もらった魔道具
突如、聞こえてきた轟音。
もしかしたなら何か罠でも踏んでしまったのだろうか?
俺は焦って周りを見回すが特に何も見えない。
だが何かが溢れてくるような音が俺達には聞こえる。
「なんだ? この音は」
「わ、分からない。水みたいな音が聞こえるけれど……私達が罠にハマった形跡がない」
そう火瑠璃が焦ったように周りを見回す。
氷子も同じようにあわあわと焦ったように周りを見回して、そこではたと気づいたらしく立ち止まった。
「私達が罠に引っかかったのではないかもしれません。この先に向かった冒険者達が何かの罠に引っかかって、それで私達も巻き込まれかかっているのかも」
氷子のその言葉を聞いて、俺は即座に後ろを振り返り、
「逃げるぞ、罠に巻き込まれないために!」
「「う、うん!」」
俺の号令とともに、俺達はきた道を走って戻っていく。
けれどすぐに轟音が更に大きくなり何かが流れてくる音が聞こえて……不安になり俺は振り返る。
そこで俺はぎょっとした。
そこにあったのは大量の水で、それが俺達の直ぐ側まで迫っていたのだ。
だが、次の瞬間俺もその水に飲み込まれている。
透明度の高い水なので、それほど汚れてはいないといいと思うが、とても冷たい。
ここの遺跡を満たすような水だから、氷と同じ0℃なのかもしれない。
そもそも水がどんどん満ちていってこのままだと空気が……そう俺が焦り、急いで転送のカードを取り出そうとしていると、俺のコートの内側がなにか光っている。
エメラルド色の光で、それは服のポケットの辺だと気づく。
同時に光が強くなり、ボコボコと小さな泡が俺の服から吹き出してそれはすぐに、俺を取り囲むような球状になる。
息が楽になった。
どうやらこれは、“空気”に覆われる魔法であるらしい。
狐耳の少女が、もしものためにと言ってくれたものだ。
多分この前のお稲荷さんのお礼だと思う。
やはり狐には油揚げをお早苗スべきなのだと考えながら俺は、すぐ側で苦しそうにしている火瑠璃と氷子の手を掴んでこの膜に引っ張りこむ。
三人分の空気がどの程度持つかは分からないが、ここで見捨てる訳にはいかない。
そしてどうにかこの膜に二人を連れ込めた俺だが、火瑠璃がハアハアと息を荒げて、
「はあはあ、どうにか、助かった。苦しかった」
「本当に、もう。はあはあ。まさかあんなのがあるなんて。危険な方には行く予定じゃなかったから、前調べをしておけばよかった」
氷子が嘆くようにそう呟く。
それを見ながら俺は、
「良かった、二人共意識がはっきりしているな」
「あ、もしかしてアキトが私を助けてくれたの?」
期待するような火瑠璃の眼差しに俺は小さく呻いてから、
「いや、その、ちょっと……知り合いに、こんな事もあろうかとというような感じで魔道具をもらったんだ」
「……知り合い?」
ちょっとぼかしていってみたのだが、火瑠璃の顔が見るからに機嫌が悪くなる。
何となく想像がついているのだろう。
だがだからといってそれ以上俺は言えそうになかったけれど。
そこで今度は唐突に水の動きが止まった。
「なんだ? 止まった? このまま上に上がっていければいいのか?」
「……そんなにうまくいくかしら」
「火瑠璃、ここでフラグを立てるのは止めましょう」
俺がそう火瑠璃に冗談めかして答えるとそこで、ぎゅうっと何かに引っ張られるのを感じる。
同時に、水が今度は逆方向に流れ始めた。
それにひかれるように俺達は奥に押し流される。
ここで手を放したら、絶対に全員離ればなれになると思った俺は、
「二人共、はぐれないように俺に抱きついて欲しい」
「「分かった(ました)!」」
とっさに危険だと判断して俺は言ったのだけれど、そこで俺はある事実に気づいた。
火瑠璃と氷子は女の子である。
つまりぎゅうっと抱きつくだけでその、二人の柔肌が……と思ったが、二人共厚着をしているがために、役得な展開にならなかった。
そう思いながらもさらにどこかに吸い込まれるように連れ去られる俺達。
途中何匹も魔物が飛んでいるのが見えたが、それもこの膜に当たると跳ね返されている。
どうやら人間以外は弾く特殊な魔法でもあるらしい。
とても良い物をもらってしまったようだと俺は思っているとそこで、広い場所に吸い込まれる。
そこには何人もの人間がいてプカプカと浮かんでいる。
この人達も回収しよう、そう俺が思っているとそこですうっと水が引いていく。
気づけば上の方に空間ができていて、流されたらしい人たちの殆どがその上の方に向かっていく。
どうやら多数は……8人くらいは意識はあるようだ。
だがそのまま動けずにいるのが二人ほど、男性と女性がいたので俺はそちらに向かおうと思って膜を蹴る。
すると膜はそちらの方に動き始め、その二人……ちょうど近くにいて回収しやすい二人を捕まえる。
膜の中に入れてから、
「息は……しているな。だが意識はないみたいだ」
「そう、分かったわ。氷子!」
「はーい。“氷子ちゃん・雷スペシャル!”」
そこで二人の息があるのを確認した俺の目の前で氷子が、二人を殴った。
俺が止めるまでもなく。
どうしよう、死んでいたらどうしよう……小心者な俺が焦っているとそこで、
「ごふっ、ごほっ……ここは」
「ごほっ……助かったのか」
二人の冒険者が意識を取り戻した。
荒療治とはいえ、この世界ではいい方法なのかもしれないと思いながら俺は、氷子のドヤ顔を見て、異世界って怖いと俺は思ったのだった。




