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『くえっ』と鳴くのはキョ○ちゃんだけじゃない

「うぎゃああぁぁっ、食べられたくないぃぃっ!!」

「くえぇぇ、くえぇぇー!!」


『喰え喰え』って、恐いよこの鷲!


「キャラメル」

「いやー、いやあぁぁぁっ!!」

「くえぇぇー!くぇっ、くぇぇぇー!!」


「キャラメル」


どうすればいい?どうすれば、この怪獣から逃げられるの!?

ひっひとまず、冷静にならないとっ。


「キャラメルとサト、落ち着け」


低い低い声は、決して大きいわけじゃないのにパニクる耳によく届いた。


「くえっ!」

「はいっ!」


ぴしっ

背筋を伸ばして、直立体勢になる。

強制力のある魔王の言葉は、まるで魔術でも使ったかのように、怪獣の前にいるという恐怖を超えて持ち主の意思を無視して身体に命令を下す。

『落ち着け』たった一言なのに、直立体勢をとった後は暴れていた心臓が徐々に落ち着いてきて、しばらくしたらパニックも治まった。


「大丈夫ですか?」


心配そうな顔をした、プリンが横に来て背中を優しく擦ってくれる。

あぁ、パニクって忘れてたけど、みんな一緒にいたんだ。

見渡せば、全員ここに変わらず座ってる。

うん…、座ってる?


「あ…れ、逃げないのですか?」


魔王がまだ座ってるから、みんなが逃げられないってわけじゃないよね?

だってみんな、平然としてるし。

って、ヘンタイはいつの間にクルミを取っていったんだっ!

ブラウニー(仮)も、横から手を出して口に運ぶなっ!

『あっ、美味い』って言ってもダメなんだからね、ありがとうございます!!


「あぁ、師団長のキャラメルちゃんは見た目は恐いですからね。でも、優しい仔だから大丈夫です」


キャラメル?

首を傾げてると、プリンはさっきの鷲の怪獣を指す。

鷲の怪獣は、『くるる』と小さく鳴きながらこちらの真似をして首を傾げた。


「…キャラメル?」


「はい、キャラメルちゃんです」

「くえー!!」


プリンの肯定とほぼ同時に、鷲が返事をした。

えーと、つまり、『キャラメル』って言うのは食べ物じゃなくてこの鷲の名前ってことでオッケー?

いやまあ、毛並みがキャラメルっぽいけどさ。

いかにも猛禽類ですって感じの、鋭い目をした彼(彼女?)の名前にしてはやたらと可愛い気がする。

『師団長の』ってことは、魔王のペットということで、つまりその可愛らしい名前も魔王が付けたってことで…どんな顔をして名付けたのかちょっと見てみたかったな〜


「ショウカンジュウのキャラメルはねぇ、長様自ら育てたグリフォンなんだよぉ。それとぉ、“キャラメル”って言う名前の候補はぁ、僕が出したんだぁ」


ヘンタイにしては、まともな名前候補だと思ったら、一般的なペットの名前らしい。

つまり、白い犬にシロ、黒い猫にクロっていうのと同じだそうだ。

グリフォンはキャラメル?一般家庭で、ごくフツーに飼われてる生き物なのかなぁ?


ちなみに、グリフォンというのは鷲の翼と上半身、ライオンの下半身を持つ生き物なんだって。

鳥の王と百獣の王を合わせた姿のグリフォンは、海外の王家の紋章にも使われてる伝説上の生物だけどまさか、本物を見ることになるとは思わなかった。

というより、パニックになってて気付かなかっただけで、冷静に考えればこんなでかい鷲がいることに驚くべきだった。


「それで、ショウカンジュウのキャラメルちゃんは何故にここにいるのですか?」


普通に喰われると思ったわっ!!

外に繋いでいたのかもしれないけど、一言の説明もなしに突然連れてこないでほしかったよ。


「元々夜行性だし、強いから野生の動物や他のモンスターも近付かないからってことで、夜休むときの見張りとして、師団長にショウカンしてもらったんだ」


鳥だから、鳥目じゃないの?

そこだけ都合良く、ライオンの目ってなんだか腑に落ちないけど、そんなものらしい。

“ファンタジー”の一言で済んでしまうこの状況が、ちょっと楽でちょっと恐い。


ところで、ショウカンって召喚のことでいいのかな。

裁判で証人を呼ぶときも召喚って言うらしいけど、この場合は別の場所にいる生き物を呼び寄せるものだろう。

召喚した獣で、“召喚獣”?

さっきの魔術と言い、魔術師はいろんなことが出来るんだね。


「では、キャラメルちゃん自体は安全なんですね」


飼い主である魔王に聞けば、重々しくも頷いた。

“重々しい”ってのは、威圧感からそう思っただけで、本人としては普通に頷いただけかもしれない。

でも、誰よりも信用出来るから、ひとまずはキャラメルに対する不安は消えた。

取り敢えず、はじめましての挨拶として、煎ってないクルミを進呈してみる。

鷲に与えていいかわからないけど、カラメリゼしてないクルミなら大丈夫かと判断した。

手に乗せて差し出してみれば、手なんてあっさりと食い千切りそうな大きなクチバシを器用に使い、キャラメルは美味しそうにクルミだけを食べていく。


「よろしくね」


「くえっ!」


こっちの言ってる意味がわかるらしく、タイミングとしては返事をしているみたいだ。

うん、確かにプリンの言うように優しい仔なのかもしれない。

クルミがなくなった手の下に頭を入れ、ぐりぐりと頭を押し付けてくる。

その手はちょっと汚いから、反対の手で撫でてみた。

羽根の向きに沿って撫でると、気持ち良さそうに目を細めて『くるる』と鳴く姿は見た目と違って可愛い。


「あっ、そういえば。先程、呼んだのは私のことですよね?」


キャラメルに癒されて忘れ掛けてたけど、さっき呼ばれた気がするんだよね。

威圧感からとっさに返事をしたけど、そのとき聞き慣れない呼ばれ方をした。


「あぁ、呼んだ」


簡潔な答えにガクッとなったが、“言外の空気を読む”っていうのは日本人特有のものだと気付き、自分の説明が足りなかったと諦めた。


「私のこと、なんと呼びました?」


不思議そうな顔をしていた魔王だったけど、彼もまた説明が足りないのに気付いてらしい。

彼にしては、長くしゃべってくれた。


「ブランが説明した理由で、“サト”と名を短くして呼んだ」


魔力が強い人が本名を呼ぶと、相手がパーンってスプラッターなことになるって話ね。

あぁ、だから略して“サト”にって…違うからっ!


やっぱり、気のせいじゃなくて呼ばれ慣れないのは当然だ。

だって、略されてるのは苗字の“佐藤”。

違和感があるのも、当然だよ。


普通通りに苗字から名乗ったせいで、佐藤が名前だと思われたみたいだ。

魔王が『サヴァラン・なんたらかんたら』って名乗ってたんだからそれに合わせるべきだったと反省した後、ハタと気付く。


訂正するなら、早い内がいい。

だけど、改めて名乗るとしたらまた副音声が聞こえるかもしれないよね?

“佐藤”ですら、変な副音声が入ってたのに、それが“蜜月”だったら…。

バカにはされないとは思うけど、いつものあのやり取りをするんだったら面倒くさい!

短いやり取りかもしれないけど、今までずっとこの名前と付き合って来た私にとっては一度や二度だけの話じゃない。

そりゃあ、聞き流せればすむけどさ、イヤなものはイヤだ。


と、いうわけで。


「そうでしたか〜」


へらへら笑って肯定しとこ。

うん、パーンってならないし、自分が呼ばれてるってわかればいいし、第一面倒じゃないからいいじゃんか!

突っ込む人もいないし、今後の呼び名は“サト”ってことで!


そうだ、呼び名が決定したならこれも聞いとかないと。


「魔女って、すぐに判断は出来ませんか?みなさんに、名前を伺いたいのですが」


フルネームを名乗れないのは仕方ないし、死活問題だから納得はしてる。

だけどさっきっから、(仮)(仮)ってうっとうしい。

せめて呼び名だけでも、聞いときたいんだよね。


まあ、そもそもの原因は魔女だと思われてることだから、その問題が片付けばいいんだけどさ。

金属探知機みたいのとか、魔力があれば針が振れるとか、なんかないのかね?

一番わかりやすい名前のだって、ホントかどうかわからないじゃん。

たまたまバグって、フツーの人間にも同じように副音声が聞こえたとかない?


はっきり言って、自分が“魔女”なんて思えない。

平々凡々な女子高生に、そんな力が与えられたところで、なんの役に立つと言うんだ。

魔王なんて倒せなそうだぞ、見るからに。

“秘めたる力が〜”なんて、都合が良い展開も望んでません。

望んでるのは、お菓子を作ることだけだっ!


魔女認定された原因の、粉塵爆発とその予測は実際見たことはないけど、知識で知ってたときちんと説明する。

口を挟もうとしたヘンタイは、奪い返したクルミを口の中に放り込んで事なきを得た。

これって、わんこそばならぬわんこクルミ?

カラメリゼしたものがなくなって、生のやつを入れたら真っ青な顔して吐き出してそのまま黙った。

食べたことあるけど、美味しくないんだよね。

ごめん、お腹壊したら薬飲んで下さい。


「あんな現象が起こることを、子どもに知識として広めるなんてすごい伝達力だな」


ブラウニー(仮)が、しきりに感心してる。

最初は、なんだかすごく良い教育環境にいる、コウキな身分だと思われてた。

いやいや、ごくフツーの高校に通う、“コウキ”なんて思わずカタコトになっちゃうくらい平凡な学生だと、しっかり訂正しとく。


すると、『伝達力がすごい』ということになった。

伝達力か〜、それはテレビやネットのおかげだと思う。

実際に、粉塵爆発を見たことがある学生っていたとしてもごく少数だ。

だけど事故が起こったときに、メディアが取り上げた情報を見れば、体験してなくても知識は得られる。

小学生の妹がいるわが家では、パソコンはネットに繋いでないし、ケータイは自分で買えないから持ってないから、どのくらいの影響力と伝達速度があるかわからない。

まあ、いいか。


えっ、テレビやネットってどんなものか?

うーん、うまく説明出来ないけど、ほしい情報を選ぶと電波に乗って手元に届くとしか。

電波?一介の女子高生に聞かないで…睨まないで下さいよ、電波はある一定の電磁波のこと…えー電気?自然にあるものなら雷が近いかもしれないです、はい。


魔王が言葉少なげに色々聞いてきたけど、まったく答えられなかった。

専門家じゃないから、勘弁してよ。

眉間にシワ寄せても、ない知識はどんな顔をされても出てきません。


それより、話しは逸れたけど魔女じゃないって納得してくれましたか?



キャラメル

①ソフトキャンディの一種。砂糖、水飴、牛乳、生クリーム、バターなどを練り合わせたもの。現在のキャラメルは、大正3年に森永太一郎さんが作ったものが起源らしいよ。

②登場動物。種族はグリフォンで、サヴァランの召喚獣。賢い良い仔。

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