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女の武器に釣られ……

 戻った俺だが、休むまもなく早速、泊まりこみをしている店の親方に呼ばれて料理を作りにいく。

 再び豆腐を使った料理を試されるのかと思ったが、そんな事はなかった。


「見よ! これぞ豆腐の真骨頂!」

「……油揚げですね」


 親方の顔が、ショボーンとなった。

 現在彼が自信満々に俺に差し出した皿の上には、黄金色に輝く油揚げがのっている。

 とりあえずこれの食べ方について聞かれたので俺は、


「おいなりさん、も美味しいですよ。それにみそ汁の具にしても美味しいですし……軽く醤油を付けてそのまま食べても良いのでは?」


 などと提案したところ、俺は親方においなりさんを作ってくれと頼まれた。

 そして親方が指さす先には黄金色の油揚げの山が!

 何を思ってこんなに作ったと言わざるおえない量というか、これだけ沢山あると狐耳の少女が寄ってくるのではなかろうかという量だった。

 狐は油揚げが大好きだし。


 そして親方たちは揚げたての油揚げに醤油を付けて食べたり、お味噌汁の具にして新たな美味しさを発見していたのは良いとして。

 俺はその油揚げを半分に切り甘辛く煮つけていく。

 丁度ご飯はたけている……正確には親方が油揚げでご飯を食べているので、ある事は分かっていた。

 

 しかも店の客と一緒に楽しんでいる。

 そんな中で俺は料理……。

 何かが間違っている気がしたが、機嫌の悪そうな火瑠璃や氷子も皿洗いなどをこなしている。

 住み込みで働いているので仕方がないと俺は思った。


 そして酢飯にゴマを入れて、おいなりさんが完成。

 そこでちょうど皿洗いが終わった火瑠璃達も来たので皆でそれを食べた。

 お客さんにも味見をしてもらって、評価は上々だった。

 そこまでは良かったのだが……。


「んしょ、んしょ」


 何故か六歳くらいの狐耳に狐の尻尾の生えた、ミニスカのような赤い着物を纏う金髪幼女が俺と他の人の間から手を伸ばし、おいなりさんを取ろうとしている。

 確かに俺はおいなりさんは狐が好きそうだったなと思ったが、本当に来るとは思わなかった。

 だが背の高い男の大人達の間から手を伸ばしているので、念願のおいなりさんには手が届かないらしい。


 こんな子供が一生懸命とろうとしているのに周りの男達は気づかずにいるのだ。

 酷いなと俺が思いながらも、途中から見ていられなくて、小皿に二つほどおいなりさんを取り、


「これが欲しいんだろう?」

 

 そう言って俺は幼女に差し出した。

 だがそんな俺に幼女は驚いたように、


「な、何で私が見えるのですか!」

「? 見えないのか?」

「そうです、普通は見えません!」


 怒る少女だがそこで俺は気づいた。

 その少女の着物の襟の部分に、火瑠璃が付けていたのと同じようなものが見える。

 この子、何処かのお姫様で特殊能力か何かを使っているのかなと思った俺だが、とりあえずおいなりさんを渡して、


「まあ、これが食べたかったんだろう?」

「は、はい!」

「あげるから、代わりにここであまり騒ぎを起こさないでくれ。俺も秘密にしておくから」

「! 良いのですか?」

「ああ、俺はここの、ただの雇われ従業員だし」


 そう全てを言い終わる前に幼女はおいなりさんをあっという間に食べてしまう。

 よほどお腹が空いていたのかなと俺が思っていると、幼女は恥ずかしそうに、


「おかわりをお願いしていいですか?」

「幾つ欲しいんだ?」

「三つ!」


 なので俺はいなりずしを三つと、お茶を一杯少女に渡し、穏便にこの場から去ってもらったのだった。







 お兄ちゃんありがとうと、嬉しそうに去っていく狐耳の幼女。

 それに手を振りながら俺は、ああいう普通っぽい妹が欲しかったなと思った。

 何であんな変にハイスペックで行動力のある妹しか俺にはいないんだろうと俺が嘆きながら更に料理を作り、夜になる。


 ようやく戻ってきた部屋では、火瑠璃達が既に戻ってきていた。

 だがそんな彼女達は、俺が作りあげた先ほどのカードをじっとにらんで、


「む~、むむむ~」


 唸っていた。

 多分このカードが同八手で来ているのかを見ているのだろうが、彼女の表情を見る限り収穫は少なそうだ。

 そこで火瑠璃が気付いて、


「アキト、おかえりなさい」

「ただいま」


 何でこんな新婚さんみたいな会話をしているんだろうなと思いながら俺は、


「それでどうだ?」

「全然分からない! 何がどうなっていりうのか難しすぎ! 戻ってきて皿洗いをやっている時はこんな仕事投げ出して早く調べたいと思ったのに、今はこのカードを投げ出したいわ」


 ムスッとした表情でも可愛い火瑠璃がそういうが、そこで俺の顔を見る。

 そしてにやぁと笑う。


「な、なんだよ」

「もう一回作ってくれないか?」

「あー、疲れたから後でで」


 実際に今日は料理を大量に作りつかれていたのだ。

 注文に次ぐ注文。

 おいなりさん地獄を味わった俺は疲れていたのだが、下から火瑠璃が、自身の胸をぎょっと左右で押さえて谷間が出来るようにして、しかも俺の位置から服の隙間から……な風にみせつけて、


「駄目?」


 女の武器を使っておねだりしてきました。

 そんなものに俺はつられるわけがないだろうと思いながら、俺は紙を一枚取り出し魔法の籠ったカードを作り始めたのだった。

 

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