コートを手に入れて
とりあえず、きつね耳な少女にもらったこれは特別な魔道具なのかもしれない。
「何なんだろうな、これ」
そう思って陽の光に透かしてみるが、ただのビー玉にしか見えない。
キラキラと煌くそれを見ながら俺は、このことを火瑠璃達に話したらどうなるかと考える。
「取り上げられてしまうかもしれないな。そもそもこの世界では火瑠璃の敵に当たるみたいだし……うん、黙っておこう」
俺は一人でそう決めて店へと戻っていったのだった。
店の調理場の修理は難航しているらしい。
とりあえず買ってきた部品を渡すと、しばらく好きにしていていい、そう言われてしまった。
こういったことに詳しくない俺は作業のじゃまになってしまうらしい。
しかたがないので俺はその場から移動して部屋に戻る。
火瑠璃達はすでに戻ってきていて、二人共、何やら厚着を開始していた。
外は温かいくらいなので、何でそんな格好をと思っているとそこで火瑠璃が気づいたらしい。
「アキト、そういえば着の身着のままだっけ」
「そういえばそうだな」
「遺跡に行った帰りに、洋服も少し見ましょう。あと、厚手のコートも必要ね。行きに買っていきましょう」
「? 外はまだ暑いと思うが」
「“氷結の迷宮”はその名の通り氷の迷宮なの。とても寒いわ。最悪凍死するわよ」
「! わ、わかった服を買う。そういえばティースは大丈夫か?」
「寒さにも耐えれたりするタイプだと思うけれど、聞いておきましょうか」
火瑠璃のその言葉を聞いて俺は周りを見回した。
“フェンリル”のティースがいない。
どうしたんだろうと思って周りを見て、次に部屋の外を見て、それから店の店員が上がってきたので聞くと、
「さっき、近くにメスが来たと言って外に出て行ったぞ」
「そうですか。一言言ってもらわないと困るのにな。というか誰か汚させたりしていないよな」
「あー、それはなさそうだな。屋根の上を飛んでいったし。人間なんて邪魔で関わり合いたくないって言っていたし。ここだとエサももらえて楽だしと言っていたし」
「……」
店員の話から、“フェンリル”のティースが随分と飼いならされていることが発覚した。
そしてまたもふられて落ち込むティースの未来の姿が俺の頭の中に、はっきりと現れたのも突っ込みどころが有る気がするが。
日頃の行いって大事だよなと俺は思いながら、ティースに関してはしばらくほうっておくことにしたのだった。
途中の店で、コートを購入した。
厚での布地で、灰色のコート。
火瑠璃が見つけてこオリコが俺に似合うと言ってくれたシロモノである。
女の子と一緒の買い物。
それはそれでいい気持ちになる。
姉や妹も女の子だがちょっと違うし、他の兄弟と同じく荷物持ち要員だったのでそれはそれで嬉しくもなんとも無いどころか、女の買い物は何故長いのかについて哲学的な何かを悟りそうになったレベルである。
これはこれで異世界に来てよかったかもしれないと俺は思った。
だが、早く帰りたいのは本当である。
さあて、そう思いながら大通りを有るて暫く行くと、森に出る。
ここの森のなかでは色々取れるので食事には困らないそうだ。
そんな話を聞きながら火瑠璃に案内されて進んでいくと……風が冷たく感じる。
さらに進んでいくと気温が下がり、ここで俺はようやく購入したコートをきた。
それまでは暑いから仕方がない。
そう思いながらさらに進むと、木の種類が変わってきている気がする。
どちらかと言うと針葉樹ぽいものが増えてきているなと思ってさらに進むと、遠くに透明な何かが見えた。
巨大な水晶の柱。
そう見えたがさらに近づくと、その巨大なそれの周りにも、鋭く尖った透明なものが存在している。
やがて俺の目の前に現れたのは、鋭い水晶が幾つも束ねられたような巨大な氷だった。
周りが凍りついており、冷気を発しているから氷だと俺はきづいたのだ。
そしてここが目的の場所である“氷結の迷宮”なのだろう。
と、火瑠璃が何かを取り出した。
四角いカンテラのようなもので、それを俺と氷子に渡す。
「明かりであり暖房器具のようなものよ。寒いからあると便利よ」
中では炎がちらついており、暖かさを感じると同時に周りを明るく照らす。
面白い道具だと俺は思う。そこで、
「それで、アキト、カードの魔法はどうする?」
「? ティースを呼ぶのか?」
「……さっき出て行ったなら、今頃、求婚中なんじゃない?」
「流石にそこで呼ぶのは気の毒だから諦めるか。となると……出口付近にカードを設置するか? すぐに戻ってこれるように」
「! いいかも」
「……コピー方式じゃないよな。空間転移って言っていたし」
そう俺は呟きながら入口付近にそれを設置しようとして気づく。
先ほどからそこに人が何人も入っていく。
「ここの遺跡は結構人が来るのか?」
「それはまあ、街に近いしね」
「いたずらされたり持ち帰られたりすると困るから、見えない場所に設置したほうがいいか。よし、裏手にまわろう」
俺そう提案してこの遺跡の入口から離れた所に回る。
そして、隠れているが現れても天下野市なさそうな場所にそれを設置して、
「よし、行ってみるか」
そう呟き、迷宮に潜り込むことにしたのだった。




