上手いいいわけ
そんな火瑠璃に俺は聞いてみた。
「その分かってくれないのはどうしてなんだ?」
「……自分達は出来る、だから大丈夫だって思いこんでいるの」
「そうなのか?」
「そうなの。まあ、うちはちょっと魔石の鉱山もないし、弱小だからなかなかね。ちなみに、あの狐耳のこの国も甘く見ている、その一つだから」
火瑠璃の話を聞くになかなかどうして、異世界の事情も大変なようだ。
そこで火瑠璃が俺を握って真剣に、
「だから私は勝たなきゃいけないの。手伝ってほしい」
「……」
俺はしばし黙る事しかできなかった。
火瑠璃は美少女だし、切実な理由も今話してくれた。
勝たないといけない理由も分かった。
ただ、俺としては……俺自身の良心の呵責というか。
「……子供にそんな事、俺は出来ないよ。なんか保護者が何をしているのか分からないが、この前も紛れ込んで食事をしに来ていたし」
あんな小さな子に如何こう何て出来ない。
甘いのは分かっているし、今現在は火瑠璃の手を借りないといけない状況ではある。
カードの魔法の件も含めて、こちらに有利な状況とはいえ、それを盾にどうこう言うつもりは俺にはない。
善良であろうとしているつもりはないけれど、現時点ではあの狐耳の少女から無理やり奪う事は俺には出来ない。
それに火瑠璃が困ったように苦笑して、
「そうよね。アキトはそんな感じだよね」
「……悪い。答えられなくて」
「いいよ、そういった所もその……えっと、そうそう、今の話で前も来ていたように聞こえたのだけれど」
そこで顔を赤くして何かを言いかけた火瑠璃が、はっとしたように俺に聞いてくる。
なので俺は、
「言っていなかったか?」
「聞いていないわよ! 後からそんな情報出されるなんて」
「まあでも、話したとしても俺は止めたと思うけれどな。ここのお店の人にも迷惑がかかるし」
「うぐ、それはそうだけれど……ただでさえ魔石の量も少ないし魔力だってそんなに多くないしで、大変なのに……うう」
呻く火瑠璃は俯いて悔しそうだ。
なので安心させるように、妹にするように頭を撫ぜてみたのだが、
「……もっと」
「え?」
「もっと優しくやって頂戴!」
そう言われて俺は優しく撫でてやる。
そこはかとなく幸せそうな火瑠璃をみつつ、何となく可愛いなとか、悪い事をしたなという気もする。
かといって俺が何かを出来るかというと、
「自分から何かをするって、そういう気持ちにはならないんだよな」
怠惰だと言われてしまえばそうなのだが、今まで構われまくっていたせいか、巻き込まれる事の方が多くて、自分から何かをする以前にとんでもない事態になりどうしようもなくなったりするのだ。
きっとこの巻き込まれ体質がいけないんだろうなと思いながら、
「……俺なりにどうやって手伝えるか考えてみるよ。一応、仲間だし」
「……そうよ、仲間なんだから手伝いなさいよ。それで、ずっと一緒にいましょう」
「それは無理だな。俺も元の世界に戻りたいし」
「……最後まで手伝ってはくれないの?」
火瑠璃がそう俺に俯いたまま言ってくる。
そんな事を言われても、俺はあの元の世界に戻る為の石を見つけて……。
かといって火瑠璃を見捨てるのも俺の性分で無理だ。
仕方がないなと俺は思いながら、
「分かったよ。一度関わったし、最後まで俺の手が貸せる範囲では手を貸すよ。その代りに、戻る為の石はみつけてくれよ?」
「! もちろん!」
火瑠璃が嬉しそうに微笑んで俺に抱きついてきた。
俺の腕の上の方に柔らかい何かが触れる。
一体何なんだろうな~、と思って俺は考えるのを止めた。
そこで“フェンリル”のティースが俺に近づいてきて、
「ん? なんでこの……」
「アキトだ」
「アキトが、このパーティから抜け出ることになっているんだ?」
「ああ、それは俺が、この世界の外の人間だから」
「? ……迷宮街の住人なのか?」
「その更に外側だな」
「んー、まあ、そういうのもいるだろう。というか、どうりで強くて変な魔法を持っていると思っていたら、そういうことか」
ひとしきり“フェンリル”のティースは頷いて、
「折角だからあのカードの魔法を見せてくれ」
「? いいけれどどうしてだ?」
「興味があるからだ。珍しい魔法だからな」
“フェンリル”のティースがニタニタ笑っている。
これは、何か隠しているなと俺は思いながら、
「そうだな、こうやってこうやって、こうだ」
目の前で俺は、あのカードを作ってみせた。
それに、“フェンリル”のティースの目がギラッとひかり、
「くくくく、愚かな。これでアキト、お前の力は見切ったぞ!」
「そうか。それで?」
「何が契約だ! こうやってこうしてしまえばもう、お前の魔法は使えない、あばよ!」
そう言ってかけ出した“フェンリル”のティースだが、その姿が見えなくなったのを確認してから俺は、すっとカードを取り出して、
「“発動”」
「きゅわいわぁあああ」
“フェンリル”のティースが召喚された。
どうやら今のそれで、このカードの全てがわかったわけではなさそうだ。
それを見ていた俺は、
「相変わらず、召喚できるんだが」
「く、くおおおお、何故だその魔法、見抜いたはずなのに」
「じゃあ、見抜いていないんだろう」
「そんなバカな、“~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~”なはずなのに!」
この“フェンリル”のティースが何を言っているのかよく分からなかった。
どうやら魔法理論であるらしいが、この世界に疎い俺には、ただの音の羅列でしかなかった。
けれどそれに火瑠璃と氷子ははっとしたように顔を見合わせて、
「そうか、その手があったか」
「そうだね、そうすれば出来るよね」
「よし、理屈がわかったから、“逆時計の庭園”に行って、時間計の魔法の資料を集めるわよ!」
俺にはよく分からなかったが、火瑠璃に取っては魅力的であったらしい。
そして俺は二人が嬉しそうなのでまあいいかと思っていると、
「うう、敵に塩を送ってしまった」
「別にいいじゃないか。ここにいれば、餌がもらえるぞ!」
「それだ! そうだ、俺は楽をするためにこういう行動をしているんだ!」
うまい言い訳を見つけて機嫌を直した“フェンリル”のティース。
本人が納得しているのだからそれでいいのだろうと俺は特に何も言わなかった。
さてそういった俺の事情は置いておいて、そこで、
「ふむ、“逆時計の庭園”に行くのはもう少しお待ちして頂けませんかね?」
突如、異世界の神であるおっさん“ハイパーエンジェル・ラブピース”が何処からともなく現れたのだった。




