恋人になればいいわ!
そんな夢も希望もない現実的なカードの説明を受けた俺は、次にある事に気付いた。
それはつまり戦略にも関わってくる重要な問題で、
「そのカードは何枚くらい作れるんだ?」
「お好きなだけお作りになればいいんじゃないですか」
異世界の神“ハイパーエンジェル・ラブピース”が適当な口調で告げた。
それに俺はいらっとしながらも必死に抑えて、
「何でだよ、教えてくれてもいいだろう」
「……条件があるのですよ。例えば魔物を呼びだすだけなら、空間歪曲の魔法をカードにセットしておけばいい。そして“発動”させればいいのです」
「“発動”って何だ」
「望んだ時が発動範囲ですね。理屈上は、貴方自身がこのカードを作れるようにしている時点で、時空系の魔法使いとしての力が解放されている状態ですから、現在から未来までの範囲で自由に設定は可能でしょう」
それを聞いてふと俺は試したい、中二技を思いついたがそれを我慢しつつ、
「それでどうして枚数が言えないんだ」
今の話では、どうしてそれが使用枚数に言えないかに変わるのかが分からない。
だがそこで異世界の神“ハイパーエンジェル・ラブピース”は、
「貴方の言っていたカードの使用が二つに制限されているからです。一つは魔物召喚用、もう一つは、魔法を封じ込めておき特定条件で開放する魔法」
「? なにか違うのか?」
「ええ、前者の場合は空間歪曲をして召喚するだけなのですが、後者の場合は魔法を収納させておく仮想異世界空間を強制的に紙の上に魔法を使って生じさせる高度魔法が必要なのです」
「……そうなのか」
「ええ。そのどちらを選ぶかで魔力の消費量が変わりますし、まあ、魔力が切れると人間は気絶しますので、それではかってください」
そんな話を聞きながら、俺はもうそろそろ本気で夢であってくれよという気がした。
絶望的なまでに、色々とおかしい。
気絶をするので測ってくれって……実測値といえば聞こえが良い気もするが、丸投げだ。
そもそもそんなカード作れないし。
そこであの変なおっさんがスクリと立ち上がり、
「それでは私はそろそろ仕事に戻ります。では」
そう告げて、おっさんの姿は消えた。
カードについての情報はいくらか聞けたが、そのカードが発動できなければどうにもならないんだよなと俺が思っていると、そこで火瑠璃がやってきて俺の手を握った。
「アキト、その力をぜひ私達のために役立ててくれないかしら」
「え? えっと、カードの魔法が、か?」
「そう! 今の話を聞くと、人造魔石の拡張魔石と同じくらいの効果があるみたいじゃない!」
「そうなのか? 俺はその拡張魔石自体を見たくらいでしか知らないが」
どうやら火瑠璃に取ってそのカード魔法は魅力的らしい。
でもそんなに重要なのかなと俺が思っているとそこで火瑠璃が悔しそうに、
「く、異世界人で詳しくないから仕方がないけれど、私達はそれが凄く欲しいの!」
「そうなのか~」
「そうなの! だってそれなら魔力をためて、今使える以上の魔法が使えるんですもの!」
力説する火瑠璃だが俺は有る矛盾に気づいたのでいってみる。
「でも、これは魔力貯められないと思うぞ?」
「魔法が封じられるなら魔力もきっと貯められるはずよ!」
「そうなのかな。なんととなく無理な気がするが……普通に魔法を入れておいて回復を待って、使える魔力をためておくってわけにはいかないのか?」
「……それでもいいけれど……そういえば、3日たったそのカードってどうなるの?」
「自然消滅するんじゃないのか?」
「中の魔法は?」
封じ込められている魔法がどうなるのか、そういえば聞いていなかった。
てっきりまるっと消え去るのかと思っていたが、どうやら違うかもしれないようだ。
ただそれは先程のおっさんに聞ければいいのだがいつ来るかわからない。
となると、
「分からないから、カードを作って、魔法を封じ込めて試してみるしか無いか」
「よし、じゃあまずカードを作りましょう!」
「でもさっきからやっているのに全然出来ないんだよな」
とりあえず紙を取り出す俺。
念じても紙には何も起こらない。
それを見ていた火瑠璃が俺の横にまでやってきて腕に抱きつきながら耳元で囁いた。
「ねえ、アキト、成功したら私と氷子がほほにキスしてあげるわよ?」
「火瑠璃ちゃん、何で私まで!」
氷子が悲鳴を上げるが火瑠璃は、
「この力が手に入れば私達の絶望的なまでの戦力差を変えられるかもしれないのよ! ここで色仕掛けを使ってもいいじゃない!」
「うー、でも、アキトさん、聞いてないみたいですよ?」
「……ちょっと、私達みたいな美少女に誘われて反応しないっておかしいでしょう?」
火瑠璃がそう叫ぶが俺としては、
「美人なのは認めるけれど、利用されているのは分かるしな。俺だって警戒はするよ」
「うう、でもそのカードの力は欲しい。できれば量産したい!」
「……俺固有の魔法でないなら量産は出来るのかな」
「きっと出来るわ。さあ、カードを作るの! 作ったらキスしてあげる」
「別にいい。そういうのは恋人にするものだろ?」
「じゃあアキトが恋人になればいいわ!」
「……誰の?」
「私の!」
そう告げた火瑠璃に俺はしばし考えてから、
「いいや、遠慮する」
そう告げると同時に何か衝撃を感じて、俺の目の前は暗闇に包まれたのだった。