壱章【3】
沈黙が流れる副長室では、様々な表情を浮かべた五人が顔を合わせていた。
怪しい二人を訝しげに睨みつける、二枚目の美丈夫、
鋭い眼光を向けられ、目に涙を溜め震える風、
その隣では、不満げに顔を顰める悠希、
対照的な悠希と風に、不思議そうに二人を見比べる厳格だが穏やかな風貌の中年の男性、
そんな様子に、楽しげに見物している先程の青年。
「――なんか、言いたいことあんなら言えよ!」
場の空気に耐えきれなくなった悠希は、正面の二枚目に掴みかかる。
「ちょ、悠希先輩! 落ち着いて下さいっっ!」
顔を青ざめて抱きつき、なんとか暴れだしそうな悠希を宥める。
「だってよぉ、呼んどいてなんだこの態度は!? 失礼窮まりねぇ!」
文句を言いながら、素直に元の位置に戻る。
「用がねぇなら、元の世界に返せ! 馬鹿ヤロー!」
「この人達には、関係ないですよ!」
「返せっ! ここは、私の来るトコじゃねぇんだよ!」
ずっと、溜めていた行き場のない思いが爆発する。
初めて見る余裕のない悠希に、戸惑いながらも必死に宥め落ち着かせようとする。
そんな悠希を、残りの三人は目を丸くして見ていた。
「返せ! 私を返せっっ!!」
既に、理性を失った悠希にしがみつく風の視界に、紅いものが入ってきた。
「……!」
一瞬にして、背筋が凍りつき、息が詰まるのを感じた。
それは、さっき土手に置いていった紅の太刀だった。
「返せよ……」
悠希の手が、紅の太刀に伸びる。
このままでは、斬り合いになってしまう。
理性を失った今の悠希では、勝てるはずがない。しかも、相手が新撰組では当然歯が立たないはず。
何としてでも、闘いだけは避けなければ。
「悠希先輩、すみませんっ……」
首に手刀を入れた。
「ぐっ……」
小さく唸ると、悠希は力なく風に凭れ掛るように気を失った。
そっと悠希を横に寝かせ、前を見据えた。
「騒がしくして、申し訳ありません……」
震える手をぎゅと膝の上で握りしめ、弱々しく頭を下げた。
「気にしなくて良い。頭を上げてくれ」
中年の男性は、優しく微笑んだ。男性の言葉に、ゆるゆると頭を上げた。
「私は……、西野風と言います。こちらが、私の先輩の……東雲悠希です」
「ご丁寧にどうも。儂は、壬生浪士組局長の近藤勇です。こちらは、副長の土方歳三……」
「勝っちゃん、こんな怪しい奴らに名を名乗る必要は無ぇよ」
人の良い笑みを浮かべ、紹介する近藤を遮るように土方は咎めた。
「っ……」
未だに、疑われていることを改めて知り、唇を噛み締めた。
「お前達はなんだ? 怪しいと思ったら、すぐに斬る」
すぐ横に置かれた鞘を手に取り、風を睨みつける。その鋭さに肩を竦める。
自分が、ここで未来から来たって言ったら信じてもらえるだろうか。
いや、信じてもらえないだろう。自分だって、最初は受け取られなかったから。
だとしても、うまく誤魔化せられる程口は上手くない。
どうしよう……。
とてつもなく、頭を抱えたい程悩んだ。
そういえば、近藤は懐の大きな男だったと、書物に書いてあった気がする。
ここで、勝負に出よう。風は、決心した。
久し振りに書きましたが、なんか展開が早いですね。
人物のキャラに、安定が無い……。
まだまだ、未熟ですね。頑張ります……、はい。