8話
外に出ると何かに巻き込まれたり、何かが起こったり。
街は遠かったです。申し訳ないです。
文章構成と一部表現を修正しました。
緩やかな丘陵地帯をアルと一緒に走り抜ける、額には汗がにじみ頬を撫でる風が煩わしく感じるほどに焦り、ひたすらに足を前へと運ぶ。何故朝からこんなにせわしく先を急ぎ街へと続く街道をひた走るのかを説明するには3時間前に遡り説明しなくてはならない。
プレゼントしたアクセサリーに朝から上機嫌なアルの姿が嬉しく、俺自身も上機嫌で街へ向かう準備をしていると、重要なアイテムが無い事を思い出した。
工房に急ぎ倉庫から綿と羊毛生地、黒い染料を持ち出し、昨日のアクセサリーの残りの銀と一緒に作業台の魔方陣へと並べる。
何を作りたいかと言うと、旅人の必需品である外套を用意してなかったのだ。
「旅人には外套は欠かせないよね。」と独り言を呟き錬金に取り掛かる。
出来るだけありふれたデザインで、フード付きの黒い外套は羊毛生地と綿の裏地で、留め具には銀で狼の意匠を刻んだコイン型のボタンを首元に配し、前を閉じ包まれる様に胸元と腰にもボタンを付けた。
装備と言うより衣類品なので、とりあえずは防寒や保温の付与などは今回は施さずに完成させると、足早にアルが待っているであろう部屋へと戻る。
アルは既に準備を終えておりイライラとしている様であった、ソファーに座りテーブルをトントンと指で叩いていた。
「遅いよ!何してたの?」と責められたが、苦笑いを返し外套をアルに渡し「コレを作ってたんだよ。」と答えると少し嬉しそうに立ち上がり外套を眺めていた。
「このボタン可愛いね、着てみていい?」と言われたので頷き姿見を持って来てあげると、綺麗な銀髪と黒との対比がナカナカさまになっていた。
少し全体的にラインがやぼったい感じもしたが、似合ってるよと笑顔で褒めるのは男の甲斐性だよね?
そんな一幕があり、亜空間から出ると銅の羽を使い迷宮の入り口ホールへと戻る。
まだ朝も早いはずだが、探索者のパーティーが3組ほどホールで打ち合わせを行っていたり、探索者相手の行商人が露店の準備などを行っていた。
俺とアルに周囲からの注目が一瞬だがあったが、スグに視線は逸らされた。
ここでこんなに人を見るのが初めてだったので、しばらく眺めていると一組のパーティーが泉の横にある石柱に触れ姿を消した。
「おぉー!」と小さく声をあげ驚く俺は、(ああして祭壇まで戻るんだな。)と疑問に思っていた祭壇の使い方に納得がいった。
ホールに出される露店が同業なのでとても気になったが、(今日は我慢だ、次回にしよう。)と自分に言い聞かせ迷宮から久々に外の世界へと足を踏み出す。
眩しく降り注ぐ日光と吹き抜ける風が心地よい、天気に恵まれた良い日だった。
空を見上げた俺の気持ちまでも晴れ渡った気がした。
隣で眼を細め大きな伸びをするアルを見て、(アルの白い肌が焼けるの嫌だなぁー、日焼け止めクリームって売ってるかな?なかったら作ろ)なんて関係の無い事まで考えながら、丘陵地帯を貫く様に街まで続く街道を歩き始める。
和やかに他愛も無い話を横に並んで歩くアルと交わしながら歩いていると、3つめの丘にさしかったあたりで状況は一変する。
前方の丘の上から黒煙があがっており何事かとアルを見ると、アルは顔をしかめ苦い表情で教えてくれた。
「モンスターが人を襲ってるんじゃなくて、複数の男が2人の女性を襲っているようだよ、せっかく気分も良くて楽しかったのにね、ホント興ざめだよ。コウどうするの?助けとく?」
驚きの事実を良くある事と平然と言い、面倒事は無視しよう的な発言に驚くが、アルは精霊だし探索者を支援はすれど、一般人にまでわざわざ関わろうとは思わないのかもしれないと納得した。
自分も知り合いなら助けようとも思うが、見ず知らずの人間を助けるほど余裕は無い、だが自分の正義と信念の中に「女性を傷付けない。」と言った誓いがあるし、今の俺には力も有るので見て見ないフリはしたくなかった。
「いやいや、助けてあげようよ。知ってしまったら無視できないでしょ?人間相手に力を振るうのは嫌だけどね。」
「アルが嫌なら丘の上から状況を確認して襲われてる2人が逃げれそうなら無視するでもいいよ?」
(ここが妥協点かなぁー、)と考えているとアルから答えが返ってきた。
「駄目だったら助けるんだ、この世界じゃ当たり前にある事だよ。コウの優しいところ好きだけど、この世界じゃ辛いだけだよそんなじゃ。弱肉強食強ければ生き、弱ければ死ぬ。ってコウの世界の書物にも書いてあったよ?」
アルはどうやら明治維新を生き抜き政府に裏切られた人斬りの包帯男を知っているようです、いつ読んだの?
そんな事はさて置き丘の頂上に急ぎ、襲撃現場を確認すると一台の馬車が燃えており、倒れた馬?馬のような生き物から無数の矢が生え血溜まりが広がっていた。
襲撃者達は全員で10人で、全員が格好を見て解るぐらいにイメージ通りの山賊であった。
女性二人の抵抗が激しかったのか3人が倒れ残りの7人が二人を囲う様に展開しつつあった、女性二人はお互いを庇い合う様背中を合わせ、お互いの死角を補いつつも囲まれないように徐々に後退しつつ、稲妻と炎の矢を手の平から山賊目掛けて放っていた。
明らかに二人は一般人では無いよね?、聞いていた魔法ではなく、今眼にした魔法は正しくイメージ通りの戦闘魔法で、感動し感激のあまり俺は放心た。
「私の知らない魔法だ、、、あれって人間だよね?」とアルが呟き、俺は正気に戻り、目の前で行われている生存競争眺めている。
やはり数の暴力には敵わないのか、矢を一人の女性が受け負傷し後が無くなった様だ。
(これはもう手を出すか。)と思い、腰からファルカタを抜き構え、アルに声を掛ける。
「アル、あの女性たち助けるよ、俺が突っ込み切り開くから弓で援護と出来れば殲滅もよろしく。」言い終える前に俺は走り出すがアルは了解してくれた様で、弓を構えるアルの姿を振り向き確認すると俺は、剣を振りかぶりソニックアタックの射程距離まで無心で走る。
後ろからアルの放つ矢が風を斬る音だけを残し、俺を追い越し女性に手を掛けようとした男の頭を射抜く。
「この距離でヘッドショットとか命中力補正とか関係なく腕良すぎるだろう!」と突っ込み射程圏内に入った俺は、山賊達に飛ぶ斬撃を放ち命を刈り取る。
傷口から血飛沫が飛び、苦痛に顔を歪ませた男が崩れ落ちる様を目にし、心の奥底に封じ込めていた真っ黒な感情と怒りが溢れ何かが崩れた。
何かを失った俺は口角が自然と上がり知らない内に声を上げ笑っていた、そして目の前で群れる山賊達がただ邪魔で憎く殺したくて仕方がなくなる、そして視界が暗転したかと思うと記憶が飛んだ。
気が付き最初に見たものは、正気に戻った俺を恐怖の表情で見つめる女性だった。
自分の姿と周囲を見ると、血に塗れた自分と惨殺現場がそこにはあった、首を刎ねられた遺体、腕や足を失い胸から血を流すモノ、頭を割られ白く濁った脳漿と脳をぶちまけたモノなど、到底人がする事には思えなかったが、手に持つ血に濡れた剣や返り血に染まった自分の姿が現実をつけてくる。
そんな俺の心から込み上げて来るのは吐き気や悲しみでなく、歓喜の感情であった自分が怖いと思うが、結局自分はあの事件の後も何も変わっていなかったのかと思っただけだった。
気持ちを切り替え、震えながらも俺に向けて手を翳す女性は負傷した女の子を抱き抱え庇いながらこちらを睨んで目を離さないでいた。
「どうやら命は無事だったようね、あなた達運が良かったね、もう大丈夫よ。」
後ろからアルがやって来て声を掛けた。
女性はアルに視線を向け確認すると少しだけ警戒を緩めてくれたので、俺は外套の下で腕輪からポーションと包帯を出し、女性に差し出しながら声を掛ける。
「驚かせたみたいでごめんね、怪我大丈夫?」出来るだけの笑顔をおまけに付けて向ける。
「ありがとうございます、助けていただいたのに、、、ごめんなさい!」
「いいよ、それよりその子の治療しなきゃ、コレ使ってね。」アイテムを押し付けると受け取った貰えたので俺は満足しアルの方へと足を向ける。
背後から聞こえた
「すいません助かります、セレナもう大丈夫すぐ手当するから我慢してね。」
「シルビアお姉ちゃん、私も大丈夫だから、そんな顔しないで。痛っ、、、!」
そんな姉妹のやり取りを背で聞きつつ歩み寄ると、アルが話しかけてくる。
「さっきのコウ凄かったねー!でも派手にやりすぎだよ。私の出番ほとんどなかったしー。」とすこし拗ねた表情で言い俺は意外な反応に戸惑い
「怖くはないの?俺の事が」と思わず聞き返す。
「うん?何でコウを怖がるのよ?、迷宮の魔物も生き生きと殺してたじゃん。」アルは流石に自然界で生きる狼の精霊でした。
殺し殺されるのが、当たり前の自然の摂理と思っているようで、その考え方は自分にとっての理解者になりえると思い、そんな貴重な相棒の存在が確認出来て嬉しく自然と笑顔になった。
「そうだよね、魔物と人の違いはあるけど、襲う者は襲われる覚悟もしなきゃね。」
「まさにこの世は」『弱肉強食』とハモって笑い合える日が来るとは思いませんでした。
そんな事をしていると向こうでは治療も終わったようで、笑い合う俺達にシルビアと言う女性が声を掛けて来たので振り向き対応する。
またお礼責めになるが、それは今回無視して何故襲われたか、何処へ向かうのかを俺が聞き、アルが姉妹の使っていた魔法について質問していた。
そんなやり取りをしているとアルが急に振り返り遠くを眺め顔をしかめた。
「どうかしたのアル?」と聞くと
苦い顔のアルが「厄介事がまたくるみたい、大勢の人間達がこっちに向ってきてるよ。」といい、何者がと聞き返すと山賊達の本体がコチラに向かっていると言うので、冒頭に戻るわけです。
行き先はこの街道の先アフレッド王国首都と同じだったので、姉妹共々山賊の襲撃から逃れるためただ今逃亡中です。
ただ街にお出かけするだけだったのに。。。何故こうなった!と心の中で叫びながら街道を逸れ少し先に見える林に逃げ込むのでした。
彼の思考は現代では異端です、平和、平等偽りの理想が覆い隠す真実の一つを叫べば群れを追われます。
何故そうなって何が有ったかはいずれ。
何かと不幸や幸運が来るのは主人公補正です、本人はサポートに徹して生きたいと今は思っているのに。