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星の森



「寒くない?ちゃんと暖かくした?」


 少し日が陰りを見せる頃、私達は出発した。

 人通りの多い駅までの道を手を繋ぎ寄り添って歩く。

 この時期は街も人もキラキラしていて、見ている私はいつもウキウキする。


「楽しそうだね」


 貴裕さんはクスクス笑いながら私を見ている。


「楽しいですよ」


 だって本当に楽しいんだもの。

 前までは近所のイルミネーションを見てもこんなに楽しくなかった。

 昔のことをを思い出してちょっぴり苦くなるだけ。


「どうかした?」


 今度は心配そうに私の顔を見ている貴裕さん。

 考えていたことが思いっきり顔に出てしまっていたらしい。

 私は、何でもないと首を降りつつ改札通り抜けた。


 今年のクリスマスは祝日の関係で三連休になった。


 貴裕さんは最初、いいランクのホテルか、いいところのレストランでも予約をとろうとしていたみたいだけど、私がそんな無理して出かけなくてもいいです、って言ったのだ。

 三連休で、クリスマス、そんな日にいいランクのホテルやレストランなんて値段が張るだろうし、人が多いはずだ、 週末とは言え年末の忙しい時だからお家でゆっくりした方が絶対にいいと思う。

 最初、貴裕さんは食い下がったけど、最終的には私の提案に従ってくれた。

 だからって訳じゃないけど、ちょっとだけ出掛けようって事になって、だったらイルミネーション見に行こうかって決まった。

 家の近所もそうなんだけど、年末近くなると都内には至る所にイルミネーションスポットが出来上がる。

 その多さはツアーができるくらいで、全部を見ていみたいけれど時間がかかる。

 場所によるけど、来年までライトアップしている場所が結構あるから期間内に見に行けばいい。


 目的の駅で降り、まずは近くの広場で開かれている小さなクリスマスマーケットに向かう。

 規模は小さいながら、軽食の屋台や伝統的なクリスマスのオーナメント、珍しい外国のおもちゃやお菓子にワインやビールなんかも売っていた。お菓子もお酒もクリスマスデザインのパッケージになっていて、とても可愛い。

 ちょっと重くなるけど、白ワインとクリスマス限定ラベルのビールと、ガラスで出来た星と小さな天使のオーナメントを買った。

「オーナメントは玄関先に飾ろう」と貴裕さんが言ってくれた。どんな風に飾ろうか、今から楽しみだ。

 一通り買い物を済ませ、軽食の屋台で売っていたホットワインで暖を取りながら、ゆっくりと歩き出した。


 いつもこの時間にはゴーストタウンになってしまう場所にあふれんばかりの人がぞろぞろと歩いている。

 両脇の街路樹はすべてイルミネーションがついていて、皆その光の道を進んでいた。

「すごい…」

 どこまでも続く光の道。

 一つ一つの木についている電飾が星のように瞬いていた。まるで星で飾られた街路樹。

「すごいねぇ…」

 私の言葉に同意して、貴裕さんも感嘆の声を上げる。


 通りには有名なブランドショップが並んでいて、ショーウィンドウは控えめだけどクリスマスをイメージしてディスプレイされている。

 貴裕さんはどうしてもそっちの方が気になるらしく、ちょっと立ち止まってお店の中を覗いてみたり、携帯でこっそり写真を撮ってみたり、どこにいても仕事のが頭から離れないんろうなって苦笑いした。


 そういえば付き合って間もない頃、どこまでも手を離さず私を引っ張って行っちゃう貴裕さんだったけど、最近は私の手を離して行ってしまう。それがちょっぴり寂しい。

 拗ねる気持ちが無いわけじゃない、でも仕方ないよね、貴裕さん仕事が好きなんだもん。

 途中で気が付いた貴裕さんに、ごめんと謝られ、私は苦笑いで、いいですよと言いながら、人の進む方向にむかった。


 一駅ほど歩いたところで、どこかに寄って温かいものでも飲もうか?と貴裕さんが提案してきた。

 ホットワインも無くなってそろそろ暖かい場所に入りたい、貴裕さんの提案に賛成して、駅近くのコーヒーショップに入り、暖かい店内にほっとしながらメニューを覗く。

 これから夕飯が待っているから甘いものって感じじゃない、でもちょっぴり甘いのがいいな、何て考えていたら、貴裕さんに「悩んでるね」と笑われてしまった。

 だって仕方ないんだもん、なんてちょっと拗ねつつ、カフェラテにへーゼルナッツシロップを入れた物をオーダーした。


「仕事以外で来たの久しぶりだよ」

 空いていた席に落ち着いてお店の外に眼を向けている貴裕さん。

「私も久しぶりです」

 二人でここに来るのは初めてだ。私の会社はこの近辺ではないし、たびたび行くことも無い。

「駅の反対側にも同じようなビルがあるし、入っているショップも良さげだし、今度は明るいうちに来ようか」

「そうですね」

 こうやって二人の約束が一つずつ増えることが嬉しい。これから先、もっと増やしていけたらいいな、なんて思いながらカフェラテを口に含んだ。



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