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蜜月で“ミツキ”ですが、何か?

「サトウ ミツゲツさん宛に、荷物が届いてます」


家に“ミツゲツ”なんていないと、意地悪は言わない。

宛名にフリガナがフってあるんだから、きちんと読めとイヤミもいっちゃいけない。

あと、大体この後に言われるセリフにキレてもいけない。


「もしかして、長女?」


宅配の兄ちゃんの軽い世間話程度なんだから、かる〜く答えてみる。


「いえ、次女です」


長女、長男の順で次女の私は3番目で、3月生まれだから“ミツキ”。

ほんとは3が続いてるイコール“ミツヅキ”にする予定だったけど蜜と月で“ツ”が重なってるから1つ消したんだって。

ドヤ顔で言われたけど、だったら漢字を変えてほしかった。

この漢字じゃあ読み方は兎も角、どうしてもハネムーンを連想して大体の人が、『長女?』と聞いてくるのだ。


弟と妹に言わせてみれば、名前の意味を考えているだけマシ、それ以上期待するなとのこと。

私としてみれば、そのまま生まれ月を名前に出来たあんたたちの方が羨ましいんだけどね!


「あー、そうなんだ?代金お願いします」


私の返答に対して反応を返さない兄ちゃんは、別に聞いてみただけでほんとは興味なかったみたいだ。

大袈裟に反応しろとも、気マズイ顔しろともいわないけど、淡白な様子に寂しさを感じるのは私だけ?


提示された代金がやたらと多い気がするが、気にせず支払いをする。

おつりをもらい、荷物を受け取るけど、大きいなコレ。中身が粉物とかチョコとかだから重いのは仕方ないか。


「ありがとースッ」


おいおい、それってお礼?『ありがとうございました』くらい、きちんと言えよ。

小姑みたいに細かいことにキレつつ、兄ちゃんを見送って、台所に向かう。

挨拶とお礼は基本だと思うけど、それって考え方が古いのかなぁ。


両親と私を含めた5人の兄弟を培った台所は、“キッチン”と呼ぶには相応しくないまさに“台所”である。

現代の背が高い日本人には使い勝手がよろしくない低い台に、扉が壊れ掛けな流し下の収納スペース、キャラクターもののシールが貼り付けられた引き出しに、油汚れがこびり着いたガス台と、ときおり変な音がする換気扇、食器洗い機なんてハイカラ(笑)なものなんてないから、流し横には洗った食器が立て掛けられる水切りスペースがある。


システムキッチンって憧れてるけど、我が家では無理だな。

お姉は『結婚して、付けてもらえば?』なんていってたけど、口調がすでにバカにしてた。

口外に『あんたには、無理でしょうけど』って、言ってたよ、あの顔!


取っ組み合いのケンカをしたときを思い出し、ムカムカしながらカッターを用意する。

いやいや、せっかく待ち焦がれてた荷物が届き、うるさい兄弟たちがいないんだから、楽しくやろう。

テスト期間中、禁止されていたお菓子作りがやっと解禁なんだから。


気を取り直して、カッター入刀!グサーッ。


さてさて、中身を確認し…て?


「って、ええぇぇぇーっ?何これ、どーいうこと!?」


段ボールの宛名を確認したけど、住所も私の名前も間違っていない。代金払うときに、暢気にしてないで気付けば良かった!


「あっ、宅配の兄ちゃんに返せば…」


慌てて荷物を持ち上げて、家を飛び出す。そんなに経ってないから、この辺りにいるんじゃないかと思い、いかにもわかりやすい宅配便のトラックを探す。


全力疾走してる足はまだ痛くないけど、注文数が多い荷物のせいで腕が重くなりはじめた。しかも、開けたときにカッターで切ったらしい中の袋から、薄力粉が風を受けて顔に飛ぶ。


ゲフッグホッ


もったいない!顎で段ボールを塞ぎつつ、走り続ける。


一緒に注文したデジタルスケールは、無事だろうか。

前まで使ってたのは、テスト勉強をしない私に対し、怒り狂った母に破壊されてもう使えないのだ。

粉が入って使えないって、そんなことになったら大変だ。たぶん、箱に入って来てるとは思うけど、少し心配だ。


段ボールを抱えて走り、大きな通りに出る。

住宅密集地で配達したトラックは、必ずここを通るのだ。

近道も使ったし、あっちは細い道でスピードが出せないし、配達もあるだろう。


「フッ、勝った」


バカみたいに勝ち誇ってみるけど、さすがに恥ずかしい。

一人、照れ隠しで段ボールの中身を確認する。


一番上の薄力粉の袋は、思ったよりも結構切れてた。

次からは気を付けようと、心に止めつつ片手で集められるだけ集めて、粉を袋に戻しす。


しっかし、すごい量だ。

それぞれ一キロで小分けにされてるけど、同じものが何袋もある。

こっちは各一キロずつしか頼んでないから、通販業者のミスだよね。

破った薄力粉は仕方ないとして、他は送り返せばいいはず。


…返品の方法って、納品書に書いてあったっけ?

やったことないから、読んだことないし、さっきは慌ててたから見てないけど、どこに入ってるかな〜?

重い段ボールを抱え込み、納品書を探す。


「あったぁ〜!」


一番下に入ってた納品書を掲げ、満足気に笑う私の耳に、凄まじいブレーキ音。


「へっ?」


マヌケな声が漏れたときはもう、目の前にトラックが迫って来てた。

必死な様子のトラックの兄ちゃんと目が合い、更にマヌケなことに私は現実逃避する。


思い出していたのは、禁断症状で死んだ目をした私が、友だちにいった言葉だ。


『私、テスト終わったら菓子作るんだ。あと、ケーキ屋のバイトはじめる』


『ははっ、何それ。死亡フラグ?たかがテストなのに、あんたは大袈裟過ぎ〜』


えっとー、まさかほんとの死亡フラグというやつですか?ギャー!!



蜜月【日本語】

①新婚、または親密な関係。前者は古代 ゲルマン人が蜂蜜酒を新婚期間中飲んでいたから。後者は男女という括りはないみたい。

②五人兄弟の三番目、三月生まれ。お菓子大好きな女子高生。バイトはまだ、面接前だからあくまで予定。

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