突然不思議世界に飛ばされた俺
突然不思議世界に飛ばされた俺。
先ほどまで立っていた俺の部屋は跡形もなく俺の視界から消え去っていた。
代わりに広がっていたのは、先ほどまでプレイしていたゲームの町並み。
灰色の石畳の道が続き、レンガの家々が連なる町。
それぞれに個性的で、あの青い看板にフラスコのような絵が書かれているのは、栄養剤などを作っているのを示しているので、回復アイテムや道具を購入できる店だとか、そういったものが分かる。
更に各々の家には、プランタナーで花が育てられて、全体的に写真で見た海外の古い建物がある観光地といった様相だ。
そんな街を見渡して俺は、
「そんな馬鹿な……」
「いえいえ、これは現実さ。いい加減この不条理な現実を認識するべきだと思いますよ」
のほほんとした声で、その全ての原因であるこの異世界の神“ハイパーエンジェル・ラブピース”という異世界の神であるおっさんがいう。
俺はそれに苛立ちにながら、
「……そんな現実に突き落とした張本人が不条理とか言うのかよ」
「仕方がないではないですか。これが約束でしたし」
「約束……俺にい世界の何かを解決させろと?」
「そうですね。まあ私が死にそうになったら介入してもいいということになっておりますので、後は適当にやってください」
それを聞きながら俺は、まるっと投げられた気がした。
つまり、自由度の高いゲームで後は好きにしていいよ、と言われてどうしようかと迷う状態だ。
これはもう夢だな、目的もめちゃくちゃだしと思っているとそこで、“ハイパーエンジェル・ラブピース”という異世界の神であるおっさんが、
「どれを優先するかを決めるのは、貴方自身ということにしているのです。何しろ、ぜひうちの世界に来て解決してくれという依頼が殺到しておりまして」
「おい、それって俺が大変な目に遭うってことなんじゃ」
「そうとも限りません。貴方にとって当たりとハズレがある感じでしょうか。……つまり、時間差でその事件がその世界で解決することだってありますし」
俺は慎重に選ばねばと思う。
わけも分からずこんな世界に連れて来られて、酷い目に合うなんて冗談ではない。
そういえばこの世界の部分だが、
「俺のやっていたゲームと同じなのか? ここは」
「ええ、ダンジョンがそれぞれの異世界に置き換わっただけですが」
「……そうなるとダンジョン内の人間もここに来れたりするのか?」
「そうですね、ギルドに行けば。ここ自体も大きな世界の一つですからね」
そう言い出したこの異世界の神“ハイパーエンジェル・ラブピース”を見ながら俺は、
「そもそも何でゲームの世界が存在しているんだ? この風の感覚も、この石造りの道も感触も本物みたいだし」
「あー、実はあのゲーム、我々の世界からの要請で作られまして」
「……そろそろ夢だとしか思えないというかもういい。聞いていると頭がおかしくなりそうだ」
「そうですか? 結構貴方の世界からの召喚も多々行われているのですが」
「はいはいそうですかー。まずはその世界の人間から話を聞くためにギルドに行くか」
まずは下調べが大切だ。
その世界の状況を聞いておいて安全そうなところを主に回っていく。
そしてギルドの依頼から、その世界が危険そうなのかどうかを判断して、大丈夫そうなところを回っていく。
未だに夢だと思うが、夢の中でも苦労などしたくない。
平穏な生活を俺は望んでいる、ただそれだけなのだ。
親兄弟がハイスペックの中、今まで普通に地味に暮らしてきたのだ。
これからも目立たず静かに暮らしていきたい、そんな願いが俺にはあるのだ!
そんな思いを再確認しているとそこで、
「何やらやる気がなくなっているようですね」
「当たり前だ! もう一度言うが、俺はこんなことをするつもりも何もない!」
「そんなことを言っても否が応でも、そのうち巻き込まれることになると思うのですがねぇ」
「それは何かのフラグか」
それ以上、このおっさん、“ハイパーエンジェル・ラブピース”という異世界の神は語らなかった。
俺は深々と嘆息しながら、けれど心の中では絶対に言うとおりになるわけ無いだろと思いながら、
「それで、俺が元の世界に帰還するにはどうすれば?」
「ゲーム内で、ログアウトゲート、と呼ばれる建物があったでしょう?」
「あそこの白い塔のような建物か」
「そうです、あそこをくぐれば一瞬にして元に戻れます」
「よし、今すぐあそこに行こうか」
「あ、一度ここに入るとひとつの世界をクリアしないとくぐれないのですよ」
今更つかされた新しい情報に俺は、
「聞いてないよ!」
「言っていませんからね。仕方がありません」
このおっさんを見捨てたい、俺はその時本気で思った。
そんな事とは露知らず、このおっさんは、
「ちなみに各々の世界に向かった場合、“我は帰還する者、在りし世界へともどれ!”と叫ぶとここまで戻ってこれます。これはいくらでも出来ますね」
「それはその世界の奴らも、そう叫んでやってきているのか? その世界の人間もここに来ているらしいが」
「いえ、特定のその世界のゲートを通らないと無理ですね。正確にはある程度魔力が強くないとですが。それに世界が繋がっている分、他からの侵略があるかもということで、他の世界から他の世界に渡るにはここでギルド登録をしたりなどの面倒な手続きが必要なのです」
「へぇ、じゃあまず俺をここのギルドに登録か?」
「いえ、それは各々の神々特権ですでに行われています。これがこの世界で身分証という名の登録カードです」
それには能力や名前などが細かく書かれている。
しかも魔力量なども数値で書かれていて、
「能力が数字で計測できるんだ」
「ええ、我々の魔法パワーでわかりやすいように。ちなみに言語翻訳機能も備えられております」
「そうなのか」
そう言って俺がそのカードを受け取ると、そのカードは俺の体の中に沈んでいってしまう。
ぎょっとしている俺に、
「見たいと思えばいつでも見れるのでご安心ください。これでお好きな世界に行けますよ」
「……まずはギルドでその世界の依頼を見たいな。それで世界を選ぶんだろう?」
「おや、やる気を出して頂けたようで」
「……とりあえずこの世界について知らないとどうにもならなだろうからな。あと、俺の魔法能力について教えてくれ」
そう俺はおっさんに切り出したのだった。
能力説明くらいしてもらおうと俺は思っていると、おっさんが、
「その能力は、まずその他だけ簡単に説明させていただきましょう」
「念じただけで火やら何やらが出せると?」
「そうですね。ただ威力はあの程度ですが」
そう言われて自宅で出した日の塊を思い出す。
十分強力な魔法だと俺は思うが、
「あの程度だと戦闘ではそんなに役に立たないと?」
「ええ。大抵の敵はその一撃で倒せないでしょうしね。まあ、呪文や道具を使わずに起こせる魔法の中では強い……というよりは魔力が強いので、それが出来るんですよね」
「なるほど。それで他の力の説明は?」
これ以上その他の力を聞いていてもしかたがない気がする。
そういった小さな事象を起こせるだけのようだからだ。
コレではイザという時に自分の身を守れるか怪しい。
そうなってくると他の力について早めに聞いておいた方がいい。
そう思った俺はそう促すと、
「そうですね、まず心を読む力ですが、使う時の起点となる言葉“読心を解読する”と告げると、周囲20メートル以内の聞きたい相手の心が読めますね」
「なるほど、心を読める、か。悪そうな奴がいたら読んでおくのもいいかもしれない」
「後は女の子の気持ちを読んで好感度アップさせ、ハーレムを!」
「……心を読んだ所で、どうすれば良いのか分からないなら意味が無いのでは?」
「そこはこう、ネットで質問を出せばいいんじゃないのかね? 心優しい人なら答えてくれるだろう」
ネットだよりかよとか、ネットがここは使えるのかとか、他人任せかよと俺は思った。
そもそも、ネットで聞くだけでハーレム作れるなら皆ハーレムだなと思いつつその案は放置して。
「それで後は人を支配する能力だったか? そんな恐ろしい力なんて欲しくはないけれど」
「まあまあ、その力を使えば一瞬に平和になりますよ?」
「どうやって?」
「勝手に和平を結ばせてもいいですし、守れなければ争い禁止にしてしまえばいいですし」
「そんな多人数に影響が与えられるのか? そんな力を持っているのがバレたら俺のほうが危ういんじゃ……」
俺の敵に対してはとても都合の悪い能力なのだ。
まっさきにそんなことになれば俺は叩き潰されるかもしれない。
だがそんな俺にその、“ハイパーエンジェル・ラブピース”という異世界の神であるおっさんは、
「まあその時はその時で」
「そんな無責任な……」
「でも現在だと、人一人操るので精一杯ですかね。それも十分くらいかな」
それを聞いて俺は安堵する。
「その程度か」
「ちなみに起点となることは“支配されよ、愚民よ!”かな」
「何でそんな怪しい悪役みたいな台詞を俺が唱えないといけないんですか!」
「そういった決まりなので」
こんないい加減な夢は早く目覚めて欲しいと俺は切に願う。
けれど現実は非常だった。
俺が目覚める気配は未だにない。
「それで、もうひとつは記憶消去か。どんな能力なんだ?」
「“我が名に従い忘却の泉に沈め”と言うと三十分以内の消えて欲しい記憶が消えます。常に一人ずつしか無理ですが」
「そうなのか。でも記憶を消すって……俺は悪いことはするつもりはないんだが」
偶然巻き込まれて危険そうだった時だけ、記憶消去を使えばいいと俺が思っていると、そこでおっさんが、
「ふ、三十分の間に女の子とそういった展開を楽しんで……」
「記憶を消すから好きにしていいなんて最低なことは出来ないから無理だ。というか神様ならもう少しまともな話を言えないのか?」
「ハーレムを作るべきという私の主張を理解して頂けず残念ですなぁ」
このおっさんは面倒くさいと俺が思う。
ただ今の話では戦闘に特化出来ないし使う力も弱くて何かあった時には手を出せなそうだ。
そう俺が思っているとそこで、
「そうそう、この世界の魔法は、自身の魔力によって行われるか、はたまた魔石、人造魔石である拡張魔石によって起こされるかの三種類となっていますが、ご存知ですか?」
新しい情報だ。
そんな物ゲーム内には存在しなかった。
でもやっぱり夢だからこんな展開になっているのかなと俺は思っていると、
「まあその辺の説明は、ギルドで中の様子を見てからでも構わないでしょう」
そう、おっさんが言ったのだった。
ギルド。
冒険者の仕事の斡旋等を行っている場所である。
三階建ての灰色の石を積み上げた建物で、入口に角が生えた猫の像が置かれている。
中に入るとそこもまたゲーム内で良く通っていた場所が広がる。
ただ一つ、違っていたのはショーケースの様なもので、
「こんな風に何か飾ってあったかな。あれ?」
そこに置かれていたのは白い石。
魔石は色とりどりの物があるが白はなかった。
そう思ってみるとそこには、人造拡張魔石と書かれている。
「これがあの人造魔石、か」
「そうです、人の作りあげたもので、そういった才能がある方が作っているのです。これに魔力をためて魔法を使ったり、魔物使いの才がある者は閉じ込めた魔物を使ったりと色々していますね。それ以外は自身の魔力で戦うか、魔石を使うかになっています」
「へー。じゃあ俺の選んだカードの才能は良かったのか?」
カードに魔力を込められたり、魔物を召喚した理がカードで出来るのだ。
紙だしかさばらないし、カードゲームは好きだからと俺は思っていたのだがそこで気付いた。
「呪文などを唱えずに、使える魔法があんなに威力が低いんだから、俺の魔力は実際はどの程度何だ?」
「ああそれは、心配には及びません。念じるだけで使える魔法はあまりにも効率が悪過ぎて、本来の力の0.0000000000000000000000001%しか発揮できませんから」
実は先程の威力の魔法は、こういった理由で小さなものであったらしい。
それを聞きながら俺は小さく頷き、
「そうなのですか。それで、そのカードの魔法とやらの使い方を教えて下さい」
「さあ。それは貴方が選んだ力なのでどう使えるようにするかは貴方次第です。ただこの世界で興したい事象である魔法を学ぶ必要があるかもしれませんね」
「おい、ゲームみたいに選択で魔法が使えるようにならないのか?」
「この世界とゲームの魔法はまあ違いますが、ゲームの魔法を知っているのならそれをカードに封じ込めればよろしいでしょう」
どうやってだと俺は思いつつ、そもそもその魔法を使う必要のあるカードはどうするんだと気付く。
「そのカードはどうするんだ?」
「適当に文房具店で紙を買ってきて、“魔法カードになれ”と念じればできますよ」
「凄い適当なチート能力だな。本当にチートなのか?」
「今の所貴方しか思いつきませんし、再現できる人がいないのでチートでしょう」
そんな無茶な理屈を“ハイパーエンジェル・ラブピース”に言われた俺。
一番重要そうな力の説明が一番適当だ。
だがとりあえず早めに紙を手に入れて、試した方が良いのかもしれない。
俺がそう思ったその時だった。
「彰人、何でこんな所にいるんだ?」
「そうよ、お兄ちゃん」
「彰人……そもそも隣の男って、あれじゃない? 異世界の神」
「……兄さんをどうするつもりだ」
振り向くとそこには、買い物に行ったはずの兄弟がいた。
完全に夢決定だと思いながらもそこで俺は、もう更に兄弟達まで夢で一緒になるのも嫌でその場を逃げ出した。
けれど彼らは待ちなさいと追ってくる。
なので近くに合ったダンジョンに俺は飛び込んだ。
そこでおっさんが落ちていく俺に告げた。
「ちなみにここを出るには“虹の破片結晶”を持っていないと無理なんですが、もしないならご愁傷様です」
「な、なんんだってぇえええ」
俺はそう、悲鳴を上げたのだった。