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皆が分かっていて誰も言わなかった言葉

 そして新たな仲間を迎えた夜。

 食堂でのあらたなる新メニューとの戦いが幕を上けた。


「これでどうだ!」

「な、焼きうどんだと! 邪道な……」


 うどんは出汁をかけて食す温かいものという固定概念に支配された世界。

 ざるうどんでもいいし、冷たい冷やしうどんでも美味しいしこうやって焼きうどんにしても美味しい、というのをひと通り証明してみせた。

 それに彼らはおそれを抱くほどに驚いているようだ。

 

 だがこのできたてホヤホヤの焼きうどんを一口くちに入れると、


「う、上手い。まさかこんな食べ方があったとは」

「出汁をかけないうどんも美味しいものだな。でもこれ、アキトの郷土料理なんだろう?」


 店主や店員が俺の作った焼きうどんを口々と褒め称えている。

 郷土料理というか、俺の住んでいた世界の料理なのだが、説明するのが面倒なのでそうしておいた。

 大量に作ったので、取り皿で味見をしている。


 しかも火瑠璃もこの焼きうどんを食べながら、


「ま、まさかこんなに美味しいものがあったなんて」

「火瑠璃、私にも分けてよぅ」


 といって氷子が火瑠璃に聞くけれど、火瑠璃はそれを渡すのに抵抗があるらしい。

 けれどその大量に作った皿の周りには客だけでなく店員が争奪戦をしており、とてもではないが入り込めそうにない。

 火瑠璃もあの男たちの戦いの中に参戦し手に入れてきたのだ。


 なので、うー、とうめいていたので、ちょうどできたてホヤホヤの焼きうどんが出来たのでそれを小皿に入れて、二人に渡す。

 火瑠璃も手に入れたと入ってもほんの数口で終わってしまいそうな量だったから。

 そして、うどんを差し出すと二人は目を輝かす。


「ありがとう、アキト」

「わー、ありがとうございます」

「いや、うん、喜んでもらえて嬉しいよ」


 そして二人は嬉しそうに受け取り、焼きうどんに手を伸ばす。

 ツルンと焼きうどんを口に含んで咀嚼し微笑む美少女。

 なんというかこう、女の子が嬉しそうに食べていると……いや、うん、次の焼きうどんを作らないとなと思って俺は再び材料を鍋に放り込む。



 しかし試しに作った料理のはずが、客も混じって大賑わいだ。

 ここの所俺が料理をつくるようになってから、変わった美味しいものが食べられるという評判があるらしい。

 そのせいか、売り上げが倍に伸びたとか。


 忙しいはずだよなと俺は思いながらフライパンを振り更に焼きうどんを作り追加する。

 幾ら作っても足りない勢いで減っていく焼きうどんの山。

 ブラックホールが突如として現れて吸い込まれているのではないかと邪推したくなる。


 もう少しゆっくり味わって食べてくれないかなと思っているとそこで、


「あのー、また頂けますでしょうか」


 現れたのは、以前こっそり食事を食べていた狐耳の幼女だった。

 こんな子供一人でウロウロさせて、保護者は何をやっているんだと思いながら俺は、


「この焼きうどんでいいか?」

「この前の油であげたものはないでしょうか。あの美味しさが忘れられなくて」


 そう少女は恥ずかしそうに言って、狐の耳をぴょこぴょこと動かす。

 リアル獣耳少女に俺は言い知れぬ萌を感じていると、


「あの、どうかしましたか?」

「い、いや……そう言えばにつけたのが一枚残っていたな。それに、焼きうどんも少し食べていくか?」

「はい! ぜひお願いします!」


 狐の尻尾をパタパタと振りながら少女が元気良く答える。

 相変わらず少女の姿は周りの人間には見えていないようだが、俺はそれを特に気にせず……というか、魔法なんてもののあるゲームのような異世界に連れて来られたり、異世界の神やらが現れたことも含めて、今更、何を驚けばいいのかと。

 そう思いながらできたて熱々の焼きうどんを更に載せて油揚げを添えてやる。


「熱いから気をつけろよ、やけどしないように」

「はい、ありがとうございます」


 そう答えて少女は嬉しそうに油揚げの煮付けから食べ始める。

 好物から食べるタイプらしい。

 しかし本当に美味しそうに食べるなと俺が思っていると、


「おーい、タイキ。俺も腹が減ったから飯をくれ」


 “フェンリル”のティースがやってきた。

 なので事前に餌として買っておいた生肉を俺は冷蔵庫のような箱から取り出し、


「ほら。これ」

「おう。こうやっていれば、わざわざ獲物を取りに行かなくても楽でいいな」

「……“フェンリル”としての誇りみたいなものはないのか」

「誇りでお腹は満たされないんだ、というわけで飯。……ん?」


 そこで“フェンリル”のティースは狐耳の少女に気づいたようだ。

 そして少女も焼きうどんを口に含んだまま凍りついたようぬ動かなくなるが、すぐに何とかして咀嚼して、


「な、なんであの、魔物としては最強の風使いと言われる“フェンリル”がいるのですか!」

「ああ、俺が使役しているんだ。魔物使いとして」

「……」


 その答えに少女は変なものでも見るかのように俺を見て、


「魔物使い? 聞いたことがありません」

「そうらしい。今のところ俺固有の能力だからな」

「そうなのですか、でも“フェンリル”……なんだかこう、駄目な感じがしますね」


 狐耳の少女が、皆が分かっていて誰も言わなかった言葉を告げた。

 そしてそれを聞いた“フェンリル”のティースが、


「何が駄目な感じだ! この狐耳のメスの人間が! 子供と言っても容赦しないぞ!」

「おい、ティース。大人げないぞ」

 

 俺は嘆息しながらそれを止めるとそこで火瑠璃がやってきて、そして俺の近くまで来て小声で、


「狐耳の少女って何処にいるの? そいつ、私の敵なんだけれど」


 そう言うが、その狐耳の少女は火瑠璃を見るとその場から逃げ出してしまう。

 そして姿が完全に見えなくなってから、


「今そこにいたが、もう店の外に出たぞ?」

「嘘! うう、捕まえてバッジを奪ってくれたら良かったのに。あの子、スレアの国の王女よ」

「でも子供にそんなこと俺は出来ないし」

「ああ、そうよね……ああもう、折角のチャンスがぁああ」


 そんな苦悩する火瑠璃と、それを宥めようとやって来た氷子。

 その二人に俺は、そっと後で食べようと思ったカップケーキを差し出し御機嫌をとったのだった。

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