異世界のカニの真実
さて、そんなこんなでトロ魚の鍋を食べに俺達は外に出る事になった。
“フェンリル”のティースにも一緒に行くかと聞くと、
「いや、俺はいい。ご飯を食べて眠くなった。今日は疲れたし」
といって、毛布の上で丸くなってしまった。
すぐに目をつむり、すうすうと穏やかな寝息をたてはじめたティース。
本当に疲れているようだった。
なので俺達は部屋の電気を消して、その場を後にする。
そして外に出ると、店が連なる飲食街であるためか、客引きの人や夕食を食べに来た人などでにぎわっている。
それぞれの店の前には趣向を凝らした、個性的な明かりが幾つもともされている。
ガラスの様な入れ物の中に光り輝く球が浮かんでいるのは、魔法世界だなというのを感じさせる。
そういった違いを見ながらも全体的に道は、俺達のいた世界よりも暗い。
そこそこ人口の多い住宅街に住んでいたので周りが夜でも明るすぎて星が見えなかった。
けれどここはどうだろう。
夜にはここまで星が輝く物なのかと、ある種の感嘆を覚えるほどだ。
幾つか俺の世界の星座を思い描きながら見ていくと、やはりそんな物は無い。
異世界だなと思いながら歩いているとそこで俺は、火瑠璃に右手を掴まれ、氷子に左手を掴まれて、
「何ゆっくりしているのよ、アキト。私はお腹が空いたわ!」
「そうですよ、アキト。火瑠璃じゃないけれど、私もとってもお腹すいてしまいました」
「氷子、私じゃないけれどってどういう意味よ」
「ん、ふふ。言ってもいいのかな?」
氷子がちらりと俺を見ながら楽しそうに火瑠璃に言って、火瑠璃は顔を赤くして、
「い、言わなくてもいいわよ」
「ふっふふ~♪ あら、ここのお店だわ。鍋が美味しいお店」
そこで青い看板の出されたお店に俺達は入り込んだのだった。
お店の名前は“さかなかさ”というらしい。
回文の様な名前なのはいいとして。、
人気のお店なのか、人が多い。
女性客もそこそこいて、すでに空のビールジョッキの様な物が幾つも転がっているのが見える。
壁に向かって話している人もいるのですでに随分出来あがっているのだろう。
そんなある種の熱気に包まれた中、待たずに中に入れて四人掛けのテーブルに座れた。
そして、火瑠璃と氷子が一緒に座るのかと思っていると、何故か火瑠璃が俺の隣に座ってくる。
何でだろうと思っていると何処となく、火瑠璃の頬が赤い気がする。
……。
ああ、氷子の後ろの人がタバコを吸っているのでこちらに移動してきたのかもしれない。
うん、そうだろうなと思いながら俺はメニューに手を伸ばす。
書かれている鍋の名前は、当り前だが、どれも見覚えのないものばかりだった。
正確には見覚えのある材料に何かを足した様な名前が多い。
それで味も大体料理をしている時も同じだったから、恐らくは同じなのだろう。
とはいう物の本当は違っていましたというのも俺は困る。
なので、氷子にほとんどをお願いして、手を上げて店員さんを呼ぶ。
「えっと、“トロ魚の野菜鍋、ご飯の方”をお願いします」
店員が復唱して去っていく。
そうすると自然と周りの様子も気になり始めて、漂う美味しそうな匂いにごくりと唾を飲み込む。と、
「アキトはこの世界の文字は読めるの?」
「そうみたいだ。後は俺の世界にも似た食べ物があるから何となく分かるが。でもカニ鍋は結構安いんだな」
みた範囲ではカニ鍋はこの店でも安価な鍋であるようだった。
しかも豪快に、20本以上が入っているらしい。
こちらにすれば良かっただろうかと真剣に俺が悩んでいるとそこで火瑠璃が、
「アキトはカニ鍋が食べたいの?」
「いや、安いなと思って」
「そうなの? ここではそんな特別なものではないのにね」
「そうなのか? いいな……好きなだけカニが食べられるのか」
「だったら今度食べようね。この“未来タラバガニ”は別名150本足ガニといって、150本の足のついたウニの様なカニだけれど、アキトが好きなら今度はそれにするね」
火瑠璃がそういうのを聞きながら俺は、聞くんじゃなかったと思う。
150本足のカニって何だと俺は思った。
途端に食欲がなくなる。
やはり普通のカニのカニ鍋が食べたい……そう思っていると鍋がやってきたのだった。
さて鍋は絶品だった。
それに舌鼓を打つだけで特に何もなく、鍋は終了した。
部屋に戻ってくると気持ちよさそうにティースが眠っている。
起こさないように戻リその日は眠る。
そして次の日。
「じゃあアキト、“燃料石”を採ってくるね。お土産楽しみにしていてね」
「それではいってきます」
火瑠璃と氷子が出て行く。
そしてすぐに“フェンリル”のティースも起きて、
「よし、今日こそメスを捕まえに行くぞ!」
といって走っていった。
それを見送った俺だが、調理場はまだ治らない。
なので代わりにサラダと言った火を使わない料理や、特製ドレッシングなどを披露した。
どれも好評なのはいいけれどすぐにまた調理場の修繕となって、それに手を出せない俺は休憩時間になり部屋に戻る。
「一人か。久しぶりの一人……」
けれどそれまで心地よかったそれが何となく俺は違和感を感じ、街へと歩き出したのだった。




