序章【2】
蔵に入ると、埃っぽさとカビ臭さにうっと顔を顰め、口元を制服の袖で押さえた。
少し中を歩くと、人一人隠れるのに丁度良さそうな隙間を見つけ、そこに身を潜めた。
暫くして、ガラ……と蔵の扉だ開く音がし、風は身を硬くした。
バクバク鳴る心臓音が、悠希にも届きそうなぐらい波打つ。
緊張からか、埃っぽさからか、無性に喉が渇いて仕様がない。
なんとか、喉を潤そうと唾を飲む。
「ごくっ……」
しかし、思ったよりも音が出てしまった。
沈黙な蔵の中で風を見つけるのに、それは十分過ぎるほどの手掛かりとなった。
悠希の動きが止まったのが、耳で感じた。
きっと、今ほくそ笑んでいるのに違いない。
「見ぃつーけたぁ」
言い終わると同時に、ドォンとすぐ横に大きな音が鳴った。竹刀を投げたのだろう。
「キャア!!」
悲鳴を上げながら、そこから飛び出た。
「あ……」
顔を上げると、自分を見下ろす悠希が立っていた。
「あはは。風、あとちょっとで逃げれたのにな」
悠希は微笑を浮かべながら、近くに立てかけてあった細長いものを手に取った。
「私ね……、始まった闘いは決着をつけないと気が済まない性分なんだ。大丈夫。軽~く小突く程度だから」
風を宥めようと、優しい声色で諭す。しかし、風の警戒は解かれない。
肌から感じるピリピリしたもの……殺気を密かながら感じていたからであった。
きっと、悠希は自分を目の前に試合を投げだされたことに怒っているのだろう。
逃げようにも、腰が抜けて立てない状況。
せめて、何かで攻撃を防ごうと手を動かすと、何かが手にぶつかった。
細長いもの。その正体を確認する。
「覚悟!」
突如、悠希が攻撃を仕掛けてきた。
もう確認する暇はない。風は、咄嗟に自分の頭上にそれを構えた。
――ガッ!
お互い、確かな手ごたえを感じた。
「――……くっ」
急に、悠希は苦しげに頭を押さえ倒れた。
「悠希先輩!?」
悠希が倒れたことに、風は困惑をした。
体調が悪そうな様子のなかった悠希に、倒れる理由がない。
もしかして、自分が何かしたのではないか?
先ほどの出来事を思い出そうとした時だった。
――ズキンッ
「うっ……。ゆ……き先、ぱ……」
頭を割られたような激痛に襲われ、風は意識を手放した。
力を失った体は、そのまま覆いかぶさるように悠希の上に倒れた。
意識を失った二人の体は、どこから現れた闇に包まれ跡形もなく消えていった。
――序章【完】
壱章に続く……。