とりとそらとぜつぼうとまほう。
主人公の名前はムルギペルです。
作者もたまに忘れてしまう名前です。
僕は10才になりました。
畑では収穫の真っ最中!毎日家族総出で刈入れを行なって…いたんデスヨ?
さっきまで。
え~。
突然だけど、僕は今、空を飛んでます。
いや、決して比喩とかじゃなくて。
どうやら馬鹿でかい鳥に捕まったみたい。
みたい、と言うのは、まだ現実味が無いから。落ち着いてるように感じるのは混乱が限界値をとっくに振り切ってるから。
掴まれてるお腹はとっても苦しいんだけど。
鳥なの?本当に?飛行機?この世界にはそんなの無い。
少なくとも僕は見てない!
ユーキャンフラーィ。のー!アイキャンノットフラーいぃ!!!
じたばたじたばたジタバタジタバタはぁはぁ。
なんでこうなった?
え~っと、
確か。
親父や兄貴と、ちょっと離れたところで刈り取った麦を束ねてたんだよね。
「ムルキペル!」
兄貴が大声で僕を呼んだんだ。
で、しゃがんだまま呼ばれた方に顔を向けたら突風が吹いて、視界が一瞬真っ暗になると同時に『ガシッ』とお腹を挟まれる感触。
…までは覚えていたんだけど。
こ、こうなった時は、ぱ、パニックになっちゃ駄目だ。なっちゃだめだ、
う、うん。まずは落ち着こう。
スー、ハー、すー、はー。すっすっ、はー、すっすっ、はー。
で。理解したのは。
この世界は平和な所なんじゃなく、理不尽な世界なんだってこと。
ある意味元の世界より理不尽。
まぁ、前の世界での死んだ理由も理不尽だったけれど。
まさか鳥に攫われるなんて。
このまま鳥の餌になるのはごめんだけど、下手に暴れて落とされても地面に落下して死ぬだけなんだよ。
さっきパニくってた時は必死に藻掻いてしまったけど。
もう、暴れるのは止めた。
もう、10才の体の僕は体力が尽きていた。
そして
もう、僕の住んでいた村は見えなくなってしまった。
もう、帰る事はできないのかもしれない。
もう、生きることはできないのかもしれない。
絶望。
前の人生では感じることの無かった感覚。
せっかく前世の記憶蘇ってもここで終了?
家畜よりも確かに体重軽いけどさ、子供捕まえて飛んでる鳥って!
上昇気流に上手く乗ってるのか、それとも何か不思議な力が働いてるのか、鳥は僕を掴んだままどんどん上昇していく。
駄目だ、だんだん息苦しくなってきた。
そして僕は意識を手放した。
「あれ?ココドコ?僕まだ生きてる?なんで?それとも死んじゃった?」
目が覚めたら僕はまだ生きていた。生きている安心感で泣いた。涙が止まらない。
あの馬鹿でかい鳥に美味しく頂かれることもなく、体は掴まれたところは大きな痣になってたけれど、擦り傷以外の怪我は無かった。
「あの鳥の巣かな?にしては変だな?」
ようやく涙が止まった後、キョロキョロと周りを見渡す。
なんか巣の形はしてるんだけど、場所が。
木の上とか崖なんかじゃなく、建物の屋上っぽい…?
いやいや、そんな馬鹿な。こんな建物とかないだろ。まさかでも塔の屋上っぽく感じるのは気のせい。うん、きっと気のせい。
まだ混乱してるな、僕。今の状況に思考が付いて行ってない。
こんな時こそ深呼吸だ。落ち着け、落ち着くんだ。落ち着けって。
っていうか。
こんな状況で落ち着いていられるか!!!
『ピーちゃん?』
ん?
『ピーちゃん?』
女の人の声。
「ピーちゃん?」
巣から顔を出してみると、そこには紫色のローブを着た女の人がこっち見てる。
「え?ひと?なんで?貴方どこから入ってきたの?」
入ってくるも何も、鳥に攫われてきたんですが。
とりあえず巣から降りよう。イテテ。身体動かすと全身痛い。
巣から降りると紫のローブに人が近づいてきた。
「あちこち怪我してるみたいね。色々聞きたいこと有るんだけど、とりあえず治療してあげる。」
そう言うとお姉さんは僕の頭に触れた。
20歳は超えていないだろう、お姉さんは長い黒髪を後ろで纏めている。身長は僕より頭一個も違わないからあまり背が高い方じゃないのかな。
僕の頭にお姉さんが何かつぶやくと、さっきまで体のあちこちで感じてた痛みが消えていった。
ま、まさか!
「い、今のって、もしかして魔法?」
お姉さんはにっこり笑って
「そうよ。もしかして魔法見たの初めて?」
うおおおおぉぉぉぉ!初魔法キター!
「で?なんでこんな所に居るの?」
お姉さんの質問に素直に答える。
「鳥に…攫われて。」
お姉さんは両手をポンって叩いて、
「鳥?あぁ、ピーちゃんに捕まっちゃったんだ?」
「ピーちゃん?」
「そう、私のペットのピーちゃん。じゃ、貴方はピーちゃんの餌なのね?」
「いやいやいやいやいやいやいやいあy」
「冗談よ。」
いや、洒落になってませんて。お姉さん。
次こそはだんじょん入りたい。