脱出に成功しました
ぶるぶると震える“フェンリル”のティースは召喚されると同時に、すぐさまキャンプファイヤーの前に座り込んだ。
「ふう、あったけぇ~、最高だ……」
とろんとした顔で、“フェンリル”のティースが心地よさそうに瞳を緩めている。
しかも尻尾をパタパタさせているあたり、暖かくてよほど気持ちが良いのだろう。
毛が一杯ついているのでそこまで寒くない様な気がするが、毛皮はそれほど暖かくないのだろうか。
そんな疑問を俺は覚えているとそこではたとティースが気付いたらしく、俺に振り返り、
「アキト、よくも俺にこんな寒い思いをさせたな! ただでさえ、またメスに振られて寂しく帰ってきた所で更に寒い思いをさせやがって!」
どうやらまたしても“フェンリル”のティースはメスに振られてしまったらしい。
なかなか希望の相手を見つけるのは人間も“フェンリル”も大変なようだ。
そう思っているとそこではっとしたようにティースがある場所を見た。
そこにいたのは、仲睦まじそうな三郎と絵里。
俺は即座にティースの首を掴んだ。
「うがっ、放せ!」
「今お前は何をしようとした」
「いや、あそこに人間の男女がいるから、恋人同士なのかを問いに行く予定だった」
「聞いてどうする気だ」
「もちろん破局さ!」
子供の様に目を輝かせながら、嬉しそうにティースが言うのを聞きながら俺は溜息をついて、
「恋人同士の邪魔をしてはいけないぞ」
「恋人同士?」
「そう、恋人同士」
「……」
「……」
「恋人同士だとぉうううう」
ティースが血の涙を流しながら叫んだ。
だがそんなティースに俺は、
「振られて辛いのは分かるが、そんなで他人の幸せを壊すのはいけないぞ」
「それは余裕のある人間の台詞だ! アキト、お前の周りにはメスがいるからそんな風に言っていられるだけで俺は……俺は……」
嘆くティースの頭の部分を撫ぜると、同情はいらないぜ、といいながら大人しく撫ぜられていた。
そういえばこのティースは何歳何だろうと俺は思っているとそこで、はっとしたようにティースは俺を見上げて、
「そうだ、そういえばどうして俺を呼んだんだ?」
「実は罠に引っ掛かってここまで連れてこられたんだが、出口が分からなくて」
「あん? 探索の魔法は無いのか?」
「そういえば調べた事がなかったな」
俺は先ほどの画面を呼び出して検索する。
だが検索して先ほどの、この世界では特殊な力を見せたとt欄の反応を思い出して俺は調べるのを止めて、
「無いみたいだ」
「そうなのか。他に何か方法は無いのか?」
「一応はここから一瞬で抜け出せる魔法があるが、まだ使った事は無い」
「……失敗するとどうなるんだ?」
「さあ?」
正直に答えた俺とティースの間に冷たい風が吹き抜ける。
そこでティースがカタカタと震えて、
「もう少し計画的に物事を進めるべきだ。お前には計画性が足りない!」
「計画通りに波にのまれたらそれはそれで駄目だと思うが」
「だったらもう少し危険な所に行かないようにしろよ! はあ、仕方がない。俺様が力を貸してやる、ついてこい。……何か体を覆う様な物が欲しいが」
そう言われたのでコートについていた帽子を外しティースに結びつける。
これなら少し暖かいから大丈夫そうだと、ティースは呟いた。
そこで一通り話が終わったのを察したのか絵里が、
「その“フェンリル”と知り合いなのですか?」
と、とても不思議そうに聞いてくる。
そういえば一応この世界では強力な力を持つ魔物で合ったらしいと俺は思いだしながら、聞いてきた絵里に俺は、
「仲間なんだ」
だが俺がそう答えるとティースがえっという顔をして、
「ペットだか使い魔いゃないのか?」
「そっちが良いならそうするが」
「いや、そうか……仲間か」
ティースが何処となく嬉しそうだ。
そういえば“フェンリル”は集団で移動するらしいが、ティースは一人だった。
色々あるんだろうなと俺は思いながらもそこで、
「よし、この俺様がきちんと地上まで案内してやるぜ。風の動きや匂い、光から何処が出口か分かるからな!」
「……もしやティースは非常に優秀?」
「そうだ! といいたいがこの程度は“フェンリル”なら誰でも持っている力だがな」
だがほめられて機嫌の良さそうなティースに連れられて俺達は地上へと向かったのだった。
地上にどうにか帰還した俺達。
気付けば日が沈んで夜になっていた。
どうにか脱出できた俺達だがそこでティースにお礼を言っていた絵里が俺に、
「そういえば、どうやってあの仲間の“フェンリル”を呼びだしたの?」
「……実は古い遺跡の魔道具を使っていまして。仲間を呼びだせるんです」
「へぇ、いいわね。でも貴重品みたいだから売ってはくれない?」
「はい、大切な物ですから」
「それは残念……今日は助けてくれてありがとう」
そう、絵里は俺にいって離れていく。
こうして俺達は、遺跡から無事生還したのだった。




