキトの力は火瑠璃や氷子よりもずっと強くて有用なのだ。

 本人は気づいていないようだが。


「やっぱり、アキトは捕まえておきましょう。そしてゆくゆくは……」

「うーん、私も俺なら争奪戦に参加しちゃおうかな」

「……え?」

「だって、アキトは強いし魔力も強いし性格もいいし、私にも魅力的だよ?」

「……」

「……仕方がないな。全部終わったら、二人で競争だよ? 争奪戦の」

「……うん」


 火瑠璃は氷子の言葉に少し考えて頷く。

 火瑠璃にとっては氷子は親友であり、氷子にとっても火瑠璃は親友だった。

 幼い頃から仲が良かったので、それをなくすのはお互い嫌だというのもあった。


 だから一時的な停戦状況に落ち着いたわけだが。

 そこで氷子がふと真剣な表情で、


「でもアキト、少し“変”なきがします。だって、アキトの世界には魔法や魔物の存在がなかったんですよね」

「そんなようなことを言っていたけれど、それの何がおかしいの?」

「……適応が早過ぎるというか、少し感情が欠けてしまっているような気がするんです。良い人なんですが、もっと“普通”の人なら焦ったりするので」

「そういえば“普通”って言っている割には……」


 火瑠璃も沈黙して何かを真剣に考えているけれど、そこで氷子が、


「もしかしたならアキトは、自分が“普通”であるようにして、無意識に巨大な力を抑えようとしているのかも」

「……なるほど。でも、アキトがアキトであることには変わりないでしょ?」

「それはそうですね。そもそも、異世界の紙が付いている時点で、そこまで大事にはなりそうにないですしね」

「そうそう、さてと、確かこの先だったわよね」


 そんな話をしながら、火瑠璃達は更に奥へと進んだのだった。 



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