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黒猫とご主人様の異世界物語  作者: 宮凜猫
一章 始まりの王国
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四話 諦めない、へこたれない

「──え?」


「ココアちゃん? 平気かい?」


「──え、と」


 真っ青な顔をしながら、ココアは膝から崩れ落ちる。アウルが心配して声をかけてくれるが、それどころではなかった。


 ──何だったのですか、あれは。


 そう、ココアの脳裏には不理解と恐怖が蔓延する。覚えている、体を砕くような痛みと、泣きたくなるほどにこちらを思いやり謝るアウルの顔。夢と言うにはあまりにも現実じみていたし、現実なら今自分が生きていることの説明ができない。


「ココアちゃん?」


「──ぁ、」


 アウルがココアにローブを着せ、目線を合わせてくれる。いきなり蹲ったことに不信感すら示さず。


「体調が悪いのかな? ──いや、もっと酷そうだね。話せないなら話さなくても大丈夫だけど……一度、場所を変えようか?」


 ココアが小さく頷けば、ココアの手を取ってアウルは引っ張ってくれる。その温かみにココアは少しだけ安堵した。過呼吸になりそうな不安感も、少しだけ薄まる。


「──ごめんなさい、アウルさん……」


「大丈夫だよ。話が出来そうでよかった」


「慣れて、いますね……?」


「魔法や能力の暴走で混乱してしまう子は多いんだ。魔力の暴発はしていないから、ココアちゃんのはそれとは少し違うように見えるけど」


「──わたしにも、よく分からなくて……説明も、難しいですし」


「話す気になってくれたらゆっくり話を聞くよ。それと、魔法の鑑定もしておこうか。能力の暴発という線も捨てきれない」


「何から何まで、ごめんなさい……」


「しんどそうな子の面倒を見るのは大人の仕事だよ」


「そう、でしょうか……」


「そうだよ」


 優しく諭し、アウルは人通りの少ない広場に入り、椅子へ腰かける。ココアもそこに座り、アウルに目線を向ける。ローブを脱いで、アウルに返せば、アウルの優しい視線とかち合った。だからココアは、


「──信じて、もらえないかもしれないのですが」


「うん」


「──さっきまで私は、ずっと遠くまで行って、変なモンスターに襲われて、殺されて……今、ここに戻ってきたんです」


 動揺して、上手く言えない。でも、それが事実だ。ココアにとっては、殺されたのに生きている不思議を飲み込むことも難しい。


「──なるほど……未来から戻ってきた、ということかな?」


「! はい、それです!」


 アウルがすごく賢いまとめ方をしてくれた。やっぱりアウルはすごく賢い。


「──条件は死ぬこと……そう考えた方が良さそうだね」


「え、っと……わたし、大丈夫ですか? なんか、すごく良くないことをしてしまったような気がして……」


「世界への影響という意味なら、いい能力ではないね。この国なら尚更だ」


「──そうですよね……」


 ココアが瞳を潤ませ、手を握りしめて俯く。死を乗り越えるということは、たぶん、すごくよくない。アウルは優しいから酷い言い方をしないが、悪い人が聞いたなら、悪い言い方をして、もっと、酷い──


「その能力のことはあまり人に話さない方がいいよ。『未来予知』だと言った方がいい」


「そうですね、そうします」


「それから……」


 アウルは言葉を切り、ココアの頬に手を伸ばす。ココアがそれを瞳で追えば、


「他にどんな魔法が使えるか鑑定をしよう。その能力はなるべく使って欲しくないから」


「──それは、わたしが痛い思いをするからですか?」


「うん。子供が痛い思いをするのは好きじゃないんだ」


 アウルはそれだけ言って、ココアに手のひらを向ける。その手のひらからは光が淡く滲み、ココアの体内と温かさで繋がった。そして、瞳を伏せたアウルの旋毛をココアが見つめて数分が経ち、


「──うん。大体はわかったかな」


「えっ、わたしどんな魔法使えますか!?」


「──元気だね……今の君は、心理的なトラウマで怯えてしまっていても不思議じゃないんだけど」


「さっきまではすごく怖かったのですが、アウルさんがわかってくれているって思ったら平気になりました!」


「強い子だね、君は」


 アウルが苦笑いをすると、ココアはそれをわかっているのかいないのか、満面の笑みを返す。アウルはそれに少しだけ瞳を細めて、


「ある程度全ての魔法に適性があるね。でも、得意なのは氷魔法かな? でも、この適性はすごいね。まるで、魔法を使うために生まれてきたみたいだ」


「魔法って何種類あるんですか?」


「細かくわけていくとキリがないけど……火魔法、水魔法の延長線に氷魔法、風魔法、土魔法──主に使われているのはこのくらいかな」


「わたしは全部使えるんですか?」


「使えるよ。でも、最初は苦戦するかもしれないから、魔法を出して体に異常が出たらすぐに魔力は引っこめること。いいね?」


「はい、わかりました!」


 元気よく手をあげれば、アウルが「よくできました」とココアの黒髪をふわふわと撫でる。ココアはそれににこりと笑顔を返し、少しだけ空気が和らぐ。


「あと、身体能力が人並み以上に高いね。この分なら、魔力は全部魔法に回せそうだ。あと──」


「あと?」


「──固有能力があるね。死ぬことをトリガーとしてタイムリープを起こす能力……趣味の悪い能力だ」


「それは……」


「ココアちゃんが好きに見られるように魔法と能力の見方を後で教えるね。これは、君が理解しておくことが必要そうだ」


「──はい、分かりました」


「──とりあえず、君の探し人を探すことを優先しようか。積もる話もあるだろうからね」


「はい、お願いします!」


 ココアは勢いよく頭を下げ、立ち上がる。その瞳には、一点の曇りもなく。


「──待っていてくださいご主人様、たとえわたしがどれだけ血を流すことになっても、あなただけは……」


 ──必ず、お守りしてみせます。

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