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知らないとおかしい人らしい

相応しいも相応しくないも、そんなのどうしようもない。

だって、それってただの噂だからっ!


「いえ…それはちょっと」


彼女たちがいってるのは、プリンから聞いた噂『魔王の恋人は魔女』だよね?

いやいや、違うからね。

なにかといわれたら、保護した子ども扱いだから!

…あれ、そのまんま?


もしくは、魔王様のエサ係か?

与えてるのは“エサ”じゃなくて、お菓子だけどね。

関係性を表すとしたら、ブラウニー命名のこれならまだ実害がないかなぁ。

どう答えていいか、言葉を濁すと三人はなぜか怒り出した。


「まあぁっ!わたくし直々に声を掛けたというのに、断るというの!?」

「侍従ごときが、生意気よ!」

「そうよそうよ!」


どうやら彼女らは、言葉を濁したのは断るためだと思ってるみたいだ。


「えっ、ちが」

「どこが違うというのっ!?」


その勘違いからして、違うよ!


「サヴァラン様だけでなく、侍従までも!」

「まあぁっ、なんていやらしい!」

「恥じらいがないのかしらっ!」


ちょっと、待て!どんな想像をしてるんだよ!

顔が赤くなるのを感じるけど、それが怒りからか恥ずかしさからかは自分のことながらも、判断が着かない。

むしろ、『いやらしい』のは勝手に想像する三人の方だよ!

どんな悪女なんだ、“花炎の魔女”は。


屋敷にお世話になってても忙しい魔王とはそんなに一緒にいないし、部屋にお風呂が着いてるから夕食後は会わないし、そのさらにあとは自室を訪ねたりはお互いにしない。

現実はそんな感じなのに、なんで三人の脳内じゃアダルト方面に突き抜けてんだろ?

子ども扱いしか、されてないんだけどなぁ。


しかし怒り狂う三人に、心の中で思ってることなんて聞こえるわけもなく。


「あなたも、恥ずかしくないのっ!魔女にいいようにされて!」

「男なんて汚らわしい!」

「本当よね!」


「えぇ〜?」


勘違いしたまま、三人は怒りも露に詰め寄ってくる。

こわっ、三人の背後に般若が見えた。

思わず後退ると、三人は詰め寄ってきて、さらに後退るとまた詰め寄られる。

それを繰り返すと、背中がついに壁に着いてしまった。

動けないっ!しかし、目の前には恐い目をしたメイドさんたち。

ヒイィィ〜!?


壁際に追い込まれたそんなとき、天からの救いの手が差し伸べられた!


「みなで、なにを話している?」


三人が、バッと振り返る。

その勢いが三人共、一緒でなんだかコントみたいだ。


振り返った先にいた人物を見た三人は、ビクッと肩を振るわせて慌てて身体ごと声の主へと向き直った。


「ミルフィーユ様!」


さっと畏まる三人や相手はもちろん、状況が飲み込めずにいる人間がいることに気付いてない。

えー、誰か説明してよ。

仕方ないから、三人の間からどんな人物が天より遣わされた救世主かと覗き見ることにした。


真珠の付いた銀細工で、美しい形に結い上げたストロベリーレッドの長い髪。

髪が上がっていて露になっている首や、うっすらと化粧が施された顔の色はよく日に焼けている。

一瞬、覗き見ていたこちらを見た瞳は、カスタードイエロー。

意外に女性にしてはしっかりした肩から、その全身を包むのは濃緑色のドレスだ。

それも落ち着いた色合いで、彼女によく似合っているんだけど、どちらかといえばドレスよりもズボンの方が似合いそうだと思う。

ほっそりした輪郭と首筋、キリッとした眉や意思の強そうな瞳を見ていると、某歌劇団の男役を思い浮かべてしまった。

オスカルなんてはまり役っぽいな、軍服とか…って。

不意に軍服じゃなくて、ブラウニーが本日着ていた制服を脳内でミルフィーユとやらに着せてみる。

…うん、どこかで見たことがあるぞ。


「そんなに畏まる必要はないよ。なんだか楽しそうでね。よければ私も、仲間に加えてもらえないかな?」


楽しくはないよー?

だって、構図からいって三人で一人を追い詰めてるようにしか見えないし。

にこやかに笑ってるミルフィーユだけど、本当はわかってるんじゃないの?

さっき、目が合ったときに、笑みの形に目が細められた気がするよ。


そう思いつつ、なりゆきを黙って見守ることにする。

三人もミルフィーユも、誰もしゃべらない。

どことなく、重い空気が場を支配した。


「めっ、滅相もございませんっ!わたし、失礼いたしますわっ!」


メイドさん三号が、空気に堪えかねたように叫び、挨拶もそこそこに戦線を離脱した。


「わわわ私も、ししし失礼いたしますっ!」


メイドさん二号も、それに習うように吃りにつつも退室。

ああ、足がもつれて転びそうになってる。

メイド服って、メイド喫茶の制服みたいにやたらと短いわけじゃなくて、むしろ膝下よりよっぽど長いから余計に走りづらそうだ。


「あなたは…確か?」


最後に残ったのは、メイドさん一号。

人に見られたらマズイ状況を目撃され、自分を持てはやしていた二人に置いていかれた彼女の顔色は悪い。

しかし彼女は、優雅にメイド服のスカート端を持ち上げて一礼してみせた。


「伯爵位を賜っている、カヌレ・ボルドの娘・シャルロットでございます」


メイドさん一号…シャルロットは、堂々と名乗り上げて謎の女の人の合図で顔を上げた。

顔を上げたときには、すでにさっきまでの顔色の悪さはなくなり、胸を張って背筋を伸ばしてる。


「ボルド伯爵令嬢。あなたは、どうされる?」


ぐっと詰まるシャルロット。

彼女としては、まだ話は終わってないんだろうけど、このまま続けるわけにはいかないみたいだ。

唇を噛み締めて、悔しそうな顔を一瞬だけしてからシャルロットはなんとか笑みらしいものを浮かべて相手に答えた。


「まだ話し足りないのですが…。残念ながらわたくし、もう行かなければなりません」


「そうか、それは残念だ」


うん、メイドさんだから仕事があるんだね。

持ち場がどこだか知らないけど、ずいぶんな時間離れてたみたいだし大丈夫かなぁ。


まあ、余計な心配だったみたいで、退室するときに思いっきり睨まれた。

なにも言わなかったけど、心境としては『覚えてなさいっ!』かもしれない。

完全に悪役のセリフだけどね、イメージとしてはそんな感じ。


あっ、そういえば私もこの部屋に用事はないから出ていかないと。

あの三人の態度から、たぶんこの人って偉い人みたいだから挨拶ぐらいしないといけないかな?


「あの…」

「あぁ、すまない。大丈夫だったか?」


あー、やっぱりどんな理由でここにいたのかこの人は気付いてたのか。

ジト目でミルフィーユを見詰めれば、彼女は苦笑を浮かべる。


「あのようにわかりやすい相手に手間取るようなら、叔父上も心配だろうな」


うぅ〜ん、つまりあのくらいは軽くあしらえってこと?

いやいや、あんなに恐いメイドさんたちなんてあしらえないって!


「叔父上が、めずらしく表情も露に探していてな。何事かと思っていたら、ムラング子爵と遭遇してな。共に探していたのだよ」


「はぁ…」


叔父上とムラング子爵が、誰だかさっぱりわからない。

正直、興味はないけどそれで、そんな二人が誰を探してるの?


「なにを他人事のように、ボンヤリしている?自分のことだろう」


「…はい?」


「ほら、行くぞ」


ミルフィーユは再び苦笑しつつ、手首を掴んでドアへと引きずっていく。

話しについて行けずに唖然としていたけど、我に返ってなんとか途中で踏ん張ることに成功。

危ない、このままじゃどっかに連れていかれるとこだった。


「どうした?二人が待っているぞ?」


「その二人が、誰だかわかりません。そもそも、あなたのことも知らないです」


小さい子によく言うじゃん、『知らない人には着いてっちゃダメ』って。

小さい子どもじゃなくて、分別のつく高校生な私がそう簡単に拉致されるわけにはいかない。


そんな決意を胸に、キッと相手を睨み付ければ、ミルフィーユは何故だか彼女は驚いた顔をしてしきりに頷いていた。


「私のことを知らない人間がいるとはなぁ。私もまだまだか」


なんか、シャルロットと同じことを言ってるけど、(ここ)では有名人ばかりと遭遇するのか。

もっとも私は、まったく知らないんだけどね。



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