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魔王様が世界を滅ぼしそうです。  作者: くろくろ
おかしと恋のレシピ
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前門の閻魔・後門の獄卒

「先程はどこへ行っていた。どこに行くのか、行き先を伝えてから行け」


王城から戻るときから、塔に黒いオーラが出てるから想像付いたけど、魔王様はお怒りでした。

そして、そんな魔王の前に人を引っ立てるのは、すんごい形相のタタン。

さながら、イケメンな閻魔大王とイケメンな地獄の獄卒だ。

イケメン…うれしくない。


「城に行ったことぐらい、気付いてただろ。それに俺をお守りに付けてたんだ、滅多なことはない」


本当に、どこから来るんだその自信は。

いや、それよりもサンに報告しないと!


「どうしよう…サン、私」


自然になったしおらしい態度になにかを感じた魔王は、オーラはそのままで訝しげにこちらを見る。


バクバクいってる心臓を落ち着かせるために、深呼吸を一つ。

タタン本人にいうよりずっと、魔王の静かな瞳を見ての告白はなぜかひどく緊張した。


「好きなのかもしれない」


キレイな青紫色の瞳が、驚きに見開かれる。


「タタさんが」


バキッ


「…えっ、て。ええぇぇぇーっ!?サン、ペン折れてるっ!しかも、刺さってる!!血が出てるよぉぉぉっ!?」


コワッ、無表情なのがいつも以上にすごくコワイんだけどっ!?

さっきまでの比じゃないくらい、オーラがドス黒いよっ!?


「なぜ、そう思った」


声も真っ黒いオーラをまとってるみたいで、重い。

重過ぎて、潰されそうだ。


「なぜって…」


本人、そこにいるんだけど。


「タタさんが私を通して、別の誰かを見ているのを見てたら…ココがずきずきするんです」


胸元をぎゅっと握る。

そう、タタンが私を誰かに重ねる姿が、かさなって…あれ?

一瞬、過った考えに呆けていれば、横ではひっくい声で閻魔大王(魔王)が判決をいい渡していた。


「タタ、いまから北の国境へイけ」


『行け』が『逝け』に聞こえたような。

そもそも、判決をいう相手が違わないか?


「キナ臭いとこにわざわざ行かせるなんて、遠回しに死ねってことかこの若造が」


タタンの見た目は十七かそこらの、未成年。

対する魔王は三十越えに見える。

なのに『若造』って、台詞にすごい違和感があるんだけど。


前方の閻魔大王と、後方の獄卒に挟まれて微妙な顔をしてると『他人事みたいな顔してるな』という、理不尽な小言と共に押し出され、踏ん張ることも出来ずに魔王の胸へと飛び込む。

突然だったせいで硬い胸板に額を強打して、身悶える羽目になった。

なんで鼻じゃなくて額を先にぶつけるかといえば、角度の問題で決して鼻が低いからじゃないからね!


「仮にも自分を好きだといった相手に、この仕打ち!」


「仮なのか。もういい、お前はしゃべるな」


どこか、グッタリした風に見えるタタン。

お菓子作り前に食べさせた、寒天ゼリーでも食べてリラックス…え、いらない?

あっ、そうですか。


「長、この子どもの戯れ言は忘れろ。どうせ知恵熱でも出してるのだろう」


「失礼な!知恵熱なんて、小さな子どもじゃな」


ぴとっ


「熱があるぞ」

「……」


打ち付けた額を、ひんやりとした手が覆う。

じんわりと冷たさが痛みを和らげてくれるけど、すぐにその手は温くなる。

大きな、硬い男の人の…魔王の手のひらが当てられていた。


上から青紫色の瞳が、こちらを覗き込んでると認識した瞬間、ガクッと膝から力が抜ける。

慌てることなく、こちらの腰に腕を回して支えて膝から崩れ落ちるのを阻止してくれた。

抱き寄せるような形になって、普段より近付いた距離に私は…。


「知恵熱じゃないですから!」

「わかっている。口を閉じろ」


念を押しただけなのに!

軽く抱き上げられて、まるで赤ちゃんにゲップをさせるみたいな体勢にされる。


「疲れているだけだろう。休め」

「うぅ〜〜」


それは、こっちの台詞だ。

魔王も休めばいいのに…なんて言葉は、背中を優しくポンポンと叩かれてるうちに消えていく。

呻いて沸き上がる眠気を散らそうとするけど、自覚した頭痛と熱っぽいダルさが散らしたそれらを引き寄せる。


めまいすら感じて目の前にある、太い首と逞しい肩の間に頭を乗せてもたれ掛かった。

額を擦り付けるようにすれば、電気でも走ったかのようにビクッとしたあと硬直する魔王。

もっと撫でてほしい気もするけど、目を開けてるのも難しくて、目蓋がゆるゆると下りていく。


「まるで、父娘だな」


呆れたような、タタンの声が聞こえる。

うっさい、父に腕一本で抱き上げられたことなんてないやい。

あの細腕ではムリだろう…母はよくしてくれたけど。


「お前のところもそうだろう。タル……」

「誰が幼女趣味だっ!?」


誰もいってないよ、そんなこと。


喧騒(ただし、タタンのみ)を子守唄にしつつ、内心突っ込みを入れながら眠りに引き込まれるのだった。




真っ暗な中、 ただ一人でたゆたう。

全身、暖かいものに包み込まれていて、自分すら見えない闇の中で一人なのに安心してうつらうつらしていられる。

どくんどくんと聞こえる、心音のせいもあるかもしれないけど。


うつらうつらしてると、外からなにか聞こえてくる。

よく聞こえないから意味は理解出来ないのだけど、微笑んでいるような優しい声や元気に笑うような声だから、理解出来ないながも『喜んでるのかな〜?』と想像出来た。

なんだか聞いてるうちにこっちもうれしくなってきて、そんな声や暖かいものに包まれながらたゆたう。


『…早く……』


それは小さな小さな、囁きのような声だった。

他の声と同じで、そこには喜びが含まれてて、声と同様に小さく笑ってるようなものだ。


…だけど、笑ってると思うのになぜだろう。


『早く、生まれてこい』


こう囁く声は、小さく啜り泣いてるようにも聞こえた。



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