新しい魔法
昨日の分を修正、差し替えました。以前と展開をこのあたりから少しずつ変えて行きます。
以前現れたのは空飛ぶ蛇だったが、今回現れたのも空飛ぶ黒い蛇だった。
ただ前回と違うのは、足が生えていることだけだ。
これが本当の“蛇足”……などと考えている俺だが、その蛇に向かって火瑠璃と氷子が駆け出す。
そして、えっと思って動けずにいる俺に、火瑠璃が、
「先手必勝よ! アキトも準備して!」
「準備ってどうするんだよ! まだ俺、魔法も1回も使えていないぞ!?」
「きっと危機に陥れば真の力が目覚めるわ! 頑張って!」
「そんな無茶な!」
と俺が言い返している間にも、火瑠璃は魔石を握りしめて呪文を唱える。
「炎の揺らぎは惑い、歌う。“虚ろの炎”」
その言葉とともに炎が火瑠璃の前で揺らめき、その蛇の魔物を包み込む。
けれどその蛇がバタバタと自身の体をくねらせるように動くだけで、その炎は掻き消える。
「やっぱりこの前のよりもレベルが上か。強すぎるわね。氷子、足止めしてからもう一度するわ!」
「はい!」
氷子もまた魔石を握りしめ、
「氷雪の笑みは、語る。“繊細なる雪”」
今度は細かく煌くような氷の結晶が大量に氷子の前に現れる。
その小さな粒子が一斉に蛇に向かって張り付き、そこから膨れ上がるように氷の結晶が現れてそれがつながっていく。
そのまま地面に落ちるかと思われたが、その氷にすぐにヒビが入り、中から先ほどの蛇が現れる。
「この程度の魔法では抑えられないか。もっと魔石があれば、強化して使えるのに……昨日の今日でまだ魔力は回復していないし、こんなに連続して大物に当たるなんて」
火瑠璃が恨めしそうに呟く。
どうやらこの蛇は大物であるらしいと今更ながら俺は気づく。
同時に俺も手助けしたいとは思うが、現状では魔法後からも使えない。
そもそも一般人な普通な高校生な俺が戦闘をしようとするのが、無茶なのだと思う。
けれどこうなってしまった以上は、戦わざるおえないと思うので魔法を使わずに攻撃する方法を考えてみた。
現在俺は武器も持っていない丸腰なので、とりあえず周りを見回して使えそうなものを探す。
その間にも火瑠璃が次々と魔法攻撃を繰り出し、氷子が途中、氷のする問やりのようなものを作り出し三本ほど創りだして攻撃するが、その蛇の持っている透明な壁のようなものに遮られて次々と粉々に砕け散る。
攻撃された蛇の方は余裕が有るからだろうがその場所で悠々と飛び回っている。
その様子に気づいたらしい火瑠璃が、
「この、馬鹿にして。こうなったら剣で直接……」
「火瑠璃ちゃん、さすがにそれは危ないよ! 魔力で敵わないこんな大物の魔物に剣で近づいたら大怪我しちゃう!」
「でもこいつを倒せば、また強力な魔石が手に入るもの! ……この前手に入れたあの魔石をここで使うか」
「でもあれよりもこの蛇は強いよ! それで倒せなかったり逃げられたら損だよ! ここで一旦、引こうよ!」
「お断りよ! このっ!」
そう言って短剣で攻撃を仕掛けようとする火瑠璃。
その短剣には火瑠璃が抜くと同時に炎が舞う。
「この攻撃を受けて見なさい!」
突っ込んでいく火瑠璃だが、無茶なことをしているなと俺は思う。
現に蛇は火瑠璃の方向を向いていて口を開いて魔法を放とうとしていて……そこで俺は、蛇に向かって側にあった握れる程度の石を拾い集め、そのうちの一つの石を投げた。
「ごふっ」
丁度口を開きかけていた蛇の頭にそれは見事に命中する。
普通の男子高校生な俺だが、この程度はできる。
その調子で火瑠璃に当たらないよう次々と石を投げていく。
どうやら物理的な攻撃も効くようだ。
ただ防御をされているためにそこまでダメージを与えられていないようだが。
それにこの方法にも問題がある。
「あ、拾った石が全部なくなった」
周囲にあったものを大分拾ったのだが、おかげで俺の周りには手頃な大きさの石がなってしまう。
また離れた所に拾いに行かないとと俺が思った所で、上手く蛇に近づけた火瑠璃が短剣を振り下ろす。
けれどそこで大きな甲高い音が聞こえた。
「なんで! 短剣が折れた!?」
驚いた火瑠璃の声。
けれどそんな火瑠璃には目をくれずその蛇は俺の方をまっすぐに見て、そのまま一気に近寄って俺の眼の前に向かってきて蛇は口を大きく開く。
死ぬ、そう俺は思った。
同時に走馬灯のようにいろいろな過去の出来事が浮かび、何故か最後はこの世界に似たゲームの画面が思い浮かんでその魔法を選択していく。
けれどその時にはすでに蛇の口から炎の魔法が吐かれようとして……。
即座にもらった紙の一枚をかざしていて、そこから炎が溢れる。
鮮やかな炎。
その眩しさに目を閉じる。
断末魔のような悲鳴が聞こえる。
やがて、瞼の裏で光を感じなくなり、同時に何かが落ちる音がする。と、
「ようやく魔法を信じていただけたようですね」
あの謎の異世界の神の声を聞き、振り返る。
だが何か予感があったのだろう。
俺が振り返るとともにその異世界の神はふっと姿を消した。
逃げられたかと思っていると、火瑠璃が俺に走り寄って来て抱きついた。
初めて家族以外の女性に抱きつかれる感覚。
女の子って柔らかいんだな、と、平常心を必死に保とうとしていると火瑠璃がハッとしたように俺から離れて、
「そ、その、助かったわ」
「いや、うん……」
気まずさが火瑠璃にもあるのかもしれない。
俺もそうだけれど。
そして、氷子の楽しそうな顔が更に俺の羞恥心を煽る。
だって女の子に抱きつかれる経験など、家族以外本当に初めてでしかも美少女でな……いや、それ以上考えるのはやめよう。
俺は平常心に戻った。
そこで火瑠璃が、
「アキト。所でそのカード、変じゃない?」
「? あれ、俺、いつの間に……」
無意識の内に紙を持っていたらしい。
此処から先ほど炎が出て行ったのだ。
おそらくはカードの魔法を起動させたのだと思う。
ただこれは火瑠璃にもらったまっさらな紙だったはずなのだ。
けれど先ほどちらりと何か模様が浮かび上がっていた気がする。
それに俺は見覚えがあった。
「これは……魔法?」
俺の知っているこのゲーム内の魔法が、絵柄とともにそこに浮かび上がっていたと気づいたのだった。