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乙女ゲーの嫌われ悪役令嬢に転生したけど、主人公の強奪? 婚約破棄? 追放&処刑? 全ルートそっちのけで魔王RTA始めますわ。

作者: つきなみ。

「おはようございます、リンディお嬢様。入学式の支度準備は完了しております。ご起床くださいませ」



「——嫌よ、ミリエナ。私はアエール学園には行かないわ」



 私にとって、これは25回目の”入学式の朝”だ。

 見慣れた天井をいつものように睨んで、聞き慣れた台詞に食い気味に答える。


 25回目、なんて言葉に困惑する人は少なくないはず。

 誰かに話せば正気か疑われるだろう、いや実際に話したこともあったけど誰も私の能力を信じてくれなかった。


 私の能力は『タイムリープ』。


 何故かこの私にだけ与えられた力。



 それに初めて気付いたのは3回目の”転生”だった。

 確かに、目覚めに違和感と嫌悪感があった。死ぬ瞬間の記憶は、心地の悪い夢だと思っていた。

 だが、3回目の朝にそれらが全て現実だと気が付いた。



 そして5回目のタイムリープで、私の前世について思い出した。

 いや、思い出してしまった。


 私が今いる世界は、前世で大好きだった乙女ゲームの世界らしい。

 理由? そんなのは分からない。


 でも確かにここは、週1しか休みがないようなブラック企業に務める私にとって、唯一の趣味とも言えた大好きな乙女ゲームの世界。住人と話して、それだけは確信を持てた。


 でも、この世界に生まれ落ちた私はこの乙女ゲームにおいて、超嫌われ役の悪役令嬢だった。

 レビューでも散々な言われようだったこのキャラに同情をした…覚えもなく、私も憤りを感じていた記憶がある。



 それを思い出してから。正確には6回目のタイムリープからは謙虚に生きることに決めた。


 主人公にも、周りのヒロインにも優しく接した。けど、ヒロインたちからの嫉妬や、婚約破棄やら、国を裏切ったなんて意味のわからないことを言われて国外追放や処刑etc…結局どう頑張っても、どう謙虚になっても、悪役令嬢である私が死ぬルートは避けられなかった。



 10回目にして、私は家に引き籠ることにした。

 でも結局死んだけどね。


 そのタイムリープでは、余命半年と宣告された後に死んだ。入学式から1年後には、どうやっても余命というタイムリミットで死ぬらしい。私は心底絶望した。そんな余命宣告ルート、私は知らないぞ。




 本来この乙女ゲームは主人公である王太子、エルディが勇者となり、優秀なヒロインたちを引き連れて魔王を討伐する、という少しファンタジー寄りのシナリオをしている。

 ちなみに魔王討伐は学園入学から3年後の話だ。


 主人公に関わればどう頑張っても死ぬ運命の私には、全く関係の無い話だと、諦めていた。


 絶望の最中。

 私は気が付いてしまった。


 13回目のタイムリープで、私は決断した——。


「それならエルディが勇者になる前に、私が魔王を倒せばいいのではないか?」


 と。

 理由は主人公(勇者)が魔王を討伐すると、願い事をなんでも一つ叶えてくれるという設定がおまけ程度に存在した。

 各ヒロインの攻略、ハッピーエンドを目的としたこのゲームにおいて、それは本当におまけ程度。どうせ願うことも大してなかったわけで。


 でも、この私の人生にとっては生きる唯一の可能性とも取れる。


 とはいえ、魔王の討伐は簡単ではない。

 もちろん、やるとなると次から次へと課題が増えた。何度目かのタイムリープで理解した。


 まず、余命1年と決まっている私には時間が無い。

 仲間やアイテム集め、なんなら魔王の住む城に行くまでに死ぬこともあった。


 ゆっくりと、それを暗記して、効率化して、最短ルートで魔王城へと向かうことに専念した。

 試されたのは私の知恵だった。



 そして。24回目のタイムリープにして、それは成功の一歩手前まで差し掛かった。

 だが、そんなに魔王は甘くはなかった。


 魔王へ最後のトドメをさそうとした瞬間、見たこともない魔術で、私を含めた仲間全員を巻き込んだ。


 綺麗な相打ち。

 いや、魔王による命懸けの自爆だった。


 やっとの成功が見えた瞬間だったこともあってか、死んだ時の絶望はいつもより大きかった。

 だが、すぐに理解した。それはある意味私の旅に終わりが近いことを示している。



 25回目の転生で、私は決着をつける。

 問題はあの自爆に耐える術があればいいだけ。24回繰り返した1年の中で、人脈は広がった。


 私の頭の中で、とっくに最適な人物の見当はついている。



 私は困惑する侍女ミリエナに向かって、前回と同じように言い放つ。


「ミリエナ! 魔王を討伐するわよ、着いてきなさい!」



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 魔王城のルートは全て暗記している。

 本来であれば、国立図書館の地下。隠し扉を抜けた先にある部屋に魔王への地図は隠されている。


 ゲームをプレイしている時も、それを見つけるのにかなりの時間を費やした。

「本当に乙女ゲームか、これ」なんて思うことも、何度かあった。


 場所は分かっているが、タイムリープの度に行くのは馬鹿馬鹿しい。

 2回目のループで完璧に地図の暗記に成功した。自分で言うのはなんだけど、私は天才である。



 とりあえず行き方さえ分かれば、あとは仲間と必要なアイテム。

 アイテムは逃げない。金と店の場所さえ把握していればいいだけ。


 問題は仲間だ。

 仲間にする人物は決めているが、毎日同じ場所にいるわけではない。


 とりあえず探しに行くのは剣士のシグル。傭兵をしているので、仲間にするには金さえあればいい。だが、活動的なため、見つけるのは至難の業だ。

 シグルが拠点にしている村は王国から少し離れた辺境ある。村人たちから聴取し、場所をある程度特定する。


 何故最初からこんな辺境に来て、こいつを仲間にするのか。

 理由は簡単、強くてイケメンだから。


 これから仲間にする回復術師エマと、自由奔放な魔女 リーレに懐柔するには、このイケメンは必要不可欠であると私は数回のタイムリープで把握した。


「よろしく頼んだよ、シグル」

「おう、報酬さえもらえればなんでも言うこと聞くぜ」


 見つけさえすれば、傭兵のシグルを仲間にすることは容易い。



 次に探すのは回復術師エマ。住んでいるのは南の国の、とある小さな教会。

 村人たちの癒し手でもある彼女を連れていくのは難しい。村人たちの反対もある。

 それに、エマ自身も魔王討伐なんて行きたがらない。


「好き! 結婚しましょう!」

「よし、仲間になったな」


 でも、それはシグルがいない場合の話である。

 シグルさえいればこいつが仲間に引き入れる中では一番チョロい、ってのはここだけの話。


 馬鹿で単純だけど、何度か目にしているエマの回復術の腕は本物である。



 そして3人目の仲間は自由奔放な魔女リーレ。

 どこにいるかはぶっちゃけ分からない。本当に自由奔放だから。

 見つけられたらラッキー程度。


 でも、リーレの探知魔法と高火力の攻撃魔法が無ければ魔王城の突破は難しいのも事実。

 そのラッキーを引き当てるまでは、魔王城にはいけない。


「あ、いたぞ。あいつがリーレじゃないか?」


 街を適当に歩いていると、ほうきに跨って空を飛ぶリーレの姿をシグルが見つけた。

 どうせだし、シグルに任せる。



「おーい、お前! 俺たちの仲間にならないか?」

「イケメンだから私と話すことが出来るのよ、その顔に生まれてきたことに感謝しなさい」


 正直私はリーレが嫌いだ。


「ふーん、魔王討伐するんだ、いいよ。面白そうだし」


 まぁ魔王討伐するには仕方ない。

 感情論は一旦捨てよう。



 そして最後は、この国一番の武闘家とも言われるウォルドだ。

 実力はその二つ名の通り。何故こんな強いやつを仲間にできるのか。


 それはウォルドの父親が魔王に殺されたから。

 仲間になる動機は復讐である。


 単純だが、その動機は力を大きくみなぎらせる。魔王を目の前にしたウォルドはもはや最強だった。魔王に対して最初に致命傷を与えてくれるのも彼である。



 24回目のタイムリープで、私はこの4人が最適だと結論付けた。

 でも、最後のピースは足りなかったらしい。



 最後のピースは、かなり歳を食ったおっさんである。

 結界魔法の使い手アルノヴァ。


 冒険者の世界ではベテランの中のベテランで名前が通っているらしい。攻撃魔法は全く使えないが、結界魔法を応用して魔物を挟み殺すらしい。


 まだアルノヴァの戦いを見た事は無いけど、なんか強そうだし、シグルの長年の知り合いということもあってか、初めての誘いでもすぐに仲間になってくれた。

 シグルは本当に本当に優秀である……。



 仲間は5人。

 初顔合わせのおっさんをいるが、おおよそ10ヶ月で必要な仲間もアイテムも揃えることができた。


 いざ、向かうは魔王城。

 次こそは魔王を倒してやる。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 北の国の、さらに北。

 大瀑布を超えた先に、その忌々しい魔王城は存在する。


「あれが、魔王城。かっこいいですね!」

「少しは危機感を持て、エマ」

「むう、シグルも初めて見るんでしょ!」


 私はざっと15回目だ。

 あの中にいる魔王とは今回で12回目の対面となる。


 余命宣告の1年経たずとも、こうして魔王城へ到達することが出来た。

 早速、私たちは魔王城の中へと足を踏み入れた。



 入るとすぐに大量の魔物が襲いかかってくる。

 だが、今の仲間たちにとっては魔王以外は朝飯前。なんなら今は結界魔法の使い手アルノヴァもいる。回復に加えて防御まで兼ね備えている完璧なパーティー。


 そこから特に苦難もなく、おそらく過去最速で魔王の元へと辿り着いた。



「ふはは、お前が予言の勇者か? 少し予言より来るのが早いみたいだが構わん、望み通り殺してやろう」


「私? 私は勇者じゃありませんけど……あなたを討伐する人間です!」



 そこからはあんまり覚えていない。

 アルノヴァがいても尚、苦戦したのだけははっきりと覚えている。


「我の最終奥義を…何故…」

「んー、対策したからかな?」


 少し呆気なかったけど、私の魔王討伐RTAは終了した。

 目的は果たせた。


「あれ…? 願い事は?」


 だけど。

 見つからなかった。

 魔王の部屋をいくら探しても、いくら世界に叫んでも。


 願い事を叶えてくれる物も人も、現れなかった。


「みんな、ありがとう」


 25回目のタイムリープで少し理解した。

 私がこの世界に生まれて来た理由を。


 なんとなく。26回目がないことを察してしまった。

 シグル、エマ、リーレ、ウォルド、そして今回初めてあったアルノヴァ。


 みんなは覚えてないけど、私はみんなとの旅をはっきりと覚えている。


 悪役令嬢として。嫌われ役のヒロインとして。

 一人の救世主として。


 この物語に爪痕を残せただろうか。

 私はこの世界に生まれ落ちて、すごく幸せだった。



 ——みんなも幸せでいてくれると、嬉しいな。




 25回のタイムリープの末、私はゆっくりと。

 この世界に熔けることができた。


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