表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/58

親衛隊と書いて、ファンクラブと読む

ドナドナが聞こえる気がするけど、子牛じゃないよ!


何故か馬にまで逃げられながらも、我が道を往く魔王。

あ〜、馬車まで御者の指示とは違う方に動いてるよ。

馬って利口でしかも臆病な性格をしているらしいから、魔王の機嫌の悪さも敏感に察知しているのかもしれない。

察知してても、逃げられない人間からすればうらやましいでーす。


魔王に引き摺られながら、このまま門を越えるのかと思いきや、制服の人が一人だけこちらに近付いてこようとしてるのが見えた。

よく見ると、制服は他の人と同じだけどその人だけ腕章を着けてる。


「魔術師団長様、お待ちいただけますか」


おー、まともに魔王に意見する人もいるのかっ!

眉間にシワを寄せて、また不機嫌そうな黒いオーラを出してる魔王を前にすごいなーと、関心してたんだけど、近付いてきた男の人の手が震えてるのに気付いて見てないフリをする。

四十代前半くらいの、白髪がちょこちょこ生えてる男の人が年下だろう魔王にビビる姿は憐れだ。

見てないフリは、武士の情けである。


「そっ、その子どもはどどどうされたのですか?」


(ども)り過ぎだ!

聞けなかったフリはするけど、『どどど』なんて派手に言われた後じゃむしろ嫌味のような。

困ってると、その男の人と目が合う。

仕方ない、こういうときは日本人がよくやる曖昧な笑顔で濁しちゃえ。


にこ〜


「…!魔術師団長!こここんないたいけな子どもを、まっまさか実験台にいぃぃぃ〜!?」


あれ、何か対処間違えたかな?

吃りもひどいけど、妄想もひどいわこの人。

たぶん、やるなら魔王じゃなくてヘンタイのホットだろう。


「ままま魔術師団長ともあろう方が、だっ、ダメでぐほっ!」

「はいはいはい、落ち着いて下さいー」


男の人の声に驚く。

吃りつつ冷や汗を浮かべた男の人が一生懸命しゃべってるとこを、ブラウニーが遮った。

にこやかな顔で、握った拳を軽く突き出してすぐに引いただけに見えたけど、それをお腹に食らった方にしては違うらしい。


「ゲフッ、ぶブ、ラ…ニーお前な…!」


咳き込みながら、恨めしそうに男の人はひょうひょうとした態度のブラウニーを見上げる。

身長は若干、ブラウニーの方が高いだけなんだけど、殴られたお腹を押さえるから見上げる形になってるのだ。


「や〜、だって隊長さん、話し聞いてくれなさそうだし?」


「なんだ?その言い方は!親衛隊だからと言って」

「まあまあ、落ち着くのですよ」


へらへら笑うブラウニーに、男の人…隊長?が怒鳴り、それをプリンが取りなそうと二人の間に割って入る。

あれ、前にも似たようなやり取りを見た気がするんだけど、デジャビュ?


「私から説明するので、この場は納めてほしいのです」


邪気のない、にこにこした顔で隊長に向き合うプリンはぐいぐいとブラウニーを押し出す。

ブラウニーに比べればずっと小さい彼女だけどその力は以外に強いらしく、押し出された方はよろめいていた。


「しかし…」

「頼んだ」


「魔術師団長ー!!」


隊長が止めるのも聞かずに、さっさと歩き出す魔王。

腕を掴まれたままだから、強制的に歩かされてるけど、いいのかなぁ?


「大丈夫ですよ。あの子は安全です。身分も魔術師団が保証します」


「そうですか…」


畏縮するでもなく、怒鳴るわけでもなく、プリンの笑顔効果なのか冷静に話す隊長。

よかった、もしプリン以外なら冷静に話すことは出来ないんじゃないかと失礼なことを考えてた。

モンブランに至っては、とっくに門を越えたところで待ってるし。

…本当、いつの間に移動したんだろうね。


魔王はさっさと歩いて行き、他の制服を着た人たちのところへ向かう。

なんかパスポート的なものでも出すかと思いきや、制服の人たちはまだ距離があるにも関わらずに道を開けて通してくれた。

顔パスみたいなものかな。


「あの口の利き方。さすが、団長のご子息は違うな」


「いやいや、親衛隊に配属されたのも自分の実力だと思っているところをみると、うちの隊長と対等だと勘違いされてるのだろう」


魔王の後に続き、ブラウニーが通ったときのことだった。

距離はあったけど、確かに聞こえた言葉は魔王に掛けられたものじゃなかったみたいだ。

わざと聞こえるような音量での言葉は、悪意に満ちている。


立ち止まったのは魔王だけど、この流れからすれば誰に対してのセリフか見当がつく。

黒く不穏なオーラを大量生産する魔王が振り返ろうとすれば、変わらない軽薄そうに見える笑みを浮かべて、ブラウニーが横に並んだ。


「ホラホラ、行きましょうよ。あっちで恐い顔して待ってる人がいますし」


ぜんぜん気にした様子もないブラウニーは、特別怒ってる風には見えないモンブランを指して笑う。

するとちょっと落ち着いたらしい魔王が、振り返らずに進みはじめる。

魔王に引かれるまま歩き出すとき、こっそりと振り返ると、そこにいた制服の人たちはいなくなっていた。

…逃げ出すくらいなら、言わなきゃいいのに。


「…ブラウニーさん」


声を掛ければ、『ん?』と気付いてこっちを見下ろすから、気になったことを口にしようとする。


「親衛隊に入ってるのですか?」

「俺は養子だか…えっ、そっち?」


びっくりされても、こっちはポカーンってするしかないよ。

そもそも『そっち』って、ブラウニーが想像してたのはどっちなんだ。


「入ってるよ。親の七光りで」


自嘲気味な笑みを浮かべるブラウニー。

さっきの制服の人たちの言葉を思い出すけど、事情をよくわからないから触れない。


「へ〜」


「…すごい興味なさそうな反応だなぁ」


苦笑してるけど、だって知りもしない人がしてた話しなんて興味ない。

ここまで来るまで先頭に立った剣を振るってたブラウニーと、その配列にした魔王しか知らないし。

…正確に言えば、剣を振るってるとこは邪魔されて見れなかったけどね!

剣は先頭か殿(しんがり)じゃないと扱いづらそうだからかもしれないけど、信頼はされてるように感じる。

まあ、素人だからわからないけどさ。

とにかく、ブラウニーが言う通り興味は確かにない。


「親衛隊…」


どっちかわからないから、両方で想像してみる。


少女マンガやゲームにありがちな、イケメン生徒会長やらクールメガネな副会長に群がる女子を公認か非公認で守る組織。

またはお揃いのハチマキやはっぴを来てライブ会場に集まり、可愛いアイドルが歌う曲に合わせて踊ったり合いの手を入れる組織。


前者なら、むしろブラウニー自身のが出来てそうな気がする。

彼ならうまく組織内の女子をコントロールして、関係ない人に被害が行かないよう気を付けてくれそうだ。

あれって、見当違いなことで呼び出されるの面倒なんだよねー

姉妹兄弟だっての!!


後者なら、さぞかしキレの良い動きを見せてくれそうだ。

声も良く通りそうだし、見た目も良いから目立ちそうだよな〜

でも、はっぴとハチマキをしてる姿を想像すると…。


「えっ、何、その生温かい目は?今までそんな目で見られたことないんだけどっ!?」


門のところを抜けて、モンブランと合流〜

騒ぐブラウニーに対して、他の二人は無反応だ。


「プリンさんを待つのですか?」


その一言でしばし話し合った二人は、伝言を残して先に行くことにしたらしい。

伝言を頼もうにも、近くに制服の人も他の人もいないからモンブランが戻って誰かに頼んでくれるって。

いっそプリンに直接伝えた方がよさそうなくらい、周囲に誰もいないのが悲しい。


ちなみに、その間もブラウニーに対して無反応だ。

構ってあげてよ、二人ともっ!


「では、また後程」


スラッとしたモンブランの後ろ姿を見送り、魔王たちと進もうとしたのだけど。


「ここにいたのか、ブラウニー。探したぞ」


向こうから来た人が、構ってもらえず不貞腐れたブラウニーに声を掛けてきた。

それはストロベリーレッドの髪をポニーテールにした、キレイなお姉さんだった。


「っ!これは魔術師団長、失礼しました。ブラウニーを連れて行ってもよろしいですか?」


こんなに存在感のある魔王に、今気付いたらしく謝る彼女は鈍いと思ったけど、実はただ単に精神が強いのかもしれない。

謝ってすぐに、面と向かってブラウニーを連れて行く許可を求めるとこがすごい。

さっきの隊長は、吃りまくりだったのに女の人は平然としてる。


「わかった」

「師団長〜!」


すぐに許可を出す魔王を、ブラウニーは情けない声で呼ぶが無表情で礼を述べられるだけだった。


「助かった」


「ちょっ、待ってくだ…痛い痛い!離して下さい!!」

「魔術師団長、感謝します。さぁ、行くぞ」


あー、女の人より背が高いはずのブラウニーは、耳を引っ張られたまま連れて行かれてしまった。

やって来たと思ったら、すぐに立ち去る女の人はさながら、嵐のようだ。

ブラウニー、哀れだけどおとなしくドナドナされてくれ。


それにしても、ホットにはじまり、プリン、モンブラン、ブラウニーがいなくなった現在、魔王と二人だけ。

サスペンスなら、次には全員いなくなりそうな展開だ。

だけど、隣にいるのは魔王であるなら、次の展開は。


「あそこが、我々の塔だ」


完全に門をくぐり出た先で立ち止まったのは魔王は、前方を指しながら説明する。


ねじれた木々が周囲に生え。

不吉な黒い鳥が大量に飛び立ち。

禍々しいオーラを放つ、天に向かってそびえ建つ姿はまさに魔王の住み処に相応しい魔王じょ…。


「えっ?」


目を擦ってもう一度見ても、変わらない。

魔王の住み処に相応しい、魔王城改め魔王塔からそんなに離れていない場所に堂々とした佇まいで建っていたのは、キラキラと太陽の光を受けて輝くヨーロッパ風の城だった。

ネズミの国にあるのより大きいそれは、王様が暮らすに相応しいもので、だけど魔王の指は魔王塔に向けられている。


「…王様じゃないんだ」


「……」


そんな目で見られても、どう見ても魔“王”にしか見えないんだから仕方ないじゃん。

『王じゃない』って言われても信じられなかっただけなのに〜

上から冷たい目で睨まれて、すごく気まずい気分を味わうはめになった。

味わうなら、角砂糖以外の甘いものが良いです。



ファンクラブに入ってる方々、すみませんでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ