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おかけになった電話番号は現在使われておりません

 突然現れたい世界の神と名乗るおっさん、そして上書きされたゲームのセーブデータ、壊されて回復された俺のなけなしのアルバイトでためたお金で買ったスマホ。

 とうとう俺は頭がおかしくなったのか。

 それとも夢か。


 そうだ夢に違いない。

 そう現実逃避しようとした俺に、現実は容赦なかった。

 異世界の神であると名乗った“ハイパーエンジェル・ラブピース”が俺に柔和に微笑み、


「ふふふ、今、君はこれが夢だと思っている! だが、これは現実なのだ!」

「……そうですか」


 だがこのおっさんは異世界の神だというのを譲らない。

 一貫してそう言い続けそうだ。

 なので全てを諦めた俺は、ただただこの得体のしれない生命体に、淡々と答えるしかない。

 そんな俺に、異世界の神である“ハイパーエンジェル・ラブピース”は、


「気の抜けた返事をしおって。これだから近ごろの若い者は……」


 ある一定以上の年齢の人が呟く、時代を超えた名言。

 近頃の若い者は~以下略。

 そこそこ前に、やわらか銀行といったような変な言い回し等があるとTVで言っていたが、以前教師に聞いたが、その昔流行語で、若い世代で“超エムエム”という言葉があったらしい。


 何でも、超マジムカツクの略だそうだ。

 きっとこの目の前にいるような人達も、自分のことは棚に上げるか忘れたか、その黒歴史を今は乗り越えているんだという上から目線で語っているのだろう。

 流行語という恥ずかしい歴史を掘り返せばきっと、彼らを暗黒の記憶で塗りつぶせるだろうと俺は思った。


 だがこのおっさんの黒歴史になろそうな言葉はなんだろうと俺が冷静に考えてみたが、わからなかったので全てを放置し、


「あー、それで俺の隠された才能って何ですか」

「ふむ! よくぞ聞いてくれた! そう、君には心を読む能力と人を支配する能力と記憶を消去する力、他にもあるが以下略だ!」

「はあ」


 俺は気の抜けた返事をした。

 何というかこう、この人は、とても夢見がちの人なのだろうと思う。

 関わらないようにしようと俺が思っているとそこで、“ハイパーエンジェル・ラブピース”は、


「まあ私が知ったのも本日なのだがね」


 随分と最近だったようだ。

 ますますいかがわしさが爆発すると俺は思いながら、


「今日ろか……というかもう早く目覚めてくれ、俺。こんな夢はもう沢山だ!」

「残念だが、これは夢ではなく現実なのだよ。そして君は天寿を全うすると私の世界に来る事になっていたのだが、少し困った事になってね」


 ああもう全てがどうでもいいと考えるのを放棄して胡乱げな目でそのおっさんを見て、


「何がだよ」

「まず一つ目が、神々が介在しない限り、事故死すると私以外の世界に君が転生する事になるのだ」


 どうやらこの世界で俺が事故死するとこの謎のおっさんの世界に飛ばされなくなるらしい。

 そうかそういう設定なのかー(笑)と俺はサラっと聞き流す。

 けれどそこで彼が熱弁をふるうように、


「なので私はぜひ才能のある君にこの世界に来てもらいたいのだ! そのために君の命を全力で守る事にした」

「はあ、ありがとうございます」

「実はほかにも条件があるのだが、それは今は置いておく。順番という物があるからな。それで、君にはその隠れた才能があるのだが実はこの世界でもその力が使える!」

「そうなのですかー」


 俺はもうどうでもよくなって気のない返事をする。

 早く目が覚めてくれ、俺。

 やっぱりあの時兄弟と買い物に行かなかった罰が当っているのだろうか……そんな不安が俺の胸によぎる。

 そんな俺の心の中など知った事ではないのかもしれない、目の前の筋肉ダルマは、


「だが君のその力は今は封印されている。その影響で君は非常に周りから平凡に思われていたはずだ」

「え?」


 そこで意外な話を聞かされて俺はつい反応してしまう。

 家族全員が優れているのに俺だけが、平凡。

 何故だろうとずっと思っていた。


 コンプレックスのようなものも幾らか抱いていたのもある。

 それに“ハイパーエンジェル・ラブピース”はしてやったりと笑い、


「おかしいと思わなかったかね? この家族の様子を見れば、君達は特別だと分かる。なのに君だけが違う。それは力を封印する副作用で君の魅力の様なものも全て封じられてしまっていたのだよ」

「……凄い都合の良い展開だが、きわめて興味深い」

「そうだろうそうだろう。なのでその力を……2%程度解放させてやろう」

「少なっ! もっと多くても良いだろう! 俺にはそんな才能があるんだから!」

「まあまあ、すぐにその意味が分かるだろう。さあ封印を解くぞ! はぁああああああ」


 その言葉と共に、俺の体が輝きだした。

 待て、何だこの漫画みたいな展開は! と焦る。 

 だがそう思って俺は焦っていると、唐突に光が消えた。


 特に体に変わった様子がない。

 試しに自分の手を握ったり開いたりを繰り返してみるが、普通だ。

 せっかくなのでそばのベッドを片手で掴んでみる。


 掴んだだけでちょっと力を込めても布団がずれただけだった。

 どうやら突然怪力になったりといった不思議現象はなさそうだ。

 それに俺は拍子抜けしてしまいながら、


「別に何ともないじゃないか」

「ふ、そう思っているのは気のせいでしょう。さあ、今その手をかざし、蝋燭程度の炎よ生まれろ! と念じて下さい!」

「……例えばもっと違う、心を読む力とかはどうでしょう」

「残念ながら私の心は読めないのです。神ですから!」

「そうなのですかー」


 信用できないと思いながらも、とりあえずそうすればこの変な生物は納得するんだろうと思って俺は手をかざす。

 そして心の中で念じた。

 炎よモエロモエロばひゅんとぼうっともえもえ、でも家がもえると困るので蝋燭ぐらいでお願いします!


 そう妙な呪文のような何かを心の中で呟き続ける俺。

 そんな俺の目の前で、俺の頭くらいの大きさの炎の塊が生まれたのだった。









 俺の目の前に炎の塊が現れて浮いている。

 それを見ながら俺は、何かのトリックに違いないと決めつけた。

 だって目の前に炎が現れるなんてそんな異常な事態が簡単に起こってたまるかというのだ。


 だから周りを見回してなにか可燃物がないかを調べる。

 けれど見つからな。

 どこだ、何処にトリックがある……そう思いながら俺はそこでようやく真実に気づいた。つまり、


「これは夢だ!」


 ここにいる変なおっさんも俺が魔法を使えるのも体が光ったような気がしたのも全部夢。

 夢なのだ。

 この暑い夏に見せられた一時の夢に違いない。


 早く目覚めるんだ俺。

 そう、目覚めよ!

 本気で目覚めてくださいお願いします。

 切実に願い続けた俺だがそこで、


「まだ夢だと思っているのか。これは夢ではない、現実だ!」

「もうお願いですから夢ってことにしてください、こんな現実俺には耐えられません」

「何がそんなに君の心を蝕むのかね。魔法が使えるのは素晴らしいことではないか」

「……魔法が使えるようになるよりも、前よりもちょっとだけ記憶力が良くなったほうが嬉しいです」

「その程度は簡単さ! だが男ならもっとでっかいことをしよう!」


 この人本当に異世界の神様なんだろうかと俺は疑惑を覚える。

 この適当な感じが何処からどう見ても威厳も何も感じない。

 そもそも男だからでっかいことをと言っているが、普通の人生が送りたいという俺のささやかな願いの何が悪いんだ。


 “ハイパーエンジェル・ラブピース”という名前からもどう考えてもおかしい。

 やはり今すぐ警察に通報すべきだ、この不審者は。

 否、この世界で魔法のようなものが使えた時点で、この世界はゆめ確定である。


 だいたい男で異世界の神が突然現れて、俺のゲームの記録を進めた挙句上書きしやがるんだ?

 どう考えてもおかしいじゃないか。

 きっととてもリアリティのある夢なのだろうと思いながら俺は、もうたくさんだと思いながらこの変な男の話を延々と聞くことにした。


 夢ならきっと忘れてしまうかもしれないが、覚えていたなら話のネタにもなるだろう。

 こんな悪夢のような展開でも。

 なので俺は聞いてみた。


「それで男ならでっかいことをするといいますが、具体例を示してください」

「何だか神様試験の問題みたいな聞き方をするな。まああれだ、君みたいな若い子の場合は……そうだな。君は女の子にちやほやされるのは好きかい?」

「それはまあ。健全に異性が好きな男ですので」

「では、ハーレムを作ってしまえ」


 “ハイパーエンジェル・ラブピース”という異世界の神のおっさんはそう言い切ったのだった。











 でっかい事がハーレムらしい。

 そう思いながら俺は死んだ魚のような目でそのおっさんを見ていると、


「全くそんな目で見て。若いんだからいっぱしの欲くらいあるだろう」

「そんな欲望は別に」

「嘘だな! だがそんな力ある君を女の子が放っておくと思っているのかね!」

「……力があるとして、力だけで女がよってくるわけないような気がする。兄さん達だって、能力あるから女の子も近づいてくるんだし。ほら、どんな事でもただしイケメンに限るというし」

「恋をしてしまえば、相手の異性は誰よりも魅力的な素敵な人に見えるらしいぞ? 男女共に」

「……へぇ、じゃあどうやって恋させるんだよ」


 一番難しいその問題に真っ先に突き当たるというのにと俺は思いながら目の前のおっさんに問いかける。

 一応俺よりも年上だからきっと恋のノウハウの様なものもあるのではないかと俺は期待した。

 けれどこのおっさんは自信満々に、


「ふ、愚かな。今まで彼女のいなかった私にそれを聞くのかね。だからハーレムに夢を持って何が悪い!」

「……だからってハーレムはちょっと」

「女の子に惚れられたいというのが男の願望なんだ! そもそも、君を私の世界に呼びよせれば昇進確実なのに! それで今度こそモテモテに! ……は!」


 どうやら神々の世界にも昇進やら何やらがあるらしい。

 そして俺は、それにつきあう義理なんてない。


「俺は自分で好きな人は、自分で口説きに行きます」

「それでハーレムだな!」

「どうしてそうなるんですか! ……せめて素晴らしい女性を口説く言葉くらい教えてくれるのではという期待をもった俺がバカだった」

「何だそんなものが知りたかったのか」


 おっさんが楽しそうに微笑んだ。

 俺は嫌な予感しかしなかった。

 そしておっさんは俺を指さし、


「まずは自分好みの女の子を選ぶのだよ」

「……それで」

「彼女をじっと見ながら、俺を好きになれ、俺を好きになれ、と命令すればいいのだ!」

「……するとどうなるんだ?」

「その彼女が君に、愛してる、抱いて状態になる!」

「つまりそれは心というか精神を操る魔法だと? そういえば人を支配する能力とか何とか……」

「そう、この世界の人間は魔法耐性が低いからな。日常的に魔法に触れていない証拠だ! だがそれゆえに少数だが君のような強い力を持つ魔法使いが現れるのだ!」


 ああ、新しい知らない設定が出てきたなと思っていた俺は、そっと先ほど作りだされたスマホを手にとり、数字を押す。

 これで警察に連絡が出来るはずだ。だが、


「『おかけになった電話番号は現在使われておりません……』ちょっと待て、このスマホやっぱり俺のとは別モノじゃないか!」


 流れてきたメッセージに俺が叫ぶ。

 けれどそれを聞いたおっさんが、


「ふ、愚かなことだ」


 そう俺に告げたのだった。

 何が愚かなことなのか、俺にはよく分からない。

 一体何が起こったのか。

 やはりすり替えられたのだろうかと思う。


 目の前であんなに派手に壊されたのだ、それが瞬時に回復するはずはない。

 つまりこれはスマホの様な形をした……偽物だ。

 だから俺は今、不審者を通報する事すらも出来ないのだ!

 そう俺が考えていると、


「愚かな。すでに電話は出来ないようにされている」

「く、警察に連絡できないなんて」

「余計な邪魔が入って欲しくないからとりあえず結界を張らせてもらった。故に電波は届かない」

「ああもう、いい加減にしてくれ! ハーレム入らないし俺は魔法の力もいらない! 今は特に何も困っていないんだ」


 実際にまだ高校生の俺は、そんなものがあったとして、そんな事が出来たらいいなと夢想するのは好きだ。

 けれどその力を使って何かをしたいという気持ちにはならないのだ。

 平穏な人生を細く長く過ごしたい、それが俺の望みなのだ。そこで、


「ふ、まあいい。いずれ君も知るだろう。まあ、これからすぐに知る事になるのだけれどな」


 笑う“ハイパーエンジェル・ラブピース”、それを見ながら俺は警戒した。


「な、何をする気なんだ!」

「いえ、君を守るついでにもう一つしなければならない事がありまして。それが交換条件になっているのですよ。そう、ズバリ……異世界にいってその世界の大きいことから小さい事までをその力を持って解決するのです! あ、ご希望の時にここに戻ってこれますのでご安心ください。しかも時間がたたないという……」

「その辺の説明は良い。それより何で俺が異世界のそれを解決しないといけないんだ」

「いえ、この世界で寿命を全うせずに死ぬと、他の世界に行くと以前お話ししましたね?」


 そういえばそんな話をしていたな、と俺は思う。

 なのでこの変態おっさんが守ってくれているらしいのだがそこで、


「けれどやはり、貴方にうちの世界に来て下さいという希望のある方がいるわけですよ。その方の溜飲を下げるためな部分もあって……まあ、滞在してほのぼのとその世界の困った事を解決していったりというのもありますかねぇ」


 そういう“ハイパーエンジェル・ラブピース”だが、目が泳いでいる。

 というか顔をそむけている。

 それを見ながら俺は思った。


「俺は協力しない」

「な、何ですと、そんな薄情な……」

「何だか危険な目に合うんだろう。というか戦闘なんかもさせられたり、そのためにこんな炎が生み出せたりする力があったりするんだろう」

「……」

「黙っているって事はそうだな! 俺は危険な目に遭いたくない! 最悪異世界で死ぬだろう!」

「あ、その点は大丈夫です。いざという時は私が守りますので。やはり天寿を全うして頂かないと色々私の都合上困るんですよ」


 そんな事を言いだすこの“ハイパーエンジェル・ラブピース”に俺は深々と嘆息し、


「もう勝手にしてくれ」


 そう告げ、ゲームをしようとゲーム機の電源に手をかける。

 先ほど記録をしてこの“ハイパーエンジェル・ラブピース”は電源を切っていたのだ。

 なので俺は再びゲームを開始したのだが、


「ふむ、ではとりあえず、どんなチートが欲しいのかについてお聞きしてもよろしいですか?」

「……その他の能力で、どうにでもなるのでは?」

「まあそうなんですが、一応、炎を生み出したりといった簡単な事は出来るのですが、特殊能力の様なものを中心に行動した方が良いでしょう」

「なんで?」

「大抵の場合色々な事が出来る力は気味悪がられてしまう物です。それに今解放したその能力は、それぞれに制限もありますし威力が小さいのです。ですから特殊なチートを一つ持って、それで上手くやっていく方が良いかと」

「確かに幾つもの選択肢があると迷いやすいし、使い勝手のいい能力がいいか。そうだな、それなら……カードを使った魔法はどうだろう」

「と、もうしますと?」

「魔物を呼びだしたり魔力を込めて魔法を使ったりするカード、それを操る力」

「ふむ、その世界はまだ、存在していませんし、他の世界に影響を及ぼす……よろしいでしょう。では、その力も含めて使い方の説明は、あちらで行いましょう」


 そう“ハイパーエンジェル・ラブピース”が告げて、それと同時に俺の周りの景色が、見知った俺の部屋から、何処か見覚えのある中世ヨーロッパ風の世界に変化したのだった。


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