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魔女裁判じゃなくて、ただの説明

ここは取調室ですか?それとも法廷ですか?

『判決を言い渡す』とか、いきなり言われないよね。

どっちも見たことないけど、空間に満ちる緊張感がすさまじい。

体育館のステージに上がって、賞状をもらうときより緊張する。


あと、魔王の優位性が変わらずやっぱり恐い。


「口振りから察するに、“魔女”を知らないようだが何故だ?」


いやいや、威圧感たっぷりに言われましても、そんな常識ありませんから。


「はぁ…そう言われましても、私の国には昔からいませんし」


ヨーロッパ圏なら、今でも魔女や魔法使いがいそうだけど、日本にはいないよな。

大昔だって、巫女が国を治めてたときがあっても、魔女がいたってことはないはずだ。

魔女っ子なら、日本で量産されてるけど。


間を開けず、素直に答えたつもりだけど、魔王のまとう雰囲気は改善されない。

鋭い目で見られるけど、嘘を吐いてるわけじゃないからどうしようもない。


「“魔女”を知らないとは、どこの国の出身だ」


「日本です」


言葉が通じてるみたいだから、外人さんみたいな色彩を持ってる相手に日本語で国名を言ったけど、せめて英語がよかったかな?

剣を持ったままの男の人が、首を傾げている。


「聞き覚えがないな」


小さい島国だけど、結構知名度は高いと思う。

知らないことがあっても仕方ないのに、なんというかこの魔王は自分中心に世界が回ってるとでも思ってるのかな。

知らないことなんて、いくらでもあるよ。


しかし魔王は、厳しい視線を私の背後に飛ばす。


「術は発動しているように見えるが」


八つ当たりですか?あぁ、違いますか。

不機嫌そうな表情は、通常装備みたいだから、特別機嫌が悪いわけじゃないのかも。


「はい、確かに発動しています。私が未熟であろうと、一度発動したホウジュツは相手との実力差があっても機能します」


“ホウジュツ”、また新しい言葉だ。

さっきの歌が、ホウジュツってものみたいだ。

女の人は自身を『未熟』だと言ってたけど、あれで未熟だったらもっと上級者だったらどれだけすごいんだろ?


「ならば、事実を述べているということか」


考える素振りを見せる魔王。

難解な問題を前にしているかのような表情だけど、そんなに日本を知らなかったことが気になるの?

それとも、魔女は知らなきゃマズイくらいの一般常識なのかな。


「魔女とは、どんな存在なんですか?私が知っている魔女とは、違うみたいですけど説明してくれませんか?」


一応、ここにいる全員に聞いたんだけど、みんな魔王を見てるだけで教えてくれない。

魔王は魔王で、まだ何か考えてるらしく、微動だにしないから別の人でいいから答えてくれっ!

これじゃあ私、ただの寂しい子だよ。


「長、よろしければ私が説明します」


スッと一歩前に出たのは、声だけでなく姿も姿勢も凛とした女の人だった。

部屋を明るくしてくれたのはこの人で、聞き違いだと思うけど魔王に『モンブラン』と、呼ばれていたはずだ。


彼女のおかげで明るくなり、やっとどんな人たちかを確認出来た…の、だけどっ!

モンブラン(仮)という女の人は、腰まで伸びたストレートヘアで、頭の上が白くて下にいくにつれて白に近い薄茶色というおもしろい髪色だ。

瞳は渋栗色で、目の形は切れ長な一重で目尻に掛けてつり上がっている。

輪郭は細長く、身体付きも背は170センチを越えるくらいの長身で肉付きはむしろ薄い、スレンダーな体型でまるでモデルさんみたいだ。

そして、注目すべき点は耳!

先が尖った耳は長くて、肌の色は抜けるような白さ。

あれだよ、ラノベやら兄がやってたゲームに出てた“エルフ”っていうファンタジー種族だ!

出てきてたエルフは、金髪だったけど別に髪色が違っても耳が長ければエルフなんだよね?

魔王、巨大トカゲ風動く骨、そしてエルフ、ファンタジーな存在が目白押しだ。


変な関心の仕方をしてると、まだ何かを考えてるらしいファンタジー代表・魔王は、チラッとだけモンブラン(仮)に視線を寄越して頷き、すぐにまた考え事に没頭し出した。

自分で質問したのに、放置ってどういうことだよ。

しかも、魔王なのに部下も放置で大丈夫なのかなぁ。


そんなことを考えてたら、男の人の一人がさっさとこの場を離れて骨のところに行ってしまった。

骨の前にしゃがみ、掴んだそばから手の中でボロボロと崩れてく元は骨だった灰を見て、『もったいないなぁ』やら『灰は使えるかなぁ』やらのんびりした口調でブツブツ言っている。

特別、魔王に声を掛けるでもなく、自分のペースでやっている姿はまさに自由人だ。

魔王も魔王だけど、部下は部下でマイペースみたい。


「では、私から説明する。わからないことがあったら、すぐに言ってくれ」


我が道を往く上司と同僚を持つエルフのモンブラン(仮)は、魔王と話すときよりも砕けた口調で優しく笑ってくれる良いお姉さんだ。

クールそうな見た目に反して、15…約160センチの私に合わせて軽く屈んでくれた。

うん、完全に小さい子どもに対する優しさだけど、うれしいです。


「わかりました、お願いします」


ひとつ頷いて、モンブラン(仮)はここでは常識らしい魔女のことを教えてた。


「魔力を持つ者が、この世界に生まれるのは知っているね?」


「知りません」


あっ、ヤバイ。

モンブラン(仮)が、凍り付いた。

これも常識中の常識なようで、思案顔の魔王と骨のところにいる男の人以外はみんな同じ顔をしている。

三人共『はぁ?ありえない!』って、顔に書いてあるよ!

言われた通り、素直に突っ込んだけどこんなにすぐに言ってはいけなかったんだね。


「すみません、続けて下さい」


日本人の必殺技・曖昧な笑顔を発動した。

男の人、モンブラン(仮)、プディング(仮)は困惑している!

効果は微妙なようだ。


「本当にすみません、続けて下さって結構です」


重ねてそう言えば、困惑顔をしつつもモンブラン(仮)は話を続けてくれた。


「その魔力を持つ成人前の子ども、またそのまま大人になっても魔力を維持し続ける女性をピエスモンテ全てで“魔女”と呼ぶ。成人女性の魔女は、強大な魔力を持つとされていて、このサントノーレ国にもかつて偉大な魔女が魔術師団長を勤めていたことがある」


ここの国名はサントノーレ、大陸もしくは世界はピエスモンテというのか。

どこかで聞き覚えがあるけど、国名としては聞き覚えはない。


あと、さっき聞いて意味がわからなかった“シダンチョウ”って、もしかして魔術師団長(・・・)ってことみたい。

ん?魔王は、魔術師団長も兼任してるってこと?

前に魔術師団長を勤めてた魔女は、どこへ行ったの?


「魔力を持って生まれる者は数少なく、大体は成人する前にその力を失うことが多い。魔力が例え残ったとしても、子どもの頃のように簡単な術式では使えない」


ふんふん、つまり『神童も二十歳過ぎればただの人』ってことか。

いや、違うのか?


“術式”はどんな式かわからないけど、つまり魔力を理解力としたら、小さいのときには暗算で計算出来たのに、大人になった今じゃ電卓なしじゃ出来ないってことかな?


「魔女以外が残った魔力を使うために、術式が必要になる。その術式を用いて魔力を使うのが魔術師。術式というのは、魔力を変換するための道標みたいなものなんだ」


術式というのは、計算式みたいなものか。

魔女はテストで計算式をほぼ書かない派で、魔術師は計算式をきっちり書く派。

テストで点を落とさないためには、計算式まで書いた方がいいと思いますよ、凡人の考えとしては。


「さっき、長や私たちが使っていたのが術式だ。自然界に存在する元素、形状、使用用途、数、出現場所、最終的な移動場所、最後に魔力の放出。本来なら元素を集めたり、間に細かな術式を挟むが、魔力が強ければ強いほど短縮出来、細かいことも術式なしで決められる」


要するに、さっきのモンブラン(仮)の術式を参考にすると、≪火炎≫は自然界にある元素、≪球体≫は形状、≪連打≫は数…かな?それとも使用用途?

≪標準≫と≪配置≫は説明とは逆だけど、最終的な移動場所と出現場所ってことか。


詳細を教えてもらえば、二人は骨に火の玉を連続でぶつけるつもりだったらしい。

文章にすれば『骨にたくさんの火の玉ぶつかれ!』で楽だけど、そう簡単にはいかないそうだ。


でも、聞いてるとモンブラン(仮)と男の人ってつまり、すごい魔術師ってことか。

もっとも術式を二言しか言ってない魔王は、更にすごいらしいけど。

さすが魔王、さすが魔術師団長!

心の中でヤンヤヤンヤやってたら、魔王に睨まれた。

何故だ、解せぬ。


「もう、ブランったら、説明が堅過ぎます。大丈夫ですか?」


「私にとっては、これが普通だ。この子も、理解しているようだ」


「もうっ!あなたはいつもそうです!」


説明を終えたモンブラン(仮)に、食って掛かったのは黙って聞いていたプディング(仮)だ。

“食って掛かる”と表現したけど、実際のプディング(仮)の言葉は柔らかく、まるで仲の良い友だち同士がジャレてるみたいな気安さがあった。


「ごめんなさいです。ブランの説明でわかります?」


「えっ、ああ、はい。大体は」


取り敢えず、“魔女”とは子どもと成人した女の人で魔力を持つ人、“魔術師”とは魔力を術式使って放出する人ってことでいいんだよね?

うん本当に大体は、わかりましたよ。


曖昧ながらも頷けば、プディング(仮)はにっこり笑った。

彼女は焦茶色の内巻き気味の髪を、耳の下辺りで切り揃えていて、大きな目も髪色と同じだ。

肌のクリーム色と相俟って、髪色がカラメルソースに、肌はプリンに見えて仕方ない。

美味しそ…いやいや、可愛い人です。

輪郭は女性らしい丸みを帯びていて、頬は薔薇色に染まってて健康的だ。

唇はキレイなピンクで、どんなお手入れをしているのか知りたいほどにぷるぷるのつやつや。

白いゆったりした服を着ているけど、腰よりも上に金具のないベルトを着けているから、胸が強調されている。

うん、身長は私と変わらないぐらいだから強調されてるだけだよ、きっと。

ましてや、大きなメロンを隠してるわけ、ないよね!


「改めまして、私はホウジュツシのプディングです。プリンと呼んで下さい」


幻聴が再びしたかと思ったけど、彼女はしっかりとそう名乗った。

恐る恐る、玉子を使った冷たいお菓子と同じ、彼女の愛称で呼べばごく普通に返事をしてくれる。


「…プリンさん?」


「はい」


こっちのおなかもつられてか、『きゅ〜』と情けなく返事をした。



モンブラン【仏】

①栗の甘煮を裏ごしして、そうめん状に絞ったみんながよく知るケーキ。下はスポンジだったり、タルトだったり、さまざま。アルプス最高峰・モンブランに見立ててる。

②登場人物。頭の上が白くて下にいくにつれて白に近い薄茶色の髪、瞳は渋栗色。エルフの女性魔術師。

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