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焼き加減はウェルダンよりレア派

Q・魔王とその配下が、世界征服の話をしているところに出くわしたらどうする?


A・聞かなかったフリをする。


「ワタシ、何モ聞イテナイヨ」


フッ、女優になれそうな名演技だ。


「君、何してるんだよっ!」


気付かなかったけど、他にも誰かいたらしい。

目を向けると、剣を構えた男の人がこっちを睨んでた。恐っ。


「危ないよぉっ!」


気が抜ける、緊張感のない声と共に身体が後ろに引っ張られて、思わずたたらを踏む。

その直後、抱えていた段ボールがふっ飛ばされた。


「あぁっ!」


下からすごいスピードで、何かが通り過ぎて前髪が風圧で浮く。

その何かが結構重いはずの段ボールを弾き、私の腕から呆気なく飛んで離れたところに転がる。

転がった衝撃で、一番上にあった薄力粉が外に飛び出し、乾燥した空間に粉が舞い上がる。

ヤバいっ、スケールが衝撃で壊れたかもっ!


「前に出ちゃダメです!」


後ろから服を引っ張るのを振りほどき、女の人の叫びを無視して段ボールを取りに走る。


「おさ、やはりこの空間から出るには奴を倒すしかないようです」


遠くから凛とした女の人の冷静な声がする。

『おさ』って、あぁ“長”か。

長=魔王ならつまり、女の人は配下を倒すように進言したってことで…つまり仲間割れ?


乾燥してて保存状態抜群!な、巨大トカゲの親玉ただし骨が、長である魔王にもの申したってことかな?

『もっと領地をよこせ』とか『人間喰わせろ』とか。

でも、領地も何もこの石造りの部屋、窓もドアもないから出られそうもないし、どーいう原理か知らないけど調理に便利そうな火を口から出せても噛んで飲み下したそばから骨の間から出てきそうだよね、食べ物(人間)が。


ていうか、魔王一行はどうやって入って来たんだ。


段ボールを抱え上げ、視界を白く染めて舞い上がる薄力粉を悲しい思いで見詰める。

さすがに、いくらなんでもそんな状態のものは食用には使えない。

拾い上げた袋には、もう隅の方に少ししか粉が残ってないし。


段ボールは、角がヘコんでるけど中身は大丈夫かな?

緩衝材は入ってるけど、すごい衝撃だったからデジタルスケールの安否が心配だ。


確認しようと段ボールを開けて、ハッとする。

そういえば、さっきも車道で同じことをしてトラックに跳ねられたような…。

段ボールを取りに走っても、異常はないけど、どういうこと?

いや、それより先に状況を確認してみないと、また事故るかもしれない。


状況判断を優先し、取り敢えず顔を上げると火が迫って来てた。


お客様は、レアよりもウェルダンがお好みのようですね。

高い位置から私に向けて放たれる炎は、ウェルダンどころかむしろ消し炭にしそうな勢いだ。

仲間を増やす気がないのか、骨まで残らなそう。


「≪障壁≫」


そこからは、全てがスローモーションになったかのようだった。

地底から響くような不吉さ漂う低い声と、胴に腕が巻き付けられるのとどちらが先だったのかはわからない。


「≪展開≫」


巻き付けられた腕は力強くて、細く見えるけど私と段ボールを軽々と片腕で抱えていた。

もう片方の手は前に突き出していて、開いた手のひらは炎に向けられている。


言葉と同時に光輝く壁が出現して、炎はそれに遮られて逸れていく。

阻まれて逸れてるとはいえ、目の前に人間なんて簡単に飲み込みそうな炎が迫るのは、非現実的で恐怖を感じるよりも不思議で仕方ない。


でも抱えられいるから斜め後ろという意外に近い位置にある、恐いくらいに美しい顔もまた、非現実的ではある。

テレビ越しに見る芸能人以上の美形だけど、眉間に深いシワを刻んで重苦しい空気を発する男の人は、もう想像上の魔王という存在に相応しい。

さっき見た、炎を吐いてる骨の親玉と向かい合ってる姿なんて、悪巧みをしてるようにしか見えなかった。


今だってこのまま、イケニエにでもされそうな気分だけど、助けてくれてる。

うん、イケニエを横取りされたくないって理由でもなければ助けてくれてるんだよね?

ゆっくり後退してるのも、そういう理由であって、掴んだままどっかに連れて行かれないよね?


「…っ」


光る壁に守られながら、抱えられて後退する視線の隅に目が行ったのはほんとに偶然だ。


後退することで、私がさっきまで立っていたところに炎が逸れていくのは当たり前。

未だに舞い上がっていたり、床に散っていたりする粉が、炎に晒されることになるのも本来なら想像付くし、ここが普段の台所であれば何の問題もなかった。


家では母から粉を使うとき、換気を必ずするように厳命されている。

だけどその危険性を、本当の意味で理解したことが今までなかった。


「あぶないっ!!」


粉塵(ふんじん)爆発”って、知ってる?

乾燥した密室で、大量の粉が舞っている状態で火花が散ろうものならね。


「ふせてぇぇぇーっ!!」


引火して、爆発するらしいよ。

今、なりそうな感じで。

魔王

①ファンタジーにおいてのラスボス、またはシューベルトの歌曲『魔王』の登場人物。前者は世襲制じゃないせいか、異世界人がなることがある。後者は、坊やを拐ってく病気という解釈があるらしい。

②何かしらに狂ってる人。戦闘狂いのため転生したターゲットをストーカーしたり、仕事狂いのため仕事しない人たちを見て世界を滅ぼしそうだったり。

③人外ばりの美形で、すごい魔力を持つが威圧感バリバリで、いつも眉間にシワ寄せてる魔術師のあだ名。

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