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ファンタジー界は薬いらず!

オーブン談議が落ち着き、昨日に引き続き、みんなに着いてくことになりました。

今度は森の中?を突き進むことになったメンバーは、新たに召喚獣のキャラメルを加えることとなったー…なんて、ちょっとナレーション風に言ってみる。


ぜー、ぜー


舗装されてない道はデコボコしてるし、木が不規則に生えてるから避けなきゃいけないし、苔が生えてるとこは滑るから注意が必要だし、フツーに歩くのと違って疲れる。


ぜぃ、ぜぃ


前には昨日と同じくブラウニー、モンブラン、プリンが慣れた動きでキビキビと歩いている。

背後には魔王。

前の人から離れるわけにもいかないし、離れれば後ろがつっかえるからやっぱり気を張って気疲れしてしまう。

しかも背後は魔王だし、オーラが重くないだけマシだけど緊張するのも仕方ないよ、こっちは小心者の一般人なんだから。


ぜひーぜひー


とは言え、小鳥のさえずりを聞きながら森の中を歩くなんて、平和だな〜


ぜっ…げふげふっ!


「みんな、いい加減気付いてあげてっ!!」


咳き込むホットに、思わず駆け寄る。

魔王の後ろにいたホットが遅れはじめたのは、結構前からだった。

なんか気になるものでも見付けたのかと思って呆れてたら、どうも様子が変。

よくよく見れば、下を向いて何かを見ているわけじゃなくて、ぐったりと項垂れているんだって気付いた。

あと、 濁音付きの呼吸が彼の辛さを物語っている。

どうやら、早々に歩き疲れたらしい。


そのことに最後尾のキャラメル以外は気付いていないらしく、キャラメルもグリフォンだから伝えることも出来ずに心配そうにホットを見ている。

他のメンバーに至っては、後ろを振り返りもしない。


「ホット…お前な」


「まあまあ、落ち着くのですよ」


呆れ顔のモンブランに、彼女を落ち着かせようとするプリン。

プリンはそうでもないけど、モンブランは汗だくで、その美しい顔には疲労が見える。

彼女もまた、態度や言葉では出さないけど疲れてるみたいだ。


「またかよ。女の子たちは平気なのに、なんでお前はそうなんだ?」


先頭のブラウニーの態度から、もしかしたら昨日だけじゃなくて、行きもこんな感じだったのかもしれないと思った。


それとは関係ないけど、ホットは『お前』呼びしてるんだ?

プリンとモンブランと同じように仲良しなのか、それとも男だからなのか…。

いや、後者の“仲良し”ということでいっか、男だと思われてた私は『君』だったし。


「しか…た、げほっ」


まだ『ぜー、ぜー』言ってるホットは、たぶん『仕方ないよぉ』とでも主張したいんだろう。


だけどなぁ、ブラウニーが言ったように辛そうでも態度に出さないモンブランも、汗を拭ってるプリンも歩みはさっきまで止めることはなかった。

昨日も思ったけど、ホットは体力がなさ過ぎじゃないかな。

見るからに鍛えてるブラウニーと比べるのは酷だろうけど、魔王も涼しげな顔をしているし。


…涼しげな顔して、汗一つかいてないけど、まさか地面から足が浮いてるってこと、よね。

まさかと思って足元を見るけど、ずるずるした服のせいでわからない。

昨日はじめて会ってからずっと、実は浮いてたとかないよね?


魔王に対する疑惑が脳内で浮上する中、プリンから水をもらってホットは一息吐いた。

ここで休憩を取ることにしたらしく、周囲を警戒するブラウニーと魔王、テキパキ準備するモンブランとで、みんな忙しく動いてる。

もちろん黙って見てないで、手伝いますよー。


「ここでどうこう出来る問題ではありませんが、戻ったら考えた方がいいでしょう」


「そうだな」


「えぇー…」


モンブランと魔王の会話に、不満そうなホットの声が混ざるけど二人共完全にスルー。

プリンももう取りなす気がないのか、苦笑しながら聞いている。


「魔術師って、こう言っちゃなんですが魔術に頼りっきりで体力がないのが多いですね。師団長はともかく、せめてこのチビッ子ぐらいはあった方がいいんじゃないっすか?」


おい、何故最低ラインに勝手に設定するんだ。

不意打ち食らって、びっくりして貴重な水を溢すとこだったよ。

溢れたら、ブラウニーのマグカップと交換だからね。


「確かに調査の行き帰りだけで、体力が尽きるようでは大変ですよ」


調査っていうと、ピラミッドとか遺跡を思い浮かべちゃうな。

ああいうのって、歴史的にも大事だから気を使うし、何が出て来るかわからない分、注意が必要で神経をすり減らしそうなイメージがある。

ピラミッドは更に、すごい暑い地域での調査だから余計に大変そうだ。


そんな調査を、みんなはしてたってこと?

骨との密談、決裂後から今までしか知らないからどんなことを調査していたのかはわからないけど。


「そうだが、サトを基準には出来ない」


おー、一刀両断だ。

あっさりした物言いは、優柔不断な人間にとってうらやましく感じるけど、説明がないから判断に困りそうだ。

実際、意味がわからないらしくてみんな、困惑気味だし。


「あの〜、それは何故ですか?」


別に、基準にしてほしいわけじゃないけど、自分の名前が出たからには無視は出来ない気がして突っ込んでみたらなんてことない。


「そこまで、体力を求めるつもりはない」


それって、どういう意味!?

いやいや、本人がわかってないのにみんなで納得しないで!頷かないで!

人のこと体力が有り余ってるみたいに言うけど、こっちだって疲れてはいるからね。

ただホットやモンブランに比べれば、まだマシってだけの体力だから!


「では、プリンぐらいか?」


「私、これでも鍛えてはいるのですが…」


苦笑してるプリンには悪いけど、特別鍛えてるわけじゃないんだよ。

ちょっと姉妹兄弟の関係で、いろんな方々から謂われない攻撃を受けるから回避する内にこうなっただけだから。

と、言うよりも、こんな話こそ今することじゃなくないか?

帰ってから、ゆっくり話し合って下さい。


「キャラメル、ホットを運べ」


結局、体力がすぐに増えるわけじゃないから今回に限り、グリフォン宅急便の利用となりました。

いいなー。

しかしタクシーじゃなくて、荷物扱いがまた、ホットのビミョーな立場を物語っていて笑える。


立派なクチバシでホットの襟首を器用にくわえ、自分の背中に乗せたキャラメルは重さなんて感じないように走り出した。

逞しい四本足が大地を踏み締め、そして勢い良く蹴り出す。

デコボコ道も、キャラメルは意に介さずに徐々にスピードを上げつつ、小回りで木々の間をすり抜ける。

スピードが上がって来たせいか、空気抵抗が掛かってるらしく上にいるホットはのけ反っていたけど、しっかりその両手はキャラメルの羽根を掴んでいるからか、誰も気にしない。


「のわあぁぁぁ〜〜!!」


…クルミ?

間延びした悲鳴が森の中に響き渡り、やがて消えていった。

遠くの方で力強い羽ばたきが聞こえ、しばらくしてから木々の間から空を翔る姿が一瞬だけ横切るのを最後に、あっという間に見えなくなる。

ほんの瞬間、乗ってる人の影が見えたとき、グッタリしているようだったけど、落ちないよね?

グリフォン宅配便、ちょっと運ぶモノの品質管理が気になります。

“ナマモノ”と“ワレモノ”ステッカーの貼り付けを推奨したいとこだ。

もう、晴れ渡った空には姿形も見えないけど。


みんなでキャラメルとホットを見送った後、しばしの休憩を挟んでまた歩きはじめた一行は、昨日とやっぱり同じく前方での戦闘をプリンに遮られ、後方での魔王の独壇場も目隠しをされて遮られ、まったく目撃することも叶わずに森を抜けることになった。


あれ、RPGの醍醐味はどこいった?

強いて上げるなら、森を出た後に魔王による魔術でのワープがそれっぽかったくらいだ。


みなさん、ワープですよ。

一瞬にして目的地に移動する、お寝坊の学生にうれしい魔術です。


「≪転移≫・≪展開≫」


魔王の多少穏やかに聞こえる低い声が、呪文を唱えるのと同時に浮遊感。

ジェットコースターの下るときみたいにお腹の中がふわっと浮く不快感と、背筋がぞわっとする感覚が一気に襲い掛かって来る。

それから急に、空気抵抗がのし掛かって来てやっと、自分の足が地面に着いているのだと気が付いた。

首を巡らせると、風景も木とデコボコ道しかなかったところから人通りの多いキレイに整備された道に変わっている。

それを見た第一声が、ちなみにこれ。


「気持ち、悪いぃ」


うえっぷ。

仕方ないじゃない、三半規管が弱いんだから!

そう思いながら、へろへろとふらついてたら魔王が肩を掴んで身体を支えてくれた。

うー…、お礼をいったつもりだったけど、気持ち悪くてろくに口が動かない。

モゴモゴ言ってたら、眉をひそめた彼がプリンを呼んで法術を使ってもらいました。

『うえーっ』となってる横で、暢気に歌を歌われるのは若干、腹が立たないわけじゃないけど、プリンは結構真剣(マジ)だ。

ゆっくり上下に背中を撫でる手は優しくて…悲しいかな、余計に胃から何かがせり上がって来る。

だけど魔王に支えられつつ、プリンに撫でられてしばらくすると、自然治癒にしては早い速度で気分が回復してきた。

すごい、酔い止めいらずだっ!!

酔い止めって、先に飲んでからじゃないと効かないから、飲み忘れると最悪なんだよね。

でもこれなら、楽だよな〜さすが、ファンタジー!!


ニヨニヨとご機嫌になりながら変な方向でファンタジーさを感じながらつい、気分まで浮上して『喉元過ぎればなんとやら』ということわざを思い出すような発言を繰り出してしまった。


「最初から歩いて移動しないで、この魔術を使えばよかったのに」


もしくは、『パンがないなら、ブリオッシュを食べればいいじゃない』だ。

思わず呟いたら、周囲が静まり返ったのは調子に乗った私のせ…い、じゃないよね?ねぇ?



ブリオッシュ

①卵、砂糖、牛乳、バターを大量に使う、フランスのパン。パウンドケーキとの中間にあり、クグロフ、ババ、サヴァランの生地にも使われてる。マリーアントワネットのセリフが有名だけど、捏造らしい。

②サントノーレ国の歴史に名を残す人。テストに出るよ!王城に絵が飾られてるけど、誰かに似ている。


ノワ

①クルミをフランス語に訳すとnoix。

②ホットケーキの悲鳴。『のわあぁぁぁ~~~っ!!』

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