記憶消去
先ほどの妹に頼めばここにから出る手段が手に入ったかもしれない。
いなくなった妹がいた場所をじっと見つめ俺は絶望した。
そもそも何でこんな場所に妹がいるんだという気がしなしでもない。
ここ異世界だったよな?
異世界といっても広いはずなのに、数多ある遺跡の中で今日この遺跡で遭遇。
あり得ないほどの偶然を前に俺は、
「やっぱり夢か。夢に違いないな」
一人そう呟いて頷いた。
そもそもここに知り合いがいると事前に俺は聞いていたはずだ。
そう、この世界に来る事になったあの、異世界の神“ハイパーエンジェル・ラブピース”という名のいかがわしいおっさん。
全てはあいつのせいだ。
そう、あいつのせい……。
「ア、アキト、何だか雰囲気が怖いわよ?」
火瑠璃が俺にそう声をかけてきたので俺は、落ち着こうとした。
まったく関係のない人に、八つ当たりをするのは良くないなと俺は思い深刻ゅうをする。
一、二、三……。
「もう大丈夫だ。うん」
「そ、そう……それでアキト、先ほどのその……彼女って、妹さん?」
「そうだ。何故かこの世界にいたが、本当にどうしてか分からない。そもそも妹はアイドルをしていたし強かったけれど、いや……これももう夢か幻か何だろうか」
俺は真剣に再び悩みだす。
とそこで氷子が俺に、
「でもアキトには驚きました。特別な力に、異世界の神の守護、魔力……他にも謎の料理を知っていたりと全てにおいて優れていると思っていたら、妹さんがあの“六賢人”の一人だったのですからアキトもそうなんですね?」
「いや、たぶん違うと思う」
「? でも御兄弟なのでしょう?」
「いや、俺はこの世界に来たのも初めてだから俺の話が伝わっているはずがないんだ。そもそも家族でその六人が決まっているのなら、俺の両親と兄姉妹弟で全部で六人だから、俺は入っていないんじゃないのか?」
俺はこの世界の存在すら知らなかったのだから、この世界の人間が知っているはずがないと思う。
そう告げただけなのだが火瑠璃がそこで顔を輝かせて、
「つまり六人だったのが七人だったってことね!」
「え? あ、はい、そうなるのかな」
そこは重要な所なのだろうかと俺は思ったが、火瑠璃には重要な話であったらしい。
「私はこの世界の本当により近づいたってことね、氷子」
「そうだね、火瑠璃ちゃん。これでまた、他の人に話す時、ドヤ顔ができるわね」
「そうね。それにこんなすっごい人物と一緒に行動してもらえるなんて、付いているわ!」
といった話を聞く。
これはあまり知られない方が良かった話なのかとふと思う。
これまでの関係が崩れてしまいそうな……そう思っているとそこで絵理が近づいてきて、
「剣を返してもらっていいか?」
「え? あ、はい。ありがとうございました」
「まさか伝説の人物の家族だったとわ。道理で強い力を持っているはずね。“冷鳥”も一撃で倒してしまうし」
「え、いえ、あの……」
「剣を貸すまでもなかったわね」
そう苦笑されてしまう。
だがその俺の知らない家族のせいで俺に過度な期待がかかるのはとても“息苦しい”。
俺は普通の平凡な男子高校生なのだ。
なのにこう、俺自身がそうではないのに優れた人を見る様な尊敬のまなざしで見られる。
こういうのはとても……面倒臭い。
俺はそう思った。
切実にそう思って、記憶が消えてしまえばいいのにと思ってそこで気付く。
「“我が名に従い忘却の泉に沈め”」
こんな中二セリフは嫌だったが呟いて、20分程度消えるよう念じてみる。
絵里や火瑠璃達の瞳が一瞬虚ろになって、すぐに不思議そうに、
「あれ、さっき炎で服を乾かしていなかったっけ?」
火瑠璃の言葉に俺は、何事もなかったかのように、
「そうだが、突然氷が降ってきて消えてしまったから、もう一回つける」
そう俺は告げると、キャンプファイヤーの魔法を呼びだしたのだった。
その炎に当たり完全に服を乾かした俺達だったが、そこで先ほど助けて自己紹介されたはずの絵里と三郎に再び自己紹介されてしまう。
これはこれで違和感があると思う。
だがそれ以上は言わず、偶然遭遇したので助けただけと俺は答えた。
それから出口付近を確認すると、そこの入口は先ほど俺が一部溶かして再生されていたはずなのに開いていた。
どうやら二匹目を倒した時点で開く設定だったのかもしれない。
そして服が渇いてきた頃に俺達は情報交換をする。つまり、
「ここから出口へはどういけばいいのか分かる方はいませんか?」
その問いかけに顔を見合わせて首を振る。
つまりここからどうすれば外に出られるのかが分からない。
何か良い魔法は無いかと俺が思っているとそこで火瑠璃が、
「そういえば、フェンリルって凄く鼻と耳が良いらしいって聞いたわ。場所がすぐに分かるんだって。だから遺跡で迷った時にフェンリルを見かけたらついていくといいといわれているわ」
フェンリルってそんな存在なのかと今更ながら俺は思った。
だが今の話で火瑠璃が言わんとしている事が分かる。
だから俺はカードを取り出して、
「“発動”」
「うぐゃああああ、寒い寒い寒い寒い!」
そこで、カードで呼び出した“フェンリル”のティースが悲鳴を上げて現れたのだった。




