お菓子を目の前にして、女の子に言ってはいけない一言
早速俺は、何か魔法をカードに封じ込めようとした。
とは言え何の魔法が良いだろう?
そう思ってからここが室内なのを俺は思い出した。
だから周りを見回して、
「この部屋の中で攻撃系の魔法は危険か。もし発動したら部屋が壊れるだけならまだしも、最悪人死にが出るよな。さてどうしようか」
そう思いながら、ならば防御呪文にしようかとも思う。
じゃあそれにしようと俺が考え始めた所で、火瑠璃が、
「防御呪文とか考えていないでしょうね」
「? いけないのか?」
「防御の範囲指定はできるの?」
その問いかけに俺は、そういえばゲーム内ではそんな事は考えていなかったなと思う。
正確には、何だかよく分からない不思議な力で防御力が上がっていた気がする。
特殊な結界の様なものを張って、数回攻撃を防ぐものも数が少ないがあるが、確かにその範囲は仲間のいる周辺とされており、それが範囲設定になっているのかは定かではない。
他に何かあったかな、攻撃魔法以外で。
そう思って俺は、選択肢を探していくとその下の方に、その他の項目がある。
そういえばイベントで面白い魔法があったのを思い出した。
確か菓子が好きな魔物用に、菓子を召喚する魔法だ。
そしてこのイベントを経る事で、魔法で菓子が呼びだせたような気がする。
その魔法でお菓子を呼びだし食べることで体力を回復させる効果があるとか何とかだが、結局、俺は一度も使っていなかった。
理由は菓子だと体力が回復しにくいからだ。
ただこの場でするならば、一番適切な魔法のようにも思える。
なのでそれを選択し、カードを作成する。
あわく紙が青白く光り輝いて、次の瞬間には絵柄の浮かび上がったカードが出来上がる。
そのカードに書かれた絵柄を見て、
「ショートケーキか」
黄色いスポンジに白い生クリームと赤いイチゴの乗った日本で定番の洋菓子だ。
この菓子はランダムに選ばれて、確か百種類以上あるはずだった。
そこで先ほどからカードを睨みつけていた火瑠璃は、
「だめね。一瞬過ぎてどうやって作られているのか全然分からない。いっそのこと発動してくれた方が嬉しいかも」
「そうか? じゃあ、発動させてみるか」
そう答えて俺はカードに念じながら呟こうとして、それに火瑠璃が焦ったように、
「ま、待って、なんのカードなの? 発動と言っても外で、というか近くの公園で……」
「ん? ああ、それは問題ない。お菓子を呼びだす魔法だ」
「お菓子?」
「俺達の世界のお菓子だ。でももしかしたならこの世界では身近なものかもしれないが」
そういうと、火瑠璃が目を輝かせた。
その隣で氷子も、何かを期待するような眼差しで俺を見ている。
そういえば女の子は甘いものが好きなのよ~と姉が言っていた。
ダイエット中と聞いていたのだが大丈夫だろうかと思ったが、口には出さなかったあの日の出来事を思い出しながら俺は、
「お菓子、好きなのか?」
「もちろん! でもここの所節約中で全然食べられなくて……」
「そうなのか。“発動”」
そう俺が呟くと同時に、更に乗った状態で、八分の一程度に切られたショートケーキが現れる。
それを見て火瑠璃は、
「わー、ケーキ。ケーキなんて久しぶり。でもイチゴのケーキなんて珍しいわね」
「そうなのか?」
「うん、だって酸っぱいし。ジャムにしないと食べられないわ」
どうやらこの世界のイチゴはとても酸っぱいらしい。
そこで氷子が立ち上がり、
「火瑠璃ちゃん、私も食べたいから残しておいてね」
「あれ、氷子何処に行くの?」
「フォークを借りてくるの。アキトも食べますか?」
「俺は遠慮しておく」
「そうですか、では借りてきますね」
そう言って楽しそうに氷子はフォークを借りに行ってしまう。
それを見送った俺は、
「氷こも食べるなら、もう少し作った方が良いか。こうしてっと……今度はチョコレートケーキか」
それを見ながら俺は、確か俺がゲーム内のイベントで使った時は、飴玉とチョコレートしか出なかったんだよなと思いだす。
それがケーキばかり連続。
微妙に運が良いような悪いような変な感じだなと俺は思いながら、発動させて火瑠璃に受け取ってもらう。
そこで俺はある事に気付いた。
なので試しし再度魔法を使うと、
「ようやく飴玉か」
何だかなと思いながら、とりあえず念じつつカードを持ちながら、そこで恐る恐る手を放してみた。
カードが宙に浮かんでいる状態で固定されている。
次に試しに、
「十秒後に発動」
そういった指示を出してみると、十秒後にカードが輝き、ころんと飴玉が転がってくる。
どうやら空中への固定と、時間指定は可能らしい。
そしておそらくはあの、中二技も使えるんじゃないのかなと俺がある種の期待を持っていると、そこで飴玉を拾い上げた火瑠璃が、
「何だかこれだけしょぼいわね」
「ランダムだから仕方がない。それでもケーキ二つは当てたんだから良いだろう?」
「それもそうね。でもそのカードの構造がさっきから見ていても全然分からないわ。それにそのカード私達にも使えるのかしら」
「じゃあ使ってみるか?」
「お願いするわ」
なので再びカードを作り、今度はチョコレートの絵柄が出て、それを火瑠璃が使ってみると確かに発動する。
それと同時に、あるものを持って氷子が部屋に戻ってきたのだった。