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分かってくれなかったの

 俺がそっと差し出したカップケーキは好評だった。

 火瑠璃も氷子も美味しいと嬉しそうに食べてくれたのはいいのだが、こうやってまじまじと見るとやはりこの二人は美人だ。

 こんな美少女と一緒にいられる辺りで、なんか現実味がないなーと俺が思っていると、食事が終わったらしい“フェンリル”がやってきて、


「ごちそうさまだ。なかなか美味かったぞ」

「……そうか。でも生肉だと調理のしがいがないよな」

「故郷の奴らはこういった生肉に葉っぱとかで味付けをして食べていたが、俺はやっぱり生そのものの味がわかるように、手を加えないほうが好きなんだよな」


 それを聞きながら俺はある疑問を覚えた。


「……故郷なんてあるのか? 魔物に」

「あのなー、魔物の中で知能がある奴は自然に生まれたりしないんだよ。誰かれ構わず人間を襲うような知能のない魔物は魔力が吹き出した場所で突然生まれるが、俺らは違うの! 全く人間てアホだな」


 そう言いながら、前足のあたりをぺろぺろ舐めたりして毛づくろいを始める“フェンリル”だがそこで、


「え、今の話詳しく!」


 火瑠璃が食いついた。

 そこで“フェンリル”のティースが、むー、と小さくうめいて前足を手のように組んで考えこむようにしてから、


「もしかして皆知らないのか?」


 “フェンリル”のティースが首をかしげるがそれに火瑠璃は、


「知らないわよ! そういえば知能のある魔物って、オスとメスがあったなってくらいで、そんな話初めて聞いたわ」


 そういえば、オス、メスは氷子の説明で知った。

 だから、そんな一般的な話ではないのかもと俺が思っていると氷子が、


「火瑠璃、何時も普通の魔物しか退治していなかったから……」

「う、だって魔力の消費は抑えたいし。追加の魔石はできる限り使いたくなかったのよ。それにそんな強い魔物は私達の国には出なかったし」

「……国宝のあの件があるからじゃないかな? 知能のある魔物は、そういったものに感づきやすいって言うし」

「……その話は後にするわ。でも知能のある魔物が普通に増える物だったなんて……」

「本当に根。何でカオスとメスがいるな~くらいしか私も知らなかったから、新しい情報が手に入って嬉しいかな」


 氷子が、知識欲を刺激らしくそんな事を言っていたりする。

 そういった会話を聞いていた“フェンリル”のティースが、


「そうなのか。まあ、俺らは集団でいることの方が多いし、そんなに数が多いわけじゃないから、人間との接触もあまりないしな。だから知られていないんだな。それに戦闘になるのも面倒だし」

「? 最強の風使い“フェンリル”なのに?」

「何かで怪我をさせられたり捕まるのは嫌だろう。だから食事やら何やら以外で戦闘をしたいってやつは、中々いないと思うぞ」


 この“フェンリル”のティースは、言動はあれだが意外にも常識があるようだった。

 そういえば、と俺は思い出して、


「ここの近くに“フェンリル”の集団の村みたいのがあるのか? 確かメスがいたよな。でも人間に悪戯を仕掛けていたのはお前だけだったんだろう」

「俺ら“フェンリル”は移動速度が風の魔法を使うから人間と違うんだよ。村から遠く立って風の魔法で一気に移動できるからな。だから、広範囲に及ぶから動ける場所もバラバラなんだ。で、この前は偶然にも他の群れのメスに会えたのに……会えたのに……」


 段々と声がしぼんていく“フェンリル”のティース。

 どうやら振られたのはやはりショックであるらしい。

 けれどそこで俺は思い出す。


「そういえば“フェンリル”は集団で動くのか? あのメスの“フェンリル”は数匹で一緒にいたみたいだが」

「……いや、オスも集団で移動する。3-5匹位で」

「何でティースは一匹なんだ?」

「……」

「……」


 ティースは動きを止めた。

 心なしか顔色が悪い気がするが、と俺が思っていると、


「べ、別に一匹なんて寂しくないんだからなぁあああ!」


 そう叫んで俺達の部屋に向かってしまった。

 どうやら今の質問はティースの心をえぐってしまったようだ。

 ただそれを見送りながら俺は、


「一人のほうが静かで楽しいと思うんだが」

「「ええ!」」


 何故か火瑠璃と氷子に驚かれてしまった。

 そして火瑠璃に、


「ア、アキトは私達と一緒にいるのが嫌なの?」

「いや、そういうわけじゃない。むしろこの世界の事はよく分からないから、火瑠璃には感謝している」

「そ、そう……ならよかった」


 火瑠璃は安堵したらしい。

 そこで氷子がやけににっこりとほほ笑みながら、


「でもどうして一人の方が良いのですか?」

「いや、俺の兄弟が凄く俺にかまってくれて、だから俺……疲れているんだ」

「……そうですか」

 

 氷子が何とも言えない顔で俺を見て頷いた。

 そんな反応だろうなと思うが、俺にとっては切実なのだ。

 俺にはあの兄弟達も含めて恵まれていたので、むしろ一人にさせてくださいという気持ちが強かったのだった。










 遅い夕食をとって部屋に戻ると、ティースが落ち込んでいた。

 声をかけると放っておいてくれというので、俺は放っておいた。

 そこで火瑠璃達がやってきたまではいいのだが、


「やっぱりここ周辺にいるなら、あの狐耳のスレアの王女を狙ったほうがいいかしら。氷子はどう思う?」

「んー、でも私達には姿が見えないからね。アキトには見えるようですが」

「よし、アキトと一緒に街に探しに出かけましょう!」

「それに狐耳の王女は恥ずかしがり屋なだけで、魔石の鉱山も持っていますし、魔力も私達よりも強いですよ? 作戦練らずに攻撃を仕掛けても返り討ちに合うだけじゃないのかな」

「う、うぐ。現状はそのカードの作り方を調べるのが先か」


 火瑠璃が悲しそうに呟く。

 それを見ながら俺は、


「そんなにまでして勝利したいものなのか?」

「当たり前よ! うちの国、氷子のところみたいに魔石の鉱山もないし、他の国がトップになるといくつか貢物をしないといけなくて。それが私達の国の国宝、“暗闇の凍土の剣”が持っていかれるのよ」

「? それはまあ国宝といえば国宝だけれど、それがどう関係するんだ?」

「その剣……先の大戦の遺物でね。……実はどうにか封印しているだけで、ちょっと移動させるだけでもこの世界に混乱をきたすかもしれないの」

「……事情の説明は?」

「話して分かってくれなかった奴が何人かいたのよ、だから私達は焦っているんじゃない!」


 そう火瑠璃が叫んだのだった。

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