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自己紹介をはじめましょうか

やっぱり、魔女に関しては保留になりましたよ、えぇ。


魔王は魔王だけあって、国内どころか国外でも最強らしい。

それを越す魔力の持ち主は、こんなところで早々に決めかねるため、彼らに着いて行かなきゃいけないそうだ。


…説明して、納得してくれたはずなのに、何故未だに魔王より強いという認識になってんだろう。

魔王とフツーの女子高生を同列にしないで下さいっ!


とまあ、内心は言いたいこともあったけど、臆病者の私は何も反論しないで頷きましたよ。

ブラウニー(仮)、何か言いたいなら聞くけど。

視線を逸らしてももう遅いから、後で必ずシメる。


「でも、やっぱり呼び名がないのは不便ですね。普通に、普段の呼び名なら師団長も使ってるから良いのではないですか?」


プリンが聞いたのは、モンブラン(仮)だ。

魔王はすでに、たぶんフルネームを名乗ってくれたし、プリンとも自己紹介済み。

さっきプリンが呼んでた名前を口にして、あの反応だったからちょっと不安だったけど説得してくれるみたいだ。


「お前は少し、不用心過ぎる。例え呼び名だろうと、それをきっかけに本来の名を知られるかもしれない」


あの〜本人を前に、堂々と『信用出来ない』って言うのは正直、悲しいのでやめてほしいのですが。

いや、被害妄想かな。


「そんなこと、有り得ないです!なんのために、略して呼んでいるんですかっ!!」


「名を調べる魔術が、あるかもしれない!」


「だったら、略す意味がないじゃないですかっ!それに、そんな魔術があるなら、師団長が知らないなんてことないです!!」


「新しく編み出されたかもしれないだろっ!!」


「それはただの可能性ですっ!!」


すごい勢いで、二人は言い争う。

…あれか、『私のために争わないで!』とでも、言った方がいい?

脱力して、勢いが殺がれるかもしれないよ。

ただ火に油を注ぐが如く、余計に怒鳴られるかもしれないけど。


それにしても、誰か二人を止めないの?

いっそのこと、名前が出てる魔王が止めればいいんじゃないかな。

そんな思いを込めて見詰めると、魔王は深く溜め息を吐いて首を横に振る。

ほっとけってこと?


放置されていることに気付いていない二人を、魔王同様にほっとくのもどうかと思って見ていると、ヘンタイが近くに寄って来た。

何をしでかすかと思って警戒するのも、さっきからの奴の行動を思い浮かべれば仕方ないよね。

本人は、こっちのぴりぴりした緊張感にはまったく気付いていないみたいで、口調と同じく暢気に笑ってるけど。


「僕はぁ、ホットケーキだよぉ。ホットってぇ、呼んでねぇ?」

「ホットっ!!」


あぁ、ヘンタイの名前はホットケーキだったんだ。


確かに、キレイに焼けたホットケーキみたいなきつね色の髪をしてる。

肩甲骨の下に、届くか届かないかくらいの長さの髪を無造作に一つにくくり、生焼けのホットケーキみたいな肌の色をした彼は、いかにも文系な姿形をしていた。

ただ、目だけはつり上がっていっていて、ちょっとキリッとしてる。

口調で台無しだけど。

瞳はホットケーキに付き物のメイプルシロップではなく、ハチミツ色だ。

メイプルシロップは高いから、うちではもっぱらハチミツ使用だ。

料理にも使えるし。


「お前も何をしているっ!」


「何ってぇ、自己紹介?」


怒鳴るモンブラン(仮)と、そんなものどこ吹く風なホット。

首を傾げるホットだけど、成人男性がやって良い仕草じゃない。

可愛くないどころか、少しイラッとくるらしく、モンブラン(仮)はシワが出来た眉間を揉みほぐしていた。


「だってぇ、ブランは長様が名前を呼んでたからぁ、僕もきちんと名乗ろうかと思ってぇ」


「あっ」


モンブラン(仮)と同じように、思わず呆気に取られる。

そうだ、どこで仮定とはいえ相手の名前を知ったかって忘れていた。

情報源は、魔王だ。

確か、明かりを頼むときに『モンブラン』って呼んでたよ。

美味しそうな聞き違いかと思って、ずっと(仮)って付けてたけどあれは本名だったってことかな?

あれ、でも魔術師は略して呼ぶんじゃなかったっけ?


「操られたり、身体がパーンってなったりしません?」

「そんなこと、長はしない!」


即答だ。

すごい信頼だな〜と思って、件の魔王を見たら、視線を逸らされた挙げ句に溜め息を吐かれた。

何故かと思ったら、すぐに判明。


「あの子がそんな真似するはずがないっ!私はずっと、見守って来たんだっ!!」


『あの子』〜!?

勘違いじゃなければ、まるでよく知った年下の子に対する口調だ。

話の流れから誰を指してるかわかるけど、魔王が自分より若い相手に“子”扱いされてるのはなんだか変。

しかも『見守って来た』って、両親とか姉とかの立場の物言いだと思うんだけど。


「ブランはぁ、まだ長様が小さかった頃から世話をしてたらしいからねぇ。母親代わりみたいなものだよぉ」


若いのに、妹でもなく姉ですらなく、母代わり。

その扱いはひどくないかと思ったら、彼女はエルフだと思い出した。

エルフって、すごい長生きなんだよね?

見た目は二十歳そこらの美女だけど、まさかの超年上!?

だったらもしかして、母親どころかおば…ゲフンゲフン。

イエイエ、ナンデモナイヨ?


え〜と、魔王の小さい頃がまず、想像が出来ないんだよね。

生まれたときから、すでに今の状態だったって言われても信じられるよ!

世話を焼く超年上なのに外見は二十歳の美女と、生まれてそんなに経ってないのに眉間にすごいシワを寄せた不機嫌な魔王。

…シュールだ。


「名の件はすまなかった。以後は気を付ける」


おかーさんに素直に謝る息子…ではなく、部下にきちんと謝罪する上司。

うん、謝らない上司がいるって話しは家で母や姉の愚痴で聞いたことあるけど、魔王は自分の非はきちんと認めるみたいだ。

それって、結構重要みたいだよ。

逆に部下のせいにして、責任逃れする最悪な上司がいるらしく、姉が邪悪な笑みを浮かべて『反省してもらった』と言ってたっけ。

うん、何をしでかしたかは聞いてない、恐いから。


我が家の凶暴な姉の話しはさておき、魔王を見れば彼はどこか遠い目をしていた。

背中に重っ苦しい圧ではなく、代わりに哀愁が漂ってるけど、そんなにイヤなら子ども扱いやめてもらいなよ。

一応は、上下関係だろうし、周囲も反応に困るだろうに。


「俺はブラウニー。そのまま、名前呼びしてくれて大丈夫だ」


周囲も困る…って、そんなことないのか、嬉々として名乗られた。

魔王から発せられる空気読めないの?勇者なの?

そんなこちらの気持ちに、ブラウニーは気付かないままニコニコしている。

まさか、いつものことで気にならないのかと、恐ろしい考えに至りそうで頭を振って考えを消した。

気になること言ってたし、そっちに集中しよう、うん。


「プリンさんみたいに、略して呼ばなくてもいいんですか?」


もしくは、すでに“ブラウニー”ってのが略してある状態なのかもしれないけど。


「ああ、大丈夫。俺、魔力まったくないし」


へぇ〜、そうなんだ。

外見じゃ、体格の違いだけでホットとは対して変わらないから、魔力がないってことはわからない。

そんなことを考えていたのが顔に出てたのか、ブラウニーはすぐに気付いて何故か手招きする。


「何でしょうか?」


「うん、魔力がないって証拠があるから見せようかと」


どんな証拠だろう。

首を傾げつつ近寄れば、“もっともっと”と手招きされる。

どこまで近付けばいいんだと思ってたら、ブラウニーの真ん前に立つことになった。

ちょうどブラウニーの長い腕が、余裕で私の肩に届く距離。

…ん?何で肩を掴む必要がある?しかも顔が近い近い、近すぎるから〜!?


「ひやあぁぁ〜!?」


ゴンッ!


痛そうな音がした。


「おっ前はあぁぁっ、女と見れば不埒な真似をしてえぇぇっ!!」


『そこになおれっ!』と怒鳴り、さっきまでクルミを煎るのに使ってた鍋を振り回すのは魔王のおかーさまです。

情けない悲鳴を上げるしかなかったこちらの代わりに、鍋で殴ったり振り回したりして遠避けてくれた!

ちなみに、痛そうな音は鍋がブラウニーの頭に直撃した音です。


だけど色白な顔を、怒りで真っ赤にしたモンブランに追い掛けられる方はしかし、まったく堪えていない。


「えー?いいじゃんか、ちょっと触るくらい。唇で」


最後は余計だあぁぁぁっ!!

チャラい、チャラ過ぎるよブラウニー。


「大丈夫か?」


大丈夫です、心配してもらってすみません。

魔王の問いに頷くとそのまま引っ張られて、さらに追い掛け回されてるブラウニーから距離を取らされた。

どうせブラウニーの言ったことは冗談だと思うけど、離れることに不満はないからされるがままになっとく。


「ブラウニーが言ったのは、嘘だったんですか?」


嘘というか、罠?

すると、首を振りつつ説明してくれた。


「いや、証拠は確かにある。魔力がない者は、瞳の色がところどころ抜けている」


それって、眼病ってことはない?

魔王の説明だと、なんかすごい恐い状態みたいに聞こえるけど、害はないらしい。

例えば黒い瞳だったら夜空に浮かぶ星みたいに、細かな白い点々が瞳にあるそうだ。

その点々は細かいもので、遠目で見ればまったく気付かないくらい小さいんだって。


説明を聞くと、ブラウニーは親切心で見せてくれようとしたんだと思い至った。

近付かなきゃ見えないなら、あの距離はしょうがないか。

悲鳴なんて上げて情けないと落ち込めば、魔王はまた首を振る。

しかし、ただ無言でテレパシーを送ってくるだけで、どんどん眉間のシワを深くする一方だ。

不機嫌になられても、読心術なんて習得してません。

あっ、溜め息吐かれた。


「あはは〜、ブラウニーはヘンタイだからぁ、危険だよぉ?」


ヘンタイなのも、危険なのもお前だろうホット。

って、魔王はなんでヘンタイの言葉を肯定するの!?


「叩かれて、少しは女性に対してまともな態度になればいいのですよ」


オロオロしてると聞こえて来たのは、聞き逃しそうなほどに小さな呟き。

発信源のプリン、その瞬間の笑顔が若干黒かったです、ひ〜…



ホットケーキ

①パンケーキの一種。小麦粉、卵、牛乳、砂糖、バター、ベーキングパウダーを軽く混ぜ、フライパンで両面を焼く。焼き立てがおいしい。

②登場人物。瞳はハチミツ色。きつね色の髪を無造作に一つにくくっている、男性の魔術師。ヘンタイ。

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