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魔王様が世界を滅ぼしそうです。  作者: くろくろ
おかしと恋のレシピ
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これは恋だよ!…たぶん

さっき厨房でもらってきた果物で作ったジュースに、ペクチンと砂糖を混ぜ合わせたものを少しずつ入れて、ホイッパーで混ぜ合わせて、さらに水あめも入れて混ぜたら火に掛ける。

火を入れるときは一気に!高温にするんだ。


魔王の元実験室の片隅、IH調理機っぽくフライパン大の円が描かれているとこに鍋を置いて、手前に付いてる自然の形そのままな赤黒い石に手を触れる。

うちはガスコンロなんだけど、その強火よりさらに強い火力を思い浮かべながら石に集中させると円…魔王曰く“陣”と呼ぶものらしいーとこから、火が現れた。

火の手がないところから上がったそれに、いまさら驚くこともなく、焦げ付き防止や火を均等に入れるためにときおりホイッパーで中身をかき混ぜた。

そのとき、ゆっくり温度を上げていくと、離水の原因になるから注意!


「おい、コレは…」


「?サンが作ってくれた、魔術式調理機ですよ」


下の階にはないから、珍しいのかな。

タタンは鍋をかき混ぜる横を、ウロウロしながら魔術式調理機を見てる。

“陣”とやらには、文字らしきものや数字らしきものが書かれていて、鍋の乗っていないところの陣を確認していた彼はちょっと蒼くなった。


「…この原理は、理解してるか?」


『原理』って…、難しい言葉を使ったけど、つまりはどうしてこうやって火が出るかわかってるかと聞いてるんだよね?

もちろん、魔王に説明されてるから知ってるよ!


「この赤黒い石に、サンの魔力が込められているそうです。そこに手を当てて、火が燃えるのをイメージすればサンの魔力が魔術に変換されるらしいですよ!」


魔術式オーブンと一緒で、誰にでも使えるようになってるんだ。

“誰にでも”とは魔王はいってなかったけど、一般人(わたし)が使えるなら大丈夫だろう。

もっとも、試したのはテスト段階のときに魔王が使ったときぐらいで他の人は魔術師すらいないが。


あっ、そうだ。

魔術師とはいえ、使ったことのないタタンがいるんだから、彼にも使ってもらって使い心地を聞いてみよ〜と!

急上昇する温度計を確認しつつ、なぜか顔を引きつらせたタタンに場所を譲ろうとする。


「使ってみてください」

「断る」


…そんな即答しなくても、鍋からは目を離さないのに。


「長の魔力は…クズ魔石(いし)に保存能力など……だいたい、なぜ…自分の魔力だと……はぁ……」


ブツブツなにごとかを呟いてたタタンは、最後に大きなタメ息を吐いて憐れみの視線を送ってくる。


「お前、理解力がないな」


いきなり失礼だな、もうっ!!


一気に温度を上げて、高温になったらジュースの酸味の強さによって量を調節したコレを入れて〜と。


「なんだ、コレは?まさか、へんな薬品じゃないだろうな」


ギロッ

さっきのオッサンを彷彿させる目付きで、タタンは睨んでくる。

正確にいえば、睨んでるのは投入しようとしてる、白っぽい粉だ。

“白い粉”というと、なんかアヤシイ薬に思えてくるなぁ。


「タタさん、ワインって飲みますか?」


「…藪から棒に、一体なんなんだ。飲むが」


飲むのか。

外見は未成年なのに、飲酒しても大丈夫なの?

お酒は二十歳になってから!…ただし、風味付けのリキュールは除く。


「ワインにも入ってますよ、これと同じ成分…同じ要素?が。上質な白ワインに多く含まれてて、コルクにキラキラしたのが付いていたらそれがそうです。もとはブドウなどの一部の果物に、含まれているものなので人体に影響はありませんので、ご安心を」


“酒石酸”って聞くと、身体に悪そうなイメージだよね?

クレーム・タータなら、『あぁ、製菓材料っぽい』ってなるけど。


クレーム・タータっていうのは泡立ちを安定させるために使うもので、シフォンケーキで使えばフツーなら型から出したら“へにゃん”ってなっちゃうのが、キレイに立つんだよ〜

クエン酸液でもいいんだけど、ないから今回はクレーム・タータと水を混ぜて溶かしたものを投入します。


「安心って!べべべっ、別にアイツのためを思っていったんじゃないっ!」


…どうした、タタン。どこからくるのかわからない、自信に溢れた何様俺様王子様(笑)が、吃りつつ顔を赤くしてる。

血色はよくなったけど、目の下にいる隈さんは相変わらずで、人相悪さも加えて気持ち悪い。


ウアラネージュとオムレットのいう“あの子”はルレを指すけど、タタンがいう“アレ”やら“アイツ”って誰のことだろう?


取り乱すタタンをとりあえずムシして、クレーム・タータを溶かしたものを、目標の温度に達した鍋に入れて混ぜ合わせる。

これで、型に流し入れて常温で固めればオッケー!


「ただの皿に流し入れて、本当に宝石のように見えるのか?」


んなっ、そんな急にムチャブリしないでよっ!!


「固まって、カットしたあとに砂糖を周りに付ければ、さっきのと同じようにキラキラして見えますよ!型代わりが、これくらいしかないのでそれが精一杯なんです」


そりゃあ、ハートの他にもダイヤモンドの形をした型はあるよ?

でも、現在ここにないものを欲しがってもないものはない。

さすがにホイッパーみたいに、ブラウニーに金属の板を曲げてもらうわけにもいかないしなぁ。


「金属の加工…は、アイツの分野か」


「でしたら、その“アイツ”さんに頼んでみてはいかがです?」


いやだって、名前知らないからタタンが呼んでる“アイツ”っていっただけなのにそんなに睨まないでよ。


「気安く呼ぶな。それに、なぜお前とアイツを会わせなきゃいけないんだ。なにか、企ん」

「いえ。型が作れるのであれば、説明が必要かと」

「………」


なんなんだよ、もーっ!!

言葉を遮ったのは、悪かったよ。

でも、いらない誤解を受けそうだったからそうしただけで!

タタンがいう“アイツ”が何者かはわからないけど、なんで会いたいってだけで『企む』ってことになるのさ。


「だいたい、会える人って限られてるんですよ!たまには、その場の勢いで初対面の人と会ってみたいんです!!」


わかってるよ、魔王が心配して会う人を制限してるのも。

なにかあったときのために、いつも誰かいてくれるようにしてるのも。


理解は出来てるけど、過保護過ぎじゃないかなっ!?

どんだけ、小さい子だと思われてるの?


「知らない人には、着いてかないよ!………お菓子くれても」

「なんだ、その長い間は」


そんな安い女じゃないよ、ホールケーキくれるなら…いや、たぶん大丈夫だよ、そんな呆れた顔しないでタタン。


「長が様々な面を制限するのは、別の理由だか、そっちの意味でも制限したいだろうな。…アイツも、本当は」

「それって、恋なんじゃない?」


「えぇ〜、やっぱりそうかなぁ?」


ガシャンッ


ガシャンッ


「って、なんでタタさんまでボウル落とすんですか」


「おおおお前が、やったから!こうやるんだろ!?」


「…いえ、私は事故です」


窓を大きく開けてるせいか、外の声が結構聞こえてくる。

…正直、恋バナならもう少し小さい声でした方がいいんじゃないの?

話てるうちに興奮してきて、大きくなったんだろうけどさ。


ところで恋バナの“恋”って、当たり前だけど“鯉”じゃないよねー?


「その人が、他の女の子のことを考えたりするのを見ると、胸がズキズキするんでしょ?」


うんうん。


「それは嫉妬よ!」


英語でジェラシー!

って、ええぇぇぇ〜っ!?

そ、そうだったんだ…。


空だったからそのまま流しに落としたボウルを持っていく、オレンジ掛かった茶色の頭を見詰める。


「まったく、それぐらいでよく恋だなんだと騒げるな。病気だったらどうするんだ…どうした?」


「タタさん…」


いやいや、病気の方が騒ぐでしょうっていう突っ込みは置いといて。


胸元を押さえつつ、タタンを伺いながら意を決して口を開く。


「私、タタさんに恋をしてるみたいです」


突然の告白にタタンは、スルッと自然な様子で顔を逸らして、すごい形相でもう一度こちらを振り返った。

二度見したタタンは、すごい形相のまま外に響き渡るような声で叫ぶ。


「どうしてそうなった!?」



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