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ヘンタイはお断り!

少々、残酷な描写あり。

はあはあはあ


荒い息遣いと、顔に掛かる鼻息。

こちらを見る目は血走っていて、もう正気を失っている。


わきわきと動いている手が、ついにこちらに伸ばされてー…


「ギャー!ヘンタイっ!!」


手を避けて、掴んだのは相手の腕。

もう片方の手は、相手の脇近くを掴んで勢いを付けて腕を引く。

バランスを崩した相手の足を払い、地面に投げ飛ばす。


「へぐっ!」


投げたヘンタイは、受け身を取ることが出来なかったのか、そのまま地面に倒れた。

腕を取った時点で、その細さから鍛えていないと検討を付けてたから、勢いは殺してある。

投げられたときの衝撃は大してないと思うけど、地面が石造りだから痛みは多少あるかもしれない。

しかし自業自得だ、このヘンタイっ!


「なんだ、今の?あれも魔術か?」


剣を持った男の人は、唖然としながらこちらを見ていた。

そのちょっとマヌケな表情に、イラッときた。


「もうっ!その剣は飾りかっ!!」


か弱い女子が襲われてるってのに、何ぼんやりしてるんだ。

吠えれば、男の人はビクッと反応する。


「俺の職務は、師団長の」


ギロッ


「すっ、すみません…」


うん、自分の失敗を理解して、すぐに謝ってくれたから許す。


「それで、このヘンタイは急にどうしたの?」


どこがスイッチだったのか、いまいちよくわからないんだけど。


「ヘンタ…っ、いや、ある意味ヘンタイだけど。こいつ、なんというか魔術に関するものに対して、異常な反応するんだよ」


剣士(仮)が言うことによれば、魔術師(男)、魔術に関するヘンタイらしい。


「魔女は魔術師より、更に希少だから色々取って調べ…いや、調査?検査したいんじゃないか?」


言葉を変えて濁そうとしてるけど、つまり珍しいからモルモットにしたいと。

サイテー、マジでサイテーだ、このマッドな魔術師!


「仕方ないよぉ。予知が出来て、長様よりも魔力が強い魔女はぁ、先代様以外にはいませんでしたからぁ。先代様に、そんなことは頼めませんしぃ?恐ろしくて」


おい、最後が本音だろ。

睨み付けるけど、ひ弱なくせにすぐに立ち直った魔術師(男)はへらへら笑うだけで堪えた様子はない。


「それにぃ、こーんな希少な魔女が誰も所有していないのは、おかしいですぅ。所有者の印がどこかにあるかもしれませんからぁ、ボクがしっかり調べなくちゃいけないよぉ。長様に、何かあってからじゃぁ、遅いしぃ?」


こっちの神経を逆撫でする、間延びした暢気な声。

しかし、魔術師(仮)の動きはその真逆だった。


言葉が終わるか否やのタイミングで、彼は飛び掛かって来たのだっ!

何、これも魔術とか!?

術式使ってなかったけど、これが無詠唱ってやつか!

それとも、魔王に対する忠誠心の成せる技?

いやいや、それより先に撃破しないと何だかヤバそうだよ、やっぱりヘンタイだよ、こいつうぅぅっ!!


「…確かに、ホットの言うことも一理あるな。長、私とブラウニーが調べますので少々お時間を戴いてもよろしいでしょうか?」


「いや、調べるのであればブラウニーとではなく、プリンにしろ」


「はぁ…?いえ、しかし。…申し訳ありません、了解いたしました」


困惑気味のモンブラン(仮)を、一睨みで黙らせる魔王。

いやいや、説明くらいしなよ。

いきなり指名されたプリンも困ってるし、剣士(仮)…ブラウニー?も何か似たような表情して理由が理解出来てないみたいだ。


…しかし、ブラウニー(仮)は片手に剣、片手に脱力した人間の首根っこを鷲掴んだままでよく平気だなぁ。


さっき吠えたのが効いたのか、魔術師(仮)に飛び付かれる前に、ブラウニー(仮)は剣の柄でヘンタイを殴って昏倒させてくれた。

しかも、しっかりその一撃が決まり、正気の他に意識も失ったヘンタイの首根っこを掴んで私から引き離すというサービス付きだ。

うん、さっきのことはちゃんと水に流すからね、ありがとう!

感謝すれば、微妙な顔をされた。何故だ。


「あの、師団長。そのぅ、ですね…」


もじもじしてるプリンが、魔王に進言しようとしている。

女性らしい丸みを帯びた、可愛らしい顔が心なしか赤い。

何なんだ、この可愛い生き物は。

抱っこして、ハグハグしたい!!


思わずさっきのヘンタイと同じように、鼻息が荒くなる姿に視線を飛ばしたプリンは、困った顔をしながら思いもよらぬことを言い出した。


「印を探すのであれば、魔術師のブランは兎も角、同性のブラウニーに頼んだ方がよろしいかと。さすがに、仕事で、子ども相手とはいえ、異性は異性ですし…」


照れながらの言葉に、首を傾げる。

ちょっと興奮が冷めない状態だけど、プリンの言葉を受けて冷静に整理してみよう。


プリンは女の人で、“印”とやらを探すのに異性を調べられないと言っている。

ブラウニー(仮)は同性だから大丈夫で、モンブラン(仮)は魔術師だから平気だと言う。

魔術師が必要な探しものをすることを肯定したのはモンブラン(仮)、進言したのはヘンタイ。

ヘンタイは、魔王に何かあっては困るからと調べると言っていた。

そんな考えに至ったのは、希少な魔女が…イヤな言い方をしていたが、誰かが所有している可能性を指摘したからだ。

それで、『希少な魔女』って言うのはこの場合は一人だよな。


「えーと、まず一つ伺いたいのですがー…魔女って、少女と女性がなるものですよね?」


何せ、魔“女”だから。

しかし、魔王以外の三人は、首を横に振る。


「先程も説明したが、子どもは男女関係なく魔女と呼ばれる」


モンブラン(仮)のさっきの説明、確かに『成人前の子ども』って言ってたけど、男女ってことは初耳なんだけど。

突っ込んだら、『成人前の子どもは性別について曖昧』らしい。

何だそりゃ?

すると男の子でも“魔女”呼ばわりで、ちょっと理不尽な感じになるけどそれはいいのか。

釈然としないけど、まあそれは兎も角。


「ではもう一つ。私の性別…誤解してません?」


三人は不思議そうに首を傾げる。

まあ、こっちも否定しといて何だけど、てっきり“魔女”って呼ばれたからわかってると思って放置してたからね。


「女ですから、私は」


目を真ん丸に見開いたまま、三人は硬直した。

あー…、わかりやすい反応を、ありがとう。


だって普通に、“魔女”って言われたら女の人や女の子を思い浮かべるし、性別の証明が必要な場面じゃないと思ってた。

でも、このまま放置してたら、プリンからブラウニー(仮)に交替しそうだ。

何を調べるかはわからないけど、『異性だと困る』みたいなニュアンスだったから身体検査的なものだと勝手に想像した。

うん、どっからどう見ても男なブラウニー(仮)にはやってほしくないな。

魔王は驚いてないみたいだし、さっきもプリンに代わるように言ってたから、知ってたのかもしれない。


「見ればわかると思うのですが?」


魔王たちみたいに、シルエットのわかりずらいゆったりした、そして足元がまったく見えないずるずるした服なら性別間違えても仕方ないかな〜って、思うけどさ。

喉元とか肩幅とか、小さいけど胸とか胴回りとか足とか、外見だけでもわかるじゃんっ!

どうせ、胸は控えめな寸胴体型ですよっ!


「ズボンにその短い髪では、わからなかったな…」


「プリンさんも、髪が短いですよ?」


耳の下だから、私に比べればまだ長い方だけど。


「法術師は、一人前に認められたら髪を神様に捧げるのです」


髪を神様にって、笑うとこかなぁ?

法術師は、神様に捧げてからは男女共に髪が伸びないらしい。

プリンの髪を見る限りは、つやつやで健康的な髪質で、毛根が死んじゃってるってわけじゃないみたいだけど、何だその不思議現象。

実は法術師は、こっそり髪を切ってるとは…ないんですか、そうですか。


逆に魔術師は、魔術の補助に髪を使うことがあるから男女共に長いそうだ。

なら、髪の長さで性別は決め付けられないと思うけど、女の人は法術師と一部の人以外は長髪らしい。


あと、ズボンも基本的には男の人が履くもので、仕事で身に付ける人がごく少数いるだけなんだって。

なんか、“一部”とか“少数”って言ってるけど、例が出てこないからわかりずらいよ。

もしかして本当は、ズボン履いた短い髪の女の人は意外に多いとかない?


「暗殺者が、そのような格好をしている」


冗談とは思えない、低い声と変化のない表情。

魔王様、まさかそんな格好の暗殺者に遭ったことがあるとかーって、無言で頷かないで下さいっ!

例を上げなかったのって、わざわざ言わなくても周知のことだったとか?

『お前がそうなんだろ?』っていう、無言の圧力ー!?

はっ、さっきからブラウニー(仮)が剣を持ったままなのって、警戒してるからなんだ。


「以前、長を狙った暗殺者も魔女だったな。まだ、幼い子どもだったのに…」


モンブラン(仮)の暗い表情に、『だったのに…』と濁したところが悪い想像しか掻き立てず、血の気が一気に引いた。

魔王に暗殺者って、怖いわっ!せめて勇者に…って、それもどうかと思い考えるのはやめた。

今はあれだ、自身の潔白を証明しないと!


「身体検査、お願いします!」


「あっ、あぁ、わかった」


勢いに押され気味のモンブラン(仮)、恥ずかしそうなプリン、警戒しつつ近くまでやって来たブラウニー(仮)…は、睨み付けて追い払って。

男性陣から見えない位置で、身体検査をしてもらいました。


空港にある金属探知機みたいのでもあれば、楽でいいだろうけどそんなものないから服を脱ぐ羽目に。

部屋っていっても、ほとんど外みたいなところで恥ずかしいけど、チャッチャとやってもらった。


所有を示す印は、魔力制御の術式が刻まれた特殊なアクセサリーと、身体に直に刻まれる焼き印の二種類らしい。

それを聞いたとき、家畜を思い浮かべてしまった。

アクセサリーなんて可愛く言ったところで、それも所詮タグみたいなものだ。

人権なんてない。

印のことでですら、そう感じるんだから普段の扱いだって良いとは決して思えない。

希少と言われる存在を、暗殺者に仕立て上げるとこだってそうだ。

ブラウニー(仮)もさっき『えげつない』って言ってたけど、その通りだった。

そんなことはじめにした奴、サイテーだ。

それに、『希少な魔女が誰も所有していないのはおかしい』って常識も。

だってそれって、常識になるほど長い間、繰り返されてきたってことじゃんっ!

何この世界、おかしいよ!!


「長、確認は終わりました」


「所有を示す印は、なかったです」


気付いたら、確認も終わって服の乱れも整えてくれてある。

顔を上げれば、音もなく気付いたら目の前に立っていた魔王が、静かにこちらを見下ろしていた。

感情の起伏がない、凪いだ青紫色の瞳を見ていると、段々イライラしていた気持ちが不思議と落ち着いてくる。

変なの、自分は不機嫌そうにしてるのに、他人のイライラは取り除いてくれるなんて。


ぼんやりと見詰め合ってると魔王は、ゆっくりと手を伸ばしてきてそのまま軽く頭に手を乗せる。

握り潰されるのかと思いきや、どんな心境の変化か何故か撫でられた。

ほんと、意味がわからん。

けど、絶妙な力加減で気持ち良いから、もうちょっとこうしててもいいよ?


ふと、魔力が強いらしいこの人もかつてひどい目に遭ったのかなぁと、想像してしまった。

今よりずっと小さなこの魔王が泣いてる…そんな姿を想像しようとして、失敗した。

魔術で敵を血祭りに上げ、凶悪な顔で笑ってる姿を脳裏に浮かべてしまった。

ぶるりっ


別の意味で、恐怖を感じた瞬間だった。



ブラウニー

①アメリカのバターケーキ。ナッツなどを入れたり、ココアやチョコを混ぜて黒い色にしたものが多い。

②登場人物。ココア色の短い髪に、チョコレートブラウンの瞳をした騎士。

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