異世界の神にゲームのセーブデータを上書きされた件(この作品は二年前に書いた作品のリメイク版になります)
この作品は二年前に書いた作品のリメイク版になります
山田彰人、それが俺の名前である。
黒髪黒目のごく普通の男子高校生である。
上には、兄、姉がいて、下には妹、弟がいる。
今時珍しい5人の子供のいる家庭でしかも両親共にラブラブだ。
そんな山田家はご近所で有名な美形一家である。
姉は雑誌の読者モデルをして、妹は現在売り出し中のアイドル。
兄と弟は特にモデルをしているわけではないのだが、現れるだけで女子がざわめくイケメンで、弟は毎年バレンタインデーには紙袋に何袋もチョコレートを持って帰る程度にモテモテだ。
目立つ兄弟の中で俺は、“普通”だった。
はっきりいって地味だと言っていい。
俺が来た所で女の子ははしゃがないし、バレンタインデーにはチョコレートを義理で一個貰ったくらいだ。
面立ちはそんなに変わらないと思うのだが、俺は対象外のようだった。
ちなみに父と母も美形と美女で、年齢不詳だと二人共よく言われる。
更に子供がいたんですかと驚かれるのがよくあるらしい。
話を戻すが、そんな中で平凡な俺だが、兄弟仲が悪いわけではない。
むしろ、他よりも良いと言えるだろう。なにせ、
「彰人、今日私の買い物に付き合ってよ」
「お兄ちゃん! 今日は私と遊園地に行こうよ!」
「馬鹿、こんな暑い日に外に行くのは自殺行為だ、むしろ皆でゲームをしよう」
「兄さん、皆でパーティ組んでゲームをしよう」
姉妹兄弟、俺の部屋の外で口々に叫ぶが、俺は無視した。
こうやって気にかけてくれるし、大事にされているのは分かる。
いいお兄さんや妹達を持って良かったわねと何も知らない人は言うが、それは現実に俺と同じ立場になってその言葉が吐けるかどうかを考えるべきだと思う。
そう、俺は構われすぎた猫が飼い主から逃げ出すように、正直俺はあまりにも彼らに構われ過ぎて疲れているのだ。
それはもう、鍵をかけてこの部屋にこもるくらいに。
ハイスペックな兄弟に対しての劣等感は多少はあるが、それでも大事にされているのは分かるし、気に入られているのも分かる。
だがそれでもこうやって好かれて何かと話しかけられている俺は疲れていた。
それこそ家族なのだから同じ家にいるので毎日顔を合わせるのである。
その度に延々と構われて慕われて……。
一人でいる俺を心配してのことらしいと以前、俺は兄弟である彼女達から聞いた。
だが俺からしてみると、むしろ外で一人でいられる時間がどれほど重要か彼女達は分かっていない。
それを人はボッチというのだろう。
だがそのボッチの気楽さは一度味わえば病み付きになるような爽快感と自由があるのだ!
そう思いながら鍵の閉めたドアを見ながら俺は、そっと財布を取り出した。
丁度ゲームも一段落した所なので、俺は記録してゲーム機の電源を切る。
人気のVRMMO“迷宮街のダンジョン攻略”の、家庭用ゲーム版RPGだ。
近年、VRMMOは人気だが、時間が取れない、一人での活動が嫌だ、子供にさせて変な人と関わらせたくない……といった様々な理由から、家庭用ゲーム機で一人遊びできるゲームが、VRMMOから逆輸入されている。
そして俺もそういったものが気に入って、一人ゲームを楽しんでいた。
けれど外があまりにもうるさいし、このままいとまたヘヤピンで鍵を開けられてしまうので外に逃げることに俺はしたのだ。
なので財布を持ってベランダに通じるガラス戸を開ける。
熱風が入ってきて、今日は高温注意報が出ていたと今更ながら俺は思い出した。
こんな日に外に出るは……水分補給が重要そうだと嘆息する。
そして俺は、熱いなと思いながらベランダの靴を履き、壁を伝って地面に降りる。
「折角だから今日発売のラノベでも買いに行くか」
そう呟いて俺はアスファルトの道を歩き出す。
空はどこまでも青くて照りつける太陽が恨めしい。
そんな中、鳥が一匹飛んで行く。
「ああ、何処か遠くに行きたい。誰にも干渉されない静かな場所で、のんびりと空を見上げたい……俺、どうしてこんなに枯れちゃったんだろう」
俺まだ高校生なのに何でこんな悟りを開いた人みたいになっているんだろうと俺は思って、嘆いた所でどうにもならないよなと、熱い道を歩き始めたのだった。
ラノベを買った帰り道。
俺は炎天下のアスファルトを歩いていた。
所々に逃げ水……水たまりのような蜃気楼が見える。
「やっぱりさっきの喫茶店で一休みしていくべきだったか」
そう思いながら汗だくになりながら歩いていく俺。
やはりこんな中、歩いて行く俺が愚かだったのかもしれない。
炎天下の中では人もまばらだが、丁度公園の前を歩いて行った所で男の子が他の女の子に追いかけられている。
こんな暑い夏でも子供達は元気なようだ。
微笑ましいと思いながら見ていると、この炎天下に走るトラックが!
「危ない!」
俺は慌ててその男の子を庇おうとして、結果としてその子を助ける事は出来たけれど俺の前にトラックが……。
そこで不思議な事が起きた。
「ふうんぬっ!」
俺の目の前でトラックを両手で押さえる、鍛えられた肉体と背中に白い一対の羽が生得たおっさんが角刈りのおっさんが、そのトラックを俺の前で食い止めた。
ちなみに彼は海パンのようなもののみを履いている男だった。
個人的にはあまり関わりたくないが、助けてくれたことには変わりはない。
そして、その素晴らしい筋肉の男は止まったのが分かると、ほっとしたように息を吐いて。
「ふう、あまり危険な事はしないでくれ」
「は、はい……えっと、ありがとうございます」
「いやいや、構わない。それでは失礼するよ」
そう言って白い歯を輝かせながらにこやかにその男はその場で消えた。
跡形もなく、存在すらしていないように。
そこでトラックの男性が慌てたように降りてきて、
「大丈夫ですか!」
「はい、丁度止まったので。あの女の子も無事のようですし」
助けた少年は涙目になっていた。
そしてそのトラックの運転手も安堵して、
「ブレーキを踏んで間に合ってよかった」
「あの、なんだかトラックを止める筋肉質な男性を見たような気がするのですが」
「いや、ソレはないよ。僕も見ていないし……でも君達が無事でよかった。僕も仕事に戻るよ」
そう言ってトラックに乗り込む彼。
とりあえずは誰も怪我をせずに住んでよかったと思う。
思うのだが、俺はといえば、
「やっぱりあそこの喫茶店で休むべきだったか。こんな幻覚を見るって……熱中症か? とりあえず木陰で休んで、近くの自販機で飲み物でも買ってくるか」
そこで先ほどの子供がお礼を言いに来たので俺は、これからは気をつけろよ、という注意をして、一番近くにある自販機の場所を聞いたのだった。
家に帰ってきた俺は真っ先にシャワーを浴びて服を着替える。
完全に汗だくだからだ。
そしてシャワーを浴びて居間に行くと、一枚の紙がテーブルに置かれていた。
なんでも、兄弟達は全員で買い物に行ったらしい。
「『よくも我々をコケにしてくれたな。一人寂しくお留守番をしているが良い。お土産を楽しみにしていろ』……暫く静かでいいな」
俺はそんな薄情なことを思いながら、冷蔵庫から作っておいた麦茶を取り出し、部屋に向かう。
そして、熱かったから一休みしようと部屋を開けるとすでにクーラーがかかっていた。
つけっぱなしにするとまた母さんに怒られると思って俺が部屋に入り込むと、
「やあ、待っていたよ」
俺は即座に部屋のドアを閉めた。
理由は単純だ。
そこには先ほどのトラックを受け止めた男が部屋にいて、俺の部屋にある某家庭用ゲーム機のゲームをやっていたからだ。
あのVRMMO“迷宮街のダンジョン攻略”をだ。
ちなみに俺はそのゲームを攻略途中だったはずで、きっと他に記録を作り始めから彼はゲームを始めたのだろうと思う。
きっとそうだ。
そうに違いないと思って俺が恐る恐るドアを開けると、
「ああ、急に来たからびっくりしたのだろう。ちょっと待ってくれ、今記録するから」
「はあ……って、それ俺の記録!」
俺はそこで自身の名前を付けたゲームの記録が上書きされていくのを目撃する。
一体何が怒っているんだ。
俺の血と涙と汗の結晶であるゲームの記録が、勝手に進められて記録されている。
しかも見知らぬ男が部屋にいて……。
「ふむ、非常に面白かったよこのゲームは。特にこの女の子主人公が……どうしたのかね?」
そこで俺は、拳に全体重をかけて、腕を繰り出す。
だがそれはすぐにその妙な男に捕らえられた。
片手でソレを抑えながらその男はやれやれと嘆息して、
「全く何をするんだ突然」
「それはこっちの台詞だ! ここまでやるの大変だったのに何で勝手に進めるんだ!」
ここまで来るのに一体何時間費やして、レベル上げをしたんだと俺は思う。
そんな激怒する俺に彼は、
「どうせこれからやる時間は無くなるんだし、構わないではないかね」
「……どういう意味だ?」
そこでふっとその男が笑い、
「その前に私の名前を教えておこう! 私の名前は“ハイパーエンジェル・ラブピース”、異世界の神だ!」
その謎の男は俺にそう告げたのだった。
「ちなみに、ハイパーエンジェルとは神々の中でも特に重要な人物の役職名であり、名前がラブピース。つなげて、“ハイパーエンジェル・ラブピース”という名の異世界の神だ!」
それを聞きながら俺は頭痛がした。
待て、ええっと、やはり俺は熱中症か何かにかかっているのだろうかとしばし自身に問いかけて、
「お前は一体に誰なんだ」
「その前に私の名前を教えておこう! 私の名前は“ハイパーエンジェル・ラブピース”、異世界の神だ!」
「いや、もういいからそれは。人の家に勝手に入ってきて、泥棒か?」
「失礼な、私を泥棒呼ばわりとは……だが君のその才能に免じて許してあげよう」
妙に偉そうな泥棒だった。
しかも泥棒のくせに俺の部屋に居座り、ゲームのセーブデータを上書きしやがった。
もうこれは泥棒でもなんでもない気がしたが、その辺はどうでもいい。
そろそろ話すのも嫌になってきたの俺はスマホを取り出して、警察に通報しようとするが、
「魔法パワー!」
「ああ! 俺のスマホが取り上げられて握りつぶされた!?」
「見よ、これが魔法の力だ!」
握りつぶされてその破片がばらばらと俺の部屋の床に落ちる。
プラスチックや電子部品の欠片がポロポロと床に落ちる。
その粉々にされたそのスマホは、アルバイトをしてようやく手に入れた物だった。
苦労の結晶が壊されるという絶望から俺は変な所で冷静になって、
「いや……今のは普通に腕力でしょう」
「む、近ごろの若い者は魔法を信じないというのは本当だったのか」
「いえ、今は科学の時代ですから」
「全く仕方がないな君は。よし、この神である“ハイパーエンジェル・ラブピース”の力を見せてやろう! はぁあああああ」
そう告げると同時に、彼の手の中にあった俺のスマホが光り輝き、元の形……否、羽が生えて元の形に戻った。
よく見ると床にこぼれ落ちたプラスチックの破片は跡形もなく消えていた。
凄い手品だなと俺はぼんやり思って見ていると、
「はは! これで私の力を信じてくれるかね」
「……なんかもう良いです。分かりました。それでその異世界の神とやらが一体俺に何の用ですか」
「ふむ、ようやく聞いてくれる気になったか。素晴らしい事だ! それでだな、まず、君には隠された才能がある!」
びしっと指さすその異世界の神“ハイパーエンジェル・ラブピース”に俺は、もうどうとでもなれと言うかのように死んだ魚のような目をしてその異世界の神“ハイパーエンジェル・ラブピース”を見た。
それに彼は、
「なんだその顔は。全く近ごろの若い者は元気が足りない!」
「それで、何で俺にそんな隠れた才能が? とても信じられません」
生まれてこのかた平穏な人生しか送ってきていない。
確かに兄弟達は見かけがいいのにも加えて、兄は柔道で黒帯だし、弟は弓道の大会で優勝しており、姉はこの前五人ほどチンピラに絡まれたのをハイヒールで踏みつけ、妹は箒で敵対アイドルの刺客を返り討ちにしたと武勇伝を語っていた。
しかも全員、学業の成績もいい。
そんなふうなそこまでの無双できる技術もない。
それこそ格闘技だって授業で教わった柔道くらいの物だ。
しかも何かを作ったりするのなんて工作の時間くらいしか覚えがない。
成績だって突出したところはない。
どれもが平凡な俺だったのだがそんな俺に彼は、
「いや、ある! その才能がある為にこの私自らが、君が死にそうになるのを全力で邪魔しているのだから!」
「それはありがとうございます」
そういえばトラックの時に受け止めていたなと俺は思いながら、やっぱり俺は今何処かの病院に運ばれていて、夢を見ているのかもしれないと俺は絶望的な気持ちになったのだった。