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魔王様が世界を滅ぼしそうです。  作者: くろくろ
おかしと恋のレシピ
53/58

コワイハナシシタイ

季節外れのホラー風味。ただし、通常運転。

「サト」


魔王が、握った得物ごと私の両手を、きつく握り締めた。


「お前の武運を、ここから祈っている」


前の出張前とは逆の状態だと気付き、魔王が神妙な表情を浮かべてるにも関わらず、ちょっと笑ってしまった。


「うん。ありがとうございます。でも心配しないで。ブランさんもいるから」


チラッと視線を向ければ、それに気付いたモンブランが力強く頷いてくれた。

うん、すごく安心だ。


「だから、ここで見守っててください!」


「…あぁ」


離れる、大きな手のひら。

名残惜しさを堪えて、ギュッと得物を改めて握った。

そして、モンブランとアイコンタクトを取って、お互いに頷いてから呼吸を合わせる。

モンブランは早口で術式を唱えて、こちらは気合いを込めて叫ぶ。


「とりゃあぁぁぁぁっ!!」

「≪展開≫」


気合いに応じた得物もまた、唸りを上げる!


うぃんうぃんうぃんうぃん


そして敵もまた、得物に合わせて唸る!


カシャカシャカシャカシャ


ギャッ、こっちに飛んできた!

ムムッ!敵もなかなかやるな。

だけど、こっちだって負けないだからね!


「…なぁ、プリンちゃん。あのチビッ子は、なにと戦ってるんだ?」


ちょっと首を傾げたプリンは、ブラウニーの質問に答えた。


「生クリームと砂糖ですね」


にこっ


「うっわ、魔力のムダ使い!まず次席の魔術師の使いどころが間違ってるっ!?」


ブラウニー、うるさい!

これ以上騒ぐなら、手作りアイスクリームはあげないんだからね!


あと、次席の魔術師って誰のこと?




バニラビーンズと半量の砂糖を入れた牛乳を沸かして、残り半量の砂糖と一緒に泡立てた卵黄の中に入れる。

そこに生クリームを加えて、また鍋に戻してとろみを付ける。

それを急激に冷やして、一晩熟成させる。

それを空気を含ませるようにしながら混ぜて、容器に入れて凍らせれば完成!


普通、アイスクリームは洋菓子店みたいな大きなとこで、特別な機械を使わないと作れない。

まあ、市販でオモチャみたいなアイスクリームマシンは売ってるけどさ。

とにかく、簡単には作れないんだ。


だけど今回は、そんな作業をかなりはしょって作ってみた。

本当、魔術って偉大だ。


「ふぃ〜、汗かいたっ!」


汗を拭きながら、みんなのもとへ戻る。

一緒に戦ったモンブラン、そして相棒の得物・魔術式ミキサーもどこか誇らしげだ。

さっき頑張ったかいあって、うまく出来たアイスを皿に出して、みんなで舌鼓を打つ。

うん!ひんやり、おいし〜


正直、にこやかな頑固者・オムレットの説得は難航してた。

煮詰まってる、むしろ煮立ってる現状をなんとかしたくて、クールダウンしたくて。

クールダウン…よし、アイスクリーム食べよう!となったわけだ。

…えっ?ワケわかんない?こっちもわかんない。

とりあえず、アイスクリームはおいしいです。


あっ、でも、暑いときに頭を冷やすもとい、涼むにはやっぱりアレだよね!


「怖い話しましょう!」


そう、こんなときこそ怖い話だ!


「怖い話?」


「はい、私がいたところでは暑いときに涼しい気分を味わうために怖い話をしてたんですよ」


なんかの実験で、実際に手がひんやりしてたからきっと涼しさを実感出来るはず!


「なんだよ、実際に涼しいわけじゃないだろ?」


ムッ!ブラウニーったらバカにして、本当は怖いんじゃないの〜?


「んなわけあるか」


じゃ、参加ということで!


「ところで師団長、さきほどからなにをしているのですか?」


あ〜、アレか。


「『らっぷ』の代行をしている」


「『らっぷ』?」


聞いたことのない単語に、ブラウニーの視線はこちらを向く。


「ほら、自分のお皿に乗ってる果物の表面が乾いてるのわかりますよね?」


ブラウニーの皿には、アイスの付け合わせで出したフルーツがまだ残っていた。

カットしたものだから、もう表面が乾いてるのが見てすぐにわかる。

だけど、さっきから魔王が触れている、自身の皿に乗ってるフルーツは新鮮でまさに『切り立て!』って感じだ。

その状態を指して、胸を反らす。

…誰だ、残念そうな視線を胸部に向けるヤツは。


「同じときに切って、同じだけ出しておいたのに新鮮でしょう?これがラップの効果なんです!いつでも、新鮮で菌…悪いものから中身を守るんですよ!」


「……俺、魔力がないからわからないんだが。師団長、結界張ってないか?」


「…?えぇ、張ってますよ?」


皿の上のみという、小規模結界だけど。


「『らっぷ』とやらは、チビッ子の国で重要な役職に就く者たちしか使ってないんだろ?なぁ、そうだといってくれっ!!」


どうしたブラウニーっ!?

最後はほとんど叫ぶようにして、ブラウニーは肩をわし掴んでガクガク揺さぶってくる。


ラップのすばらしさに恐れ(おのの)くのはいいよ。

でも、揺さぶり過ぎるとなんか出ちゃうから。

主に、さっき食べたアイスクリームとか。


「うきゅっいいえ、ぐえっ一般家庭で使われ…揺さぶるなーっ!!」

「ウソだろ、こえぇぇぇっ!チビッ子の国ーっ!!」


別に魔王みたいなのが、一家に一台いるわけじゃないんだって!

コラッ、人の話はちゃんと聞け!




「…真夜中、喉が乾いて目が覚めたのです。水を飲もうと、台所に行ったのですが、あいにく溜めておいて飲料水はなかったのです。すると、テーブルの上に、夕食に出された果物が残っていることに気付いたのです」


坦々とした口調。

普段のにこやかさがウソのような、表情という表情が消えた顔。

演出のために用意したロウソクの火が、下から顔を照らして…ひたすら怖い。

ホラー的な意味で。


「これは神から恵みだと思い、よろこんで口に入れて咀嚼したのです。しかし、フッと食べている最中に視線を感じて振り返ったのです。すると、後ろにー…」


ゴクッ


誰かが生唾を飲んだ音が、静かな室内に妙に響く。


「真っ白な人影が(うずくま)っていたのです」


キャアァーッ


「あっ、ですが。よく目を凝らせば、それは当時、我が家が預かっていた男の子だったのですよ」


いつもの笑顔に戻ったプリンが、にっこりとネタばらしする。


「実は果物は、その男の子が後でこっそり食べようとしていたもので、私が食べているのを見て落ち込んだ彼は、蹲ってしまったというわけです」


「紛らわしいわ、このおぉぉぉっ!!」

「いたっ、痛いよおぉ〜」


すさまじい悲鳴を上げていたモンブランは、事実を知って近くにいたホットを照れ隠しに蹴りつけていた。

涙目のホットは情けない声を上げ…てるけど、日頃の行いが悪いせいで誰も助けはしない。

ブラウニーと魔王は、呆れ顔でそのやり取りを見守っている。


騒ぎにみんなが気を取られてるうちに、無意識に掴んでた魔王の腕を離して、やり取りが終わるのを同じように待つことにした。

頭上からの視線?なんにも、感じませんが、なにか?


「サトちゃんっ!!」


バンッ!


すごい勢いで開いたドアに、騒いでたモンブランとホットも含めてみんなで注目する。

注目されてるオムレットは、いつものハツラツとした彼女とはうって変わって蒼褪めて顔で震えていた。


「落ち着いて、聞いてちょうだい」


尋常じゃない彼女の様子に、一同の間に緊張が走る。


名指しされたおかげで、ここにいる全員からの視線が集まる中、自然と速くなる心臓。

胸元の服を握りつつ、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。


「はい、なんですか?」


「これを、見て」


落ち着いて『聞く』んじゃないのか。

突っ込みは脳内だけでして、オムレットが差し出してきたものを見た。


「さっき、取り出したときに気付いたの…」


オムレットの手にあるものは、白いはず(・・)のクリームチーズだった。

完全に密封出来る容器もなければ、ラップもないから出来る限り使い切ろうと思ってたんだけど、大分残しちゃったんだよね。

せめて残すなら、手で触れないように気を付けて切ったクリームチーズ。

だけど、その切った部分から表面に浮かぶ薄いピンク色はー…。


「かっ、かかかかか、カビだーっ!!!」


イヤアァァァァッ




「サト」


「はい?」


あ〜、叫び疲れて喉乾いた。

溶けかけのアイスクリームを食べていると、魔王が名前を呼んでくる。

口にくわえてたスプーンを離して、隣にいる魔王を見上げれば、感情のうかがい知れない青紫色の瞳が、静かにこちらを見下ろしていた。


「さきほどから、一人でなにを騒いでいる」

「えっ…」


魔王の言葉で、我に返る。


私は

真っ暗な室内に

一人で立っていた。


キャアァーッ



「アイスクリームはっ!?」

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